知っている知らない人


壊れてしまった街。
闇の世界を歩く中、あたしたちはそんな寂しい街に辿りついた。

そしてその街で、モーグリは言った。

ここには強い意志を持った人がいる。
この中だと、ユウナとナマエに縁のある人かもしれない、と。

その言葉は少しだけ不思議だった。

だってモーグリは、あえてユウナとあたしと言った。
同じスピラを通して来ているティーダたちとはなんだか気配が違うと。

それだけのヒントじゃなんだかよくわからない。

だからあたしたちは道を進み、その意思を持った人を探した。
そうして見つけたのは、黒を基調とした服装の…クールそうな女の人だった。





「ほんとに来た」





彼女はまるであたしたちを待っていたみたい。
こちらの足音に気が付き振り向くと、何人かいる中であたしとユウナをちらりと見てそう言った。





「あ!あの…」

「…貴女は」





自分を見つめる瞳にユウナは少し戸惑った様子。
あたしは多分、ちょっと目を見開いた。





「君たちに縁のあるものだと言っていたな。我々の味方なのか?」





ウォーリア・オブ・ライトに尋ねられる。
するとその問いに答えたのは目の前にいる彼女だった。





「あんたは知らない。ユウナとナマエなら知ってる」





彼女の言葉を聞いたティーダは首を捻っていた。
そして隣にいたアーロンにそっと尋ねる声が聞こえた。





「…昔の知り合い?」

「俺の知る限りではユウナの、それにナマエの知人でも無い。俺の、知る限りではな」





アーロンはティーダにそう答えていた。

俺の、知る限り。少し含みのある言い方。
もしかしたらアーロンは少なからず予想はしているのかもしれない。
口ぶりからはそんな感じ。

あたしは首でだけで振り返りその話を聞くと、再び彼女に目を向けた。

すると彼女はアーロンやワッカを見て言った。





「私はあんたらを知ってる。伝説のガード、それからビサイドのワッカ」

「へっ?俺も会ったことがあるのか?」





アーロンに関しては伝説のガードという肩書から知っている人がいるのは珍しい話じゃない。
でもワッカのことを知っているとなると個人的な知り合いという線が高くなる。ビサイドという出身地付きで自分の名前を良い当てられたワッカは驚いた顔をしてた。





「私を知っているんですね。スピラの戦士…ですか」

「ですね?ですか?…本当に忘れてるんだ」

「あっ、えっと…ごめなんさい!私、どうしても思い出せなくって、その…」

「いいよ。知ってたから。女神さまってやつのせい」





彼女はユウナの口調に違和感を覚えたみたいだった。
そんな様子を見たユウナは戸惑って、そして申し訳なさそうに焦る。
それを見た彼女は気にしなくていいと言うように事情は把握していることを教えてくれた。

そしてその目はちらりとあたしにも向けられる。
…あたしは…。

…あたしも、申し訳ないと首を横に振った。





「…ごめんなさい。あたしも、今は記憶欠けてるみたい」

「そうみたいだね。私はパイン…。はじめまして」





そして彼女は、名前を教えてくれた。
パイン。それが、彼女の名前。

そう…彼女はパインだ。

はじめまして。
パインはそう言ったけど、多分それは彼女にとっては違和感のある言葉なんだと思う。

最も、今のあたしやユウナはその違和感の気持ちを汲んであげることが出来ないのだけれど。





「マーテリアに遣わされたのならば、我々に力を貸してくれるだろうか?」

「どうかな…誰も私を知らないし」





ある程度話が進んだ所でウォーリア・オブ・ライトがパインに尋ねた。
その言葉にパインは肩をすくめる。

その掴めない様子にワッカは少し不安を零した。





「誘っちまって大丈夫か?俺たちが忘れてるだけで本当は敵かも…」

「それは違うよ!」





パインは敵かもしれない。
それを聞いたユウナはすぐさま否定を口にした。

ユウナにしては結構強めの声。
ティーダやワッカは驚いたように目を丸くした。





「わっ!びっくりした!…ユウナ、なんか知ってる?」

「えっ…私…わからない。でも、パインは違う…。ねえ、ナマエ…」





ティーダに首を傾げられ、ユウナは咄嗟に否定した自分の言葉に驚いていた。

でも、パインは敵じゃない。
その気持ちはそのまま変わらない。

だからユウナはあたしにどう思うか聞いてきた。
あたしは頷いた。





「うん。あたしもそう思うよ。パインは敵じゃない」

「そうだよね!パインは…!あれっ?パイン、さん?」





あたしが同意するとユウナはパッと顔を明るくさせた。
でも自然と呼び捨てにしていた事に気がつき、ユウナは呼び方に戸惑ってた。





「さん、はいらない。パインでいい。そっちが正解」

「本当にごめんなさい…。きっと私を大事にしてくれる人なんだ。それを忘れちゃうなんて…」





パインに訂正され、ユウナは声を弱めて俯く。

どうして忘れてしまっているんだろう。
ごめんなさい、ごめんなさいって何度も繰り返す。

ユウナのその様子にパインの方も調子が狂ってしまっているようだった。





「そういうんじゃない。そういう感じじゃないんだって…。…ユウナってこんなんだった?」

「俺の、知る限りはこうだ。どうやらお前の知る限りでは違うようだな。フッ…放っておく理由も無いだろう。共に来たらどうだ。気に入らなければこちらには飛空艇がある。この世界ならどこにでも降りればいい」

「我々にはそれぞれ記憶の食い違いがある。共に旅することで双方の食い違いが解消するきっかけにもなるだろう」





困り果てたユウナに変わり、パインに話をしてくれたのはアーロンだった。
そこに続けるようにウォーリア・オブ・ライトも説得し、それを聞いたパインも納得したように頷いた。





