時の違う姿で君と話す
随分と長い間、この世界をたったひとりきりで歩く羽目になっていたと言うノエル。
孤独に潰されてもおかしくは無かった状況で、彼を支えてくれたのはひとつの女の人の声だったと言う。姿はわからない。ただ、話し掛けてくれるだけだったから。
ノエルはその声の主のことを気にしているみたいだった。
この世界に来てそれが心の支えになっていたというのなら、無理も無い事だと思うけど。
なんにせよ、今はもうひとりじゃない。
ここにはセラもあたしも、他にもたくさんの仲間たちがいる。
彼を気に掛けてくれる、気の良い人達がたくさん。
それに、元の世界から再会を果たしたのは何もあたしやセラに限った話じゃない。
ここにはライトやホープ、スノウ、面識がある人が他にも何人か。
だから今はそんな再会を喜びつつ、何人かでノエルを囲んで話に花を咲かせていた。
「ノエルくん、色々あったようですが、記憶はほぼ僕たちと一緒ですね」
「ホープが小さくてびっくりした。こんなのだったんだ、って」
記憶の話もしながら、ノエルは今のホープの姿を見て小さく笑った。
ノエルの知っているホープは大人のホープだ。
だから今の、旅をしていた時の子供の姿を見るのは今が初めてになる。
「大きくなってから知り合ったの?だからノエルくんって呼ぶのね」
「我々の世界でもリディアが成長しているのを見て驚いたものだ。事情は違えど気持ちはよくわかる」
そんなやり取りを見れば、他の皆も気になるだろう。
いつも礼儀正しく年上にはきちんとさん付けをするホープがノエルにはくん付けだった。
リディアはそこに反応し、それを聞いたヤンもどこか共感するように頷いていた。
実は結構ノエルが今のホープの姿見たらどんな反応するかって楽しみにしてたんだよね。
だからあたしは小さなホープの頭をぽふぽふと叩きながらノエルに笑った。
「えっへへ、かわいーでしょー?」
「それ、反応に困るな。ナマエ、ホープ微妙な顔してるぞ」
「まあ、可愛いと言われてもそんなに嬉しくは無いですよね」
「えー」
ちっ、可愛さの同意は得られなかった。
可愛いのに〜なんてわしゃわしゃと銀色の糸を撫でまわす。
「ちょっと」なんてホープに手を掴まれたからやめたけど。
「ていうかナマエも少し違うよな。そこまで大きく違うってわけじゃないけど」
「うん。あたしがノエルと会ったのはこの姿の3年後だからね」
ノエルに言われ、あたしはコクリと頷いた。
ホープほど大きな変化はない。
だけど少し、ほんの少しだけ君の知るあたしとは違う姿。
でも中身はノエルと旅したあたしだから。
やっぱり思い出せてよかったなって改めて思った気がする。
するとその時ノエルの隣にいたスノウもノエルに自分の姿を見るように言った。
「俺のこの格好も見るの初めてだろ!」
「スノウはあんまり変わらない。相変わらず無茶だ」
相変わらずの元気なスノウにノエルは軽くため息をついた。
それよか微妙に睨んでるような?
なんかこういうの見てると、結構ホープとノエルはウマが合うのではなんて思ったりする。
「…本当ノエルもホープもスノウには当たり強いよね〜」
「…スノウが無茶苦茶だからですよ」
「あははっ」
こそっとホープに小声で言ったらそんな風に返される。
それが可笑しくてあたしは笑った。
「そう怒るなって。こいつ、年下なのに口うるさくてよ」
「いつも誰かを庇って戦うスノウは元の世界でも同じだったのだな」
軽くノエルをなだめるスノウにヤンはあたたかい目で微笑み納得していた。
ノエルの方は「本当、セラに心配かけた」ってまた溜息ついてたけど。
まあノエルに関してはまだまだ皆気になる事がたくさんあるだろう。
例えば、旅のこと。
時間を超えて、と言えばそれだけで人の興味はくすぐられるものだ。
「ノエルの旅は時間の旅だったんでしょう?どんな感じだったの?」
だから案の定、そうリディアはノエルに尋ねた。
となれば、その話はあたしの方にも掛かってくるわけだけど。
とりあえずは尋ねられたノエルが簡潔に掻い摘んだ話をしてくれた。
「はじまりはライトニングに頼まれた事。歴史の乱れを正して未来を変える旅。…未来を変えようなんて、身勝手だったかな」
最後の方、ノエルは少し俯いた。
…ノエル…?
