ラストハンター


この世界に来てから失った記憶があった。
だけどそれは取り戻せて、でも取り戻せたからこそ気になること…いや、気になる人がいた。





「ノエルは、どうしてるんだろう…」

「ノエルくん?」





ぽつっと呟いた名前にホープが反応してくれた。

ここには剣を使って戦う仲間がたくさんいる。
だから、同じような種類の剣を使って戦っている人と見ると、頭にぽっと浮かび上がる存在がいる。

あたしはホープに頷いた。





「うん、ノエル。ホープもノエルの事、思い出してるよね?」

「勿論。ノエルくんのこともちゃんと思い出してますよ」

「わーお。その姿でノエルくんとかすごーく違和感」

「ナマエさんが聞いてきたんでしょう」

「えへへ。だってちっこいんだもん。ノエル驚くよ、きっと」

「驚くって言うのはお互い様だと思いますけど?」





小さな姿のホープからノエルと言う名前を聞く。
ノエルくん、だってさ。なんだかちょっとおかしかった。

でも確かにホープの言う通りお互い様、か。

あたしもルシの時の姿。
ライトも、スノウも…でもきっと皆もノエルのことは思い出してるだろう。

そして、セラだけは…この世界に来た初めから、ノエルのことをきっと覚えてた。





「…まあ、さ、いつかはこの世界でも会ったりするんじゃないかな、とか思ったわけ」

「そうですね…僕もその可能性はあると思いますよ」

「だよねえ…」





ホープとそんな話をしたのが、ついこの間のこと。
だから余計に、気になってた。

本当に、本当に考えることが増えていたと思う。

だから、結構ビックリした。





「は!?誰!?」





それは、新しい街に辿りついて探索をしていた時のこと。
少し先にいたパインが珍しく声を張り上げているのを聞いた。





「何事だ!?」

「セリス、どうしたの?軍人みたいな話し方…」

「ああ、すまない…ごめんなさい。つい、この雰囲気だとね」





だからあたしはセラと、それとロックとセリスとモーグリと一緒にそちらの方へ駆け寄った。

セリスの雰囲気は何処か堅い。
その理由は今いるこの街の風景が元の世界の場所にそっくりだからなのだけど。

まあそれは今は置いておこう。

あたしはロックとパインの背に声を掛けた。





「パイン、何か見つけたのか」

「異常事態発生な感じ?」

「何かじゃない、誰か」





パインは振り返り、そう短く教えてくれた。

誰か、とな。
言われてみればパインの先にはひとりの人影がある。

一体誰だろうと、全員の視線はそちらの方に注目した。





「あ…セラ…ナマエ…、…よかった」





そこにいたのはひとりの男の子だった。
彼はあたしとセラの姿を目にすると、ホッとしたようにその表情を柔らかくする。

それを見た瞬間、あたしとセラは目を大きく見開いた。





「えっ、ノエル…!?」

「ノエル!?ノエルだよね!?」

「仲間なのクポ!?全然気配が無かったクポ!」





驚いたあたしとセラの反応を見てモーグリもまた驚いていた。
なんでもモーグリはこの街には意志もひずみも何の気配も感じることがなかったのだと言う。
それも逆に不自然だと少し探索をしてみることになったわけだけど…。

