奇跡と無限の可能性


「案外、せわしなく過ごしていたようだな」

「うん、そーかも!珍しいスフィアを求めてね、飛空艇であっちこっち飛び回ってるからね〜」





アーロンに聞かれ、あたしはへらりと頷いた。

ダークイミテーションから輝きを受け取り失ってた記憶を取り戻すことが出来たあと、今、あたしはアーロンとふたりで話す機会を得ていた。
別にあえてそういう時間を作ろうとしたわけじゃないけど、でもそういう時間に恵まれたことは純粋に嬉しいなと、あたしは素直に喜んでいたと思う。





「スフィア?」

「うん。スフィアハンターカモメ団!きっかけは、ティーダによく似た男の子が映ってる凄く古いスフィア。だからその手掛かりを探してね、世界中を回ってたの」





シンを倒した後、ユウナは永遠のナギ節を呼んだ大召喚士としてスピラ中から崇められていた。
エボン教が崩れたスピラでは道を失う人がたくさんいて、ユウナに話を聞いてもらいたいとあちこちから人が訪ねて毎日毎日てんてこまいだった。

ユウナだって、胸の中にずっとくすぶってるもの…あるはずなのに。
それを押し殺して、ユウナは毎日過ごしていた。

少しずつ、少しずつだけど…皆、新しいスピラで幸せを見つけていく。
なのにユウナだけ、ユウナの時間だけは止まったままだったから。

あたしは、あたしやリュックは…そんなユウナの姿にもどかしさを覚えてた。





「あたしね、あの後リュックに誘ってもらってアルベド族の皆と一緒に過ごさせてもらってたんだ。だから飛空艇で新しい物語をはじめて、おかげでアルベド語も結構わかるようになったんだよ!魔法もちょっとは上達したし、あとでビックリさせてあげる!」





言葉はスラスラと、いくらだって溢れてきた。

見送った事、後悔してない。

でも、いなくなってしまった人のこと、懐古することってあるでしょ。
あの人が見たら、聞いたら。こう言う、思うだろうな…とかそういうの想像して、思い出して笑ったりすること。

あたしも時々思ってた。
アーロンに言ったら、聞いたら、見たら…ってね。

でもこの世界でなら、それを実際に言葉にして伝えることが出来る。
アーロンは穏やかに頷いてその話を聞いてくれた。





「…フッ、笑いは絶えんようだな。顔を上げて、前を見ている…か」

「うん!俯いてると思った?」

「いや?」





アーロンは笑みを浮かべながら軽く首を横に振った。

あたしは、アーロンがくれた言葉をずっと心に大事に刻んでる。
それはあたしの世界の景色を変えた思い出だから、きっと、この先の未来にどんなことがあっても忘れることは無い。