あたしは少し、その姿に引っ掛かりを覚えた。
「時間を超えられなくても大抵の人間はそのために生きてるだろ」
するとその声にフォローを入れてくれたのは意外や意外のスコールだった。
「お!スコールにしては熱い事言うじゃねえか!」
スノウがスコールに笑い掛ける。
でもそう言われたスコールの方はちょっと顔をしかめてた。
何にも言わないけど、多分心の中では言わなきゃよかったとかそんな事想ってる感じの顔だ。ちょっと可笑しかった。
まあ何にせよ、ノエルの人当たりを見ても皆その旅を否定するような事は言わない。
だけどノエルの方はまだやっぱり俯いていた。
「でも、そのせいでセラやライトニングは結局…」
「…セラと義姉さんがどうした?ふたりともピンピンしてるだろ?」
「ノエルくんらしくないですね。いつも明るく元気なのに」
セラやライトが結局…。
そう呟いたノエルにスノウは首を傾げ、ホープも気遣いの声を掛けた。
あたしも気持ちはスノウやホープと一緒だった。
ノエル、どうしたんだろう。
でも…なんだろう、やっぱり何か引っかかる様な。
「皆と話すの、苦手なのかなって思ったけど」
「全然!人がたくさんいるのは嬉しいんだ。…ちょっと、慣れないだけ」
リディアも気を使ってくれる。
ノエルはそこで顔を上げた。
周りに人がいてくれるのは嬉しいって。
ノエルの時代はもともと人が少なかったから会話もそんなに多くない。
だからちょっと人と話すのに戸惑う事もあるみたい。それを聞いたのは一緒に旅をしていた時だ。
「ずっとひとりで彷徨ってたんだもんな。疲れてても仕方ないぜ。本当は気の良い奴なんだ。仲良くしてやってくれよ」
「だから、兄貴分ぶるな!」
スノウがノエルの背を叩いて皆に言う。
ノエルはその手を払って怒ってたけど。
でも、そのやり取りは自然だ。
多分こうやって少しずつ調子を取り戻せればいい。
ちょっと気になる事はある。
でも確信が無いし、今は心に留めておいた方がいいかな、と思う。
それに今のノエルは人の多さに戸惑ってるのも事実だろうから。
「元の世界の仲間との時間でゆっくりと自分を取り戻すのがよかろう」
「そうだね!あたしたちにもまた話を聞かせてね」
「了解。俺は元気だよ」
ヤンやリディアはそう言ってくれた。
ノエルも頷いた。
本当、此処にいる人たちは気の良い人ばかりで居心地は良い。
人に慣れていないノエルだけど、此処でならちょっと安心できる。
なんかあたし、親みたい?でも早くなじめたらいいなって思うのは本心だし。
「無理のないように。ノエルくんは頑張り屋ですから」
ホープもそう優しく声を掛けた。
するとその時、あたしはスコールがそんなホープをじいっと見ている事に気が付く。
相変わらず彼は何も言わない。
けど多分これあれだな。コイツいくつなんだって思ってる感じだろう。
だからあたしもスコールをじっと見てみる。
するとふとスコールはその視線に気が付き目が合った。
「ふっ…」
「!」
その瞬間に小さく笑えば、スコールはぎょっとしてた。
それがちょっと可笑しくて、あたしはくすくすと大笑いするのを必死にこらえてた。
END