だけど、そんな街でまさかノエルと再会することになるなんて夢にも思ってなかったから。





「辿りついた…やっと…」





ホッとした顔。でもノエルの様子、なんだかちょっと変?
元気がないと言うか、疲れてるみたいな。

そう思った瞬間、ノエルの体はぐらりと揺れた。
そのまま力が抜け落ちる様に崩れていく。





「あっ!ノエルッ!!」





気が付いたのが功を成したかな?
あたしは咄嗟に駆け出し手を伸ばして、前のめりに倒れるノエルの体を間一髪で抱き留めた。

と言ってもギリギリだったし、力が抜けた男の子の身体を支えるのってかなり力がいるんだけど。





「うわっ…と」





だから踏ん張っても、一緒に崩れる様に座り込む。
地面に打ち付けない様にするので精いっぱいだった。

まあ頑張ったからそれはちょっと許して欲しい。





「ノエル!!ナマエ!!」





あたしと僅差でセラもノエルに駆け寄った。

セラはあたしに手を貸して、ノエルを支えるのを手伝ってくれる。
ふたりでそっと横たわらせたノエルはまるで張りつめていたものが解けたみたいに気を失ってしまっていた。

一方で、それを見ていたセリス、ロック、パインは回復できる人を呼びに行ってくれた。

その間あたしとセラは倒れたノエルについて、彼の状態を診ていた。





「ノエル…どうしてこんなボロボロに…」

「…あたしたちを見たとき、ちょっとホッとしてるみたいにも見えた」





セラと話す。

ノエルの体は傷だらけだった。
見たところ、周りに誰かいる様子もないし、たったひとりで戦ってたとか…?

なんにせよ、倒れるのってよっぽどだし、早く回復してあげないと。

セリスたちはエーコを連れてきてくれた。
エーコは得意の魔法でノエルの傷と疲労をみるみる癒していった。





「これで大丈夫よっ!すっごく疲れてたのね」

「助かった。えっと…みんな、マーテリアの戦士、だよな?」





エーコのおかげでノエルの意識はすぐに戻った。
自分を回復してくれたエーコにお礼を言ったノエルはあたしとセラを含めその場に居合わせた数名の顔を見渡した。





「だいたいはな。ここにいるのは皆味方だ」





質問に答えたのはロックだった。

でもそこで少し気になる問題。
今ノエル、マーテリアの名前を口にした。





「セラやナマエの仲間だったわね。マーテリアに会ったの?」





するとセリスが尋ねた。
やっぱりそこは皆が気になるところだっただろう。





「会ったのはだいぶ前。それからは世界が広すぎて…」

「マーテリア様に道を開いてもらえなかったクポ?」

「ひずみってやつは通った。けど、出たのは何もない砂漠。それからはずっとひとりぼっち。長い間…あんたたちを探してた」

「長い間って、どれくらい…?」

「わからない。何日も、何か月も。いや…何年も、かも」

「は!?何年!?」





セラが聞いて返ってきたノエルの彷徨っていた期間の答えにあたしは思わず声を上げてしまった。

いや、何日ならわかるよ。何か月だって、ちょっと長い。
それなのにもしかしたら何年かもと感じられるって相当おかしいじゃないか。

ちょっと大きめの声を出したから、ノエルの目がこっちを向いた。
するとノエルはくすっとあたしの顔をを見て小さく笑う。

…いや、何で笑ったし。

それは相変わらずだって顔に見えた。
いや別にいいけどね。





「見たところ、お前、相当な使い手だろ?マーテリアはそんな戦力を迷子にしてたのか?」

「それはさすがにおかしいクポ!君はすっごく強い意志を持ってるクポ!意志と意志は惹かれあうのクポ!たとえちょっと迷子になったとしてもすぐにモグ達やスピリタスの戦士、どちらかに出会えるはずなのクポ!」





ロックの疑問にモーグリはそう驚いたように言った。

意志と意志は惹かれ合う。
だから誰かにはすぐに会うことが出来る、か。

どうやらそれがこの世界の理ということらしい。

でも確かにそうだったかも。

あたしも、気が付いたらこの世界の草原にひとり佇んでいた。
どうしたもんかなあ、なんてぼんやり考えて、だけどその時背中の方でホープの声がした。

何日、とかじゃない。すぐに会えた。
自分自身がそうだったから、ああいうことか…って、すぐに納得出来た。

でもノエルはそうじゃなかったって事なんだよね。





「さみしくなかったの?つらかったでしょう?」

「平気。慣れてる」

「ひとりぼっちに慣れてるの…?エーコと同じなの?」





寂しさに慣れていると言ったノエルにエーコは首を傾げる。

エーコは元の世界でずっとひとりで生きていた。
モーグリたちが傍にいてくれたけど、人間はエーコたったひとりだった。
それはエーコが生まれる少し前に村が滅んでしまったから。