「そうする。今のユウナのこと、全然放っておける気がしない。…ナマエは、そんなに変わらないかも」

「ええ?それは、喜んでいいのかなあ?」





パインはあたしを見てそんなことを言った。

ううーん。あたしはほっといて平気そうってか?
…なんてね。それは軽い冗談だってちゃんとわかる。

軽く微笑んで首を傾げれば、パインはこんなことを言った。





「…前に、あんたから聞いたことがある。自分は目に映る景色が変わる出会いをした。その景色が凄く好きだって。今のあんたが見てるのも、その景色なんじゃない?」

「…あたしの、目に映る景色?」





言われたその話には、ちょっと心当たりがあった。

うん。確かにあたしは、そういう出会いをしたと思う。
スピラでのあの旅は…抱いた大切な気持ちは、何よりも掛けがえないものだって心から思える。

そう、今見える景色が、あたしは大好き。

つまり…きっと物の考え方とか、見方とかが今のあたしとパインの知るあたしは同じだと言う事なのだろう。

…今は、覚えてない。
でもあたし、そんな話をパインにしたんだ。





「知らんのか、あいつのこと」





とりあえず、パインを加えて旅を続けることになって…その後、少し皆とは距離を置いたところでアーロンにそう聞かれた。

ふたりきりにも等しい状況で聞いてくれる。
それは多分何かしらを察してくれているからだろう。

…本当はちょっとだけ、さっき口にしなかったことがある。

あたしはそっと、アーロンにだけその事を話した。





「…知らないよ。でも名前と、敵じゃないってことは知ってた」





少し、変な話。
でもそう、あたしはパインの名前と彼女が味方である事だけは確信を持って知っていた。

それは、そういう知識を情報として持っていたから。





「…元の世界の、物語の記憶か」





アーロンが確信に触れる。
そう言われ、あたしは頷いた。

あたしにとって、皆は物語の登場人物だ。

アーロンたちに出会った時も、その名前だけは知っていた。
お話の内容とかは、何故か記憶が飛んでしまっていたけれど…。

でもだからパインもそれと同じ。
あたしは元の世界の記憶として、パインのことを知っていた。





「うん…だから一方通行。どんな出会いをしたとか、どういう言葉を交わしたとか、そういう記憶は無いんだ」

「そうか」

「でも、パインは知ってるんだよね」





パインはあたしを知っていた。
あたしもきっと、パインに色んな話をした。

ユウナと、きっと彼女を信頼していた。





「忘れちゃってるのは、やっぱり申し訳ないよね」

「好きで忘れているわけではないだろう」

「うん、まぁ、そうなんだけどね。でも忘れちゃってるならちゃんと思い出したい。それはすごく思うんだ。あたし、知識としてパインのこと知ってたけど、それは全然別のところであの子のこと気になってる。それってやっぱり、本当は知ってるからなのかなって」





パインのことが気になる。
これから一緒に行動できることになって、嬉しいって気持ちも湧いてる。

さっきユウナがパインは敵じゃないって断言したけど、それときっと同じような感覚をあたしも抱いてるんだと思う。




「それに忘れられたままは、きっと寂しいよね。ユウナも、凄く気にしてるし」

「ユウナは気にしすぎだがな」

「あー…あはは、確かにね」





ちょっと苦笑いした。
ユウナはパインに会ってから、思い出さなきゃって凄く気負いしてるから。

いつもユウナは人の事を気遣う。
それは別に悪い事じゃないんだけどね。





「お前は…勿論お前も気にはしているのだろうが、そこまで気負いしてはいないか。いや、それでいいと思うがな」

「うーん…考えて、引っ張り出そうとして、出てくるものではないんだろうなって。でも話したいし、もっとパインのこと知りたい。だから今は、今のままで、どう仲良くなって行こうかなって考えてるよ。それが思い出した時に邪魔になるわけでもないしね」

「成る程な」





失っているなら、記憶を取り戻したい。
でもただ忘れてしまっているわけじゃないのなら、じっと考えていても仕方ないから。

あえて出来ることがあるとするなら、この世界のあちこちにあるという輝きを探すこと…かな。





「輝き、見つかったら思い出せるかな?早く思い出せたらいいな」

「今自分で言っただろう。焦ってもどうにもなるまい。だが、そうだな…」

「うん?」

「思い出したら、聞かせてくれ」

「…うん!」





パインはあの旅よりも未来で出会った人。
…だからティーダ、アーロンとは面識がない。

確かに焦ってもどうにもならない。

でもそれはきっと、この世界だから叶うこと。
あたしが笑って頷けば、アーロンもまたフッと小さく笑ってくれた。




END


今このお話を書いている時点で10-2の話は書いてないんですが、まさかのこっちで10-2に触れることになるとは…!(笑)

連載と言う形にはしていませんが、一応私の頭の中にざっくり10-2をやるとしたらこうするだろうなっていう設定はあるのでそれを元にして今回は書きました。多分少しだけならmemoでも言ったことあるのかな。

あとがきで申し訳ないですが、とりあえず掻い摘んで設定を説明しますね。

『凛と前を見つめて』のその後、主人公はスピラに留まる事なります。
行く宛てなどは特にないので、リュックに誘われるまましばらくはアルベド族と飛空艇で過ごすことに。
そこから10-2へ。つまりはカモメ団でスフィアハンターやります。だからパインとも仲間です。

まあ10-2やるならそうだろくらいのアレですね。すみません。(笑)
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