蘇った記憶


ダークイミテーションは虚ろな存在。
だから闇の心にも染まりやすい。

以前、あたしたちが出会ったダークイミテーションには敵の意思に呑まれて同調してしまっている個体もいた。

だけど今回、あたしたちの輝きを持っているダークイミテーションたちは違った。

そこには敵意など無い。
ただ真っ直ぐに、あたしたちのことを思いやってくれる存在。





「俺にもまだ、忘れてる事、ある?」

「ある。すごく大事な事」





ティーダは自分のダークイミテーションに尋ねた。

彼の記憶はあの時…最後の戦いが終わり、夢が消えた瞬間で終わっているのだろう。
ティーダは言っていたから。自分がどうなったのか、覚えてるって。

あたしのティーダに関する記憶も、そこで終わってる。

だけどダークイミテーションは言うのだ。
まだ、大切な記憶があるのだと。





「私たちは記憶があっても何もできないから…。悲しむことも笑う事も、出来ない様になってるから」

「だから、受け取ってくれ。俺たちが大切に思っていたはずの記憶」





輝きを手にして欲しいと言うダークイミテーションたち。

でもユウナは不安がっているみたいだった。
知らない方が良かった、なんてことにならないかと。

でも、今傍にいる仲間たちが励ましてくれた。
大丈夫だからって、支えてくれる。

そして決めてとなったのは、ユウナ自身のダークイミテーションの言葉。





「前向きで、大丈夫だから」

「そうだった。パインにそう言われてたんだった。…うん!戦ってみるッス!」





今の自分の記憶にはない。
だけど、自分を想って、大切にしてくれるパインが言ってくれた言葉。

ユウナはそれを信じようとした。

だから、杖を手に取った。
輝きを手にするには、意志と意志のぶつかいあいが必要。
戦う決意は、記憶を取り戻す覚悟と同じ。

皆の力も借りて、本来の自分を取り戻す。

そしてそれは、ユウナとティーダだけじゃない。





「あたしも!ちゃんと思い出したい。パインのこと、未来のユウナのこと!」





あたしも、そう言って手を挙げた。

辛い事、悲しい事、たくさんあった。
だけどあたしは、前を見て歩きたいと強く願った。

ねえ、未来のあたしも…そう思って歩けてる、よね?

パインだって言ってた。
あたしは今も、パインの知るあたしも同じ景色を見てるんじゃないかって。
だから、未来の景色もちゃんと思い出したい。

そうギュッと胸の上で拳を握る。
すると、すぐ隣で声がした。





「俺にも、何か記憶があるのか?」





見上げると、それはダークイミテーションに尋ねるアーロンの声だった。





「はい。ほんの少しだけど、でもきっと力になります」

「そうか…。それは楽しみだな」





アーロンにもまだ記憶がある。
そうユウナのダークイミテーションは答えてくれた。

それを聞いたアーロンは笑う。
その言葉通り、何だかどことなく楽しそうだ。





「思い出がまだあるなら思い出したい。やるぞっ!」





ティーダが叫んだ。
そして、あたしたちは一気にダークイミテーションとの戦いに向かった。

意志と意志のぶつかり合い。

この戦いに勝った時、その輝きが…失っていた記憶が自分の中に戻ってくる。





「ファイガ!!ユウナ!」

「うん!ヴァルファーレ!!」





あたしは炎を放った後、ユウナに叫んだ。
ユウナは頷き、召喚獣の力を放つ。

それは、トドメの合図だった。

シューティング・パワー。
ヴァルファーレの光に当たりは包まれる。

意志は、示された。

戦いは終わり、輝きが溶け込むようにあたしたちの中に消えていった。





「この輝きが…ユウナちゃんの記憶か」





その光景にジェクトさんが呟いた。

呼び起こされていく記憶が広がった。
そう、どんどんと鮮明になる…それは、確かに大切な記憶だった。

広がる…。思い出す…。そうだ、あたし…また旅をしていた。
ユウナとパインと、それにリュックも一緒に。
スフィアハンター…カモメ団。

じわりと、ああ、そうだった…なんてしっくりくる感覚。
あたしはそれを、自分の掌を見つめて実感してた。

するとその時、驚いたような慌てた様な、そんなユウナの声がした。





「わわっ…」





見ればユウナとティーダが二人そろって記憶に驚いてる。
そんな様子を見たヤ・シュトラが二人に声を掛けた。





「あら、突然どうしたの?」

「は、恥ずかしくて…思い出したのが…」

「ああ…同じくッス」





ふたりは顔を合わせ、どこか気恥ずかしそうに顔を赤くして俯いた。

ああー…なるほどなー。
記憶が戻ったあたしは二人の恥ずかしがる理由をなんとなく察した。

だって、あたしも思い出したから。
おかえり、ただいまって…そう泣きそうに、でも心から嬉しそうに笑うふたりの顔。

そう、それは求めてやまなかった再会の記憶。
だから今、二人のその顔にも笑みが浮かんでいた。

あたしたちの二度目の旅の最後…ティーダは、またスピラに戻ってきた。





「お前にもあるのかよ?」

「喜んでやれ。俺たちにはなかった未来だ」





その時、それを見ていたジェクトさんとアーロンの声がした。
あたしはその声に振り返る。

そこに並んだふたりの姿を見て、思った。





「アーロン…ジェクトさん…」





ああ、ふたりがいる…。
再会した時にも思った、今更な感覚。

でもその感覚がまたじわりと胸に沁みた。

だからあたしは二人の元に駆け寄った。
今そこにある奇跡みたいな現実を、もっともっと確かめたかったから。



END
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