背を伸ばして、俯かないで。
…凛と、前を見つめて歩いていく。

あたしは、そうありたいと思った。

でも別に無理をしてるとかそういうわけじゃない。
あたしね、結構今の自分嫌いじゃないよ。

だけど、まあ、そうだな…。
あたしは胸に手を当てて、シンを倒して間もない頃のことを思い出した。





「いっぱい泣いたよ。あの後ね」

「……。」

「ふふふ。自分でもあんなに大泣きしたの、初めて」





シンが消えて、スピラはお祭り騒ぎだった。
戻ってきた飛空艇の中でも、アルベド族の人たちがそりゃもう大喜びしてた。

あたしは、そんな飛空艇の中を歩いて、ひっそりと…静かな小部屋でひとり佇んだ。
へたっ…て足の力が抜けてぺたんと座り込んで、胸の赤い石に手を当てた。





《…アーロン……、アーロン……アーロン…!》





とめどなく、涙が溢れた。
止めることなんて全然出来なくて、何度も何度も名前を口にした。
返ってこない事なんてわかってたけど、それでも止められなかった。

最後のあの瞬間は、笑顔を見せた。
涙は流さなかった。

だって最後に見せるのは、笑った顔が良いって思ったから。

まあ頬は震えていたし、変な顔になってたかもだけど…そこは言いっこなしだよ。

辛いものは辛い。
悲しくて、寂しくて、どうしようもなくてたまらなかった。

そりゃそうでしょ。
それは当たり前の話です。

本当、何時間ってレベルでわんわん泣き腫らした。





「…そうか」

「ふふ、悲しんでもらえないのもアレでしょ?」

「フッ、…そうかもな」





そんなことを言って、互いに小さく笑い合う。
それは本当に穏やかな空気。

本当、凄く不思議な異世界。
改めてそんなことを思う。

本当に、奇跡みたいな時間。
無限の可能性、だね。





「…なんにせよ、元気でやっているなら、それでいい」

「うん。元気元気。自分でも結構毎日楽しくやってると思うよ。だからね、この異世界も…今も、どうせなら楽しみたいわけ」





ニコッと、ちょっと強気に笑って見せた。
異世界の今この時、戸惑う事もあるけれど、どうせなら楽しまないと損だろう。





「ね、アーロン。あたし、アーロンと過ごして見えるようになった景色が好き」

「……。」

「その景色を見て歩く、今の自分が結構好き。パインが言ってたあたしが変わらないっていうのは多分そう言う意味」

「俺は何もしていないだろう。お前が自分で見つけた景色だ」

「ううん、そんなことないよ。本当にアーロンのおかげ」





ふふっ、と笑って。
ほんの少しは照れくさいけど、はっきりと言えた。

アーロンが少し目を丸くするくらい。





「あははっ!まあさ、あんなふうに別れといて…なーんて思う事もあるけど、どうせならまた会えて嬉しい、話せて嬉しい、それを目一杯楽しみたいじゃない?」

「……。」

「えーっと、こうやって背を伸ばして…うん!後ろ向きでは無いと思うよ?」

「ナマエ…」





背を叩いて教えてくれた。
背筋を伸ばして俯かないで、凛と前を見つめろ。

その言葉をちゃんと覚えていると伝えるようにあたしは姿勢を正して見せた。

この時間は、この世界だけの奇跡。
それはきっと、今だけの時間だ。

それはね、大切にしたい。

でも別に、永遠を望んでるわけじゃないんだ。
あたしは、それを求めてはいない。

例えばね、もしも…また、大切に思える人が出来たなら、それはそれで、きっといいのだろう。それもきっと、素敵な事。
聞いてないけど、でもアーロンもきっと…そう言うと思う。

だけどね、まだあたしの世界には、このおじさん以上の人はいないのだ。

この先に現れるのかも、わからない。

でも、それもそれできっといいの。
それはあたしにとって最高の人だってことだから。

エボン=ジュを倒した時、永遠なんて無いって立証した。

でももしもそうなったとしたなら。今の気持ちがずっとずっと積み重なっていったなら。
きっと、最後に振り返った時に…それをこう呼ぶ。

…永遠の愛、なーんてね。





「なんだ、じっと見て」





あたしはアーロンを見上げた。
じっと見ていれば、勿論なんだと尋ねられる。

目があった。
あたしはヘラっという笑みが自然と浮かんだ。





「へへっ、アーロンやっぱり格好いいね!」

「………。」

「あだっ!」





脳天チョップを喰らった。
なんで!?理不尽!!





「いったー!!なんで!!褒めたのに!!」





きゃんきゃん吠えたら背を向けられた。
そしてスタスタ歩いていくアーロン。





「ちょちょちょ!待って待って!置いてくな!」





あたしは慌てて追いかけるように駆け出した。
すぐ追いついて肩を並べる。

歩みはそのまま。
あたしはアーロンをまた見上げた。




「ふふふっ、照れた?」

「……阿呆」

「あほ!?」





酷い人ね!まったくもう!

でもこのやり取りは、とても慣れたもの。
とても自然な空気だ。





「アーロン、あとで魔法剣試そ!」

「試す?」

「そう!ブリザガ、サンダガ、ウォタガ!」

「ほう…?やれるのか」

「まっかせてよ!まぁ一番得意なのはやっぱファイガだけどね」




今だけの、異世界の奇跡。
あたしは今、この時間を全力で楽しむよ。



END


前memoか何かで書きましたかね?
もし10-2をやるとするなら、もうアーロンはいないけどアーロン以外を相手にするつもりは無い。でも影を追わせるつもりもない、みたいな話。

アーロン以外を相手にするつもりはないって言うのは書き手側の問題なので、じゃあそれに対して主人公がどういう心情なのかという答えが今回のお話になります。

アーロンじゃない他の誰かと生きていくこともそれはそれでいい。
でも今の時点ではそう思える人もいないしね〜、という。
もし一生現れなかったとしたら、貫い事になるしそれも素敵じゃん、と。

どっちがダメって話しじゃなく、どっちでも素敵ってことです。

アーロン的には、勿論他の誰かと生きることになったら少し寂しくはあるけれど祝福するって感じですかね?

説明へったくそでごめんなさい…。伝わったかな…。
まあどちらがいいかはお読みいただいている方の各々のお好みで!

とはいっても今回のオペオムでもアーロン以外を相手にするつもりは毛頭もないのですし、オペオムでは全部前向きに、今この事実を楽しもうというスタンスで進んで行きます。

まあ平たく言えばどうしたら変な引っ掛かりも無くいちゃいちゃ出来るかなって話ですよ!(笑)

あー、あとがきでごちゃごちゃごめんなさい。余計わかり辛くなった気がする。(笑)
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