調子がいい性格


ふわりふわりと雪が降る。
しゃくしゃくという足音が鳴るくらいには積もっているその雪。

この世界にも雪は降るんだな…なんて頭のどこかで考えながら、あたしは閉じられていくひずみを見つめていた。

この雪の大地を歩いている時、モグがこの先にあるひずみに光の意思を持った誰かが向っている気配を感じると言った。
ひとりでひずみを閉じようとしているのか、あるいは何も知らずに進んでいるのか…それはわからないけど、どのみちひとりでは危険だという判断で、あたしたちはその誰かに加勢すべくひずみに向かった。

そして、そのひずみは無事に閉じることが出来たのだけれど…その誰かには未だに会うことが出来ていなかった。





「ひとまず次元のひずみを閉じることは出来たが…ここに向かっていた戦士は無事なのだろうか」





ウォーリア・オブ・ライトが剣を仕舞いながら、まだ見ぬその人を心配した。
それを聞いたホープはきょろきょろと辺りを見渡す。





「まだこの周辺にいるかもしれません。モンスターの残党が…」





モンスターの残党がまだいて危険だ、そう言おうとしたのだろう。

でも、それはちょっとした油断だった。

ほんの一瞬の隙。
ホープが辺りを見ながら数歩足を動かしたその時、ザッ…とホープの目の前に一匹のモンスターが飛び出してきた。





「わっ!?」

「っ…!」





ホープの咄嗟の悲鳴と、あたしが飲んだ息が重なった。

心臓が飛び跳ねる。
間に合うわけないって頭ではわかってたけど咄嗟に伸ばした手。

ホープは身を守る様に頭を庇って丸くなる。

ダメだ…!襲われる…!

そう思ったその瞬間、ホープを庇うように現れたひとつの大きな人影があった。





「おらよ!」





威勢のいい声と共に、襲い来るモンスターを弾き飛ばした拳。





「えっ…」





痛みに備え縮こまったホープも自分の前に現れた存在に気が付きゆっくりと顔を上げる。

ホープの目の前にあったのは大きな背中だった。
それも、よく知ってる…本当によく知ってる背中。

あたしは目を丸くした。
そしてホープは驚きながらその名を口にした。





「スノウ!?」

「あん?…ホープ!?本物か!?幻じゃ…ないな!」





自分の名前を叫ばれ振り返ったスノウはホープの顔を見てかなり驚いた顔をしてた。

誰か把握せずに助けてたのか…。

で、一方あたしなんだけど…伸ばした手はスノウの登場により一旦失速した。
けどそれだと行き場失くして泳ぐだけだし、そのままホープの肩にとん…と触れた。

勿論、大丈夫かという気遣いの意味を込めて。




「ホープ…」

「あ、ナマエさん…」

「お、ナマエもいるのか!」

「スノウ…」





スノウはあたしにも気がつくと、嬉しそうに笑ってくれた。
それは見慣れていた、ニッといういつもの笑顔。





「ホープとナマエの仲間かい?」





本当にスノウだ….とあたしとホープが気を取られていると、その様子を後ろで見ていたジタンに声を掛けられた。

あっ…とそこで我に返り皆の方に振り返る。





「元の世界で俺たちの仲間だった。まさかこいつまで来てるとはな」





するとあたしたちに変わり、サッズがジタンをはじめとした他の皆に説明をしてくれた。

そこでスノウはサッズにも気づき、他の皆にも目を向けた。





「サッズ…。でも、そっちの連中は?」

「皆は別々の世界からこの世界にやってきた戦士クポ!」

「ホープやナマエ、サッズの仲間なら俺たちとも仲良くなれると思うぜ!誰かもわからない相手を身体を張って庇う…その熱いハート、気に入ったよ!」





モグが簡単に状況の説明をし、ジタンはスノウを歓迎するように笑いかける。
特にジタンはスノウの行動というか、性格を随分と気に入ったみたいだった。

へえ、ジタンってスノウみたいなタイプに共感するんだなぁ…。
なんだかちょっとした発見?

でも確かにジタンも見知らぬ相手でもまずは手を伸ばそうとしてくれる人だからよくよく考えれば納得なのかもしれない。





「喋るモーグリに尻尾のついた人間…。あー、常識ってのは簡単に崩れるもんだなあ」





モグやジタンを見て流石のスノウもちょっと驚いたみたい。
でもすぐに