でも、エーコはジタンたちに会えた。
余所の村、他の大陸には人々は生きていたから。

それが、前に教えてくれた生い立ち。

言われてみれば、似てる部分はあるのかもしれない。
だけどノエルの場合はまた少し状況が違った。





「ちょっと違う、かな。ノエルは…私たちの世界の人だけど、ずっと未来から来たの」

「そう。最後の人間。俺の時代で世界が滅びた」





セラが簡潔に説明し、ノエルも頷いた。

ノエルは滅びの時代を生きた、最後の生き残り。
それを聞くと、セリスにも思う事があったみたいだ。





「滅んだ世界で、たったひとり生き延びた…。それは…」

「いいんだ。俺はその未来を変える為、セラとナマエと一緒に旅をした」





セリスやロックの世界は力を手にしたケフカがめちゃくちゃにして崩壊した。
村は崩れて、大地は枯れて…。セリスはそんな大地をひとりで歩いた経験があるから、それを思い出したのかもしれない。

ノエルも、希望を求めてひとりで大地を歩いた。





「頼りにして良いんだな?」

「当然。狩りなら得意。獲物が何でも仕留めてみせる」

「上等だ。一緒に行こう」





ロックは気さくにノエルの声を掛け、笑顔を向けてくれた。

こうしてノエルも仲間に加わり、再び皆で歩き出す。
ノエルも、同じように。





「あっ…」





でも、そんなノエルの背中を見つめ、セラは少し戸惑ったように小さな声を上げた。
そんな声をノエルの耳はしっかりと拾う。

ノエルは足を止めた。





「…ノエル、大丈夫?」





セラはノエルの背にそう気遣うように聞いた。

ちなみに、あたしはセラの隣に立っていた。
だからちらりとそう聞いたその横顔を見つめる。

すると、ノエルは振り返った。





「俺は平気…」





ノエルの顔を見れば、ノエルはそっと小さく笑った。

体調のこと、辛い記憶。
心配することは色々あった。





「セラこそ…体調が悪かったり、しないよな?ナマエも、変わりないか?」





そしてノエルはむしろこちらの心配をしてくれた。
ああ、ノエルだなあってその時すごく思った気がする。





「私は大丈夫、だよ」

「ん、あたしも別に。元気だよ〜」





あたしたちは笑ってノエルの答えた。

セラは、元の世界での旅では少し気になるところがあったけど、こちらの世界ではそう違和感は今のところ見ていない。
んで、あたしは別に元だろうが此処だろうが変わりないし。

だからあとはノエルが元気であればもう何も心配することなんて無い。

それに再会は、純粋に嬉しい事だよ。

ノエルに会えた。
ずっとずっと気になっていた、そんな相手に会うことが出来たのだから。

それに、ここにはあの旅では叶わなかったものも傍にあったりする。





「じゃ、皆元気だね!ていうかあたしたちだけじゃなくて他にも元気な人いっぱいるんだけどさ」

「うん!ここにはお姉ちゃんやスノウ、ホープくんたちも、みんないるんだよ」





あたしとセラはノエルに他の皆もいることを伝えた。
あの旅では一緒にいることが出来なかった人達がいること。

それを聞いたノエルも、それは朗報だと顔を明るくさせた。





「へえ、楽しみだ。一緒に戦えるんだな」





早く顔を合わせたいと、ノエルは再び足を動かし始めた。
あたしも、それに続くように。





「あっ…ナマエ」





でもセラだけは止まっていて、あたしは呼び止められた。
だからあたしはもう一度足を止め、セラに振り返った。





「わかってるよ、セラ」

「ナマエ…」





あたしはセラに頷いた。
そう、セラが何を言いたいかはわかってる。

ノエルが元気であればもう何も心配することなんて無い。

でもノエルは無理をしているみたいだった。





「迷子の間に…なにがあったんだろ」

「わからない…。でも、ここからは一緒に行けるんでしょ?だったら助けになれること、きっとあるよ」

「…そう、だね。うん、そうだよね!」

「うん!」





ノエルが困っているのなら、支えになろう助けになろう。
それはあたしにとってもセラにとっても共通する想いだった。

まだ、悩みの種もあたしたちに何が出来るのかもわからないけど、ここからは一緒にいられる。
だからあたしとセラは頷き合った。

異世界での旅。
ノエルを加え、その歩みは再び再開されるのだった。



END
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