君に走り出す5秒前


信じられない話をします。
あたしは今、なんと異世界に飛ばされてしまったと言うのです。





「ナマエ、大丈夫?」

「うん。マテリアもちゃんと使えるし大丈夫だよ」





魔物に留めを刺したあたしに気遣いの声を掛けてくれたティファ。
あたしは笑ってティファに振り返った。

ここは、あたしたちが生きていた世界とは違う異世界なのだという。

元の世界の仲間であるティファ。
彼女だけ見ればなんのことも無い見慣れた話だ。

でも、経緯は違うけど、ティファもこの世界に飛ばされてしまっただけ。

ここにはあたしたちと同じように、また別の世界から飛ばされてしまった人たちがいた。
鎧の騎士とか、見慣れない学生服の子とか、魔法使いの男の子。明らかに文明の違う彼らだけど、言葉を交わして分かり合うことが出来た。

だからあたしたちは行動を共にし、元の世界に戻るためにこの世界の事情に詳しいモーグリに導かれて、歪みを閉じる旅をしている。

なんでもこの世界の歪みは放っておくとあたしたちの世界に影響を及ぼしてしまうのだとか。
んでもって、あたしたちにはその歪みをどうにかする光の意思ってのがあるらしい。

なにそれすっごーい!
その話を聞いたあたしの反応ってばそんなもんだった。

そしたらティファには「楽天的ね」って笑われた。

いやでも凄くない?異世界に、おとぎ話みたいな恰好の人たち。
訪れた突然の非日常にちょっとだけ胸が躍ったりしたのは事実だ。

まあでもそれはきっと多分同じ世界のティファがいたりとか、そういうのもあっただろうけどね。

しかしながら、元の世界が気にならないわけではない。
そしてその元の世界に、あたしはとっても大好きな人がいるのです。





「…どうしてるのかなあ」





思い浮かべたその人。

呟きはひとりごとだ。
風の音に負けてしまうくらい小さな声。

思い浮かべるのは、金色のツンツン頭。

空を見上げて考える。
そうか。元の世界なら目の届くところにいなくても、その空の下には必ずいたのだ。
でも今はいないんだなあ…なんて。

なんだか変なカンジ。

そんな時、WOLの何かを警戒するような声が聞こえた。





「誰かいるようだな。敵か、それとも味方か…」

「ちょっと待って!あれは…」





それに応えるティファの声もした。

誰かいる?
その言葉を聞いたあたしは視線を空からふたりの方に落として振り向こうとした。

でもその直前に、ティファにガッと肩を掴まれた。





「ねえ!ナマエ!!」

「うわあ!?ティファ!?ビックリした!」

「ナマエ!いいからちょっとあれ見て!」

「えっ、ええ!?」





ガシッと物凄い勢いで掴まれて、そのまま強制的に振り向かされる。ご、強引…!
しかもティファはそんなあたしの反応などお構いなしに早く指差す先を見ろと急かしてくる。

なんか理不尽!

でもティファが見ろと言うなら見ますとも。
なんか勢いに押し負けたとも言う感じだけど。





「ほら!あれ!あの金髪!」

「えっ…金髪?」





金髪。
それを聞いて少し何かを期待しただろうか。

いや、でもその期待は現実へと変わる。
ティファが指差した先を見てあたしは目を丸くした。

ティファの言う通り、そこには金髪の男の人が立っていた。

しかもそれは凄く見覚えのある面影。
いや、むしろ今まさに思い出していたあの後姿。





「ああっ!」





思わず大きな声が出た。
姿を見た瞬間、胸の奥からぐわあっと湧き上がってくる何かを感じた。

あの後姿を、あたしは凄くよく知っている。

この感情は嬉しいだ。
まどろっこしい物なんてない。ただただ嬉しい。

そう感じたらあとは一直線。
それは、君に走り出す5秒前。



END


クラウドが仲間になる直前。
多分続きます。(笑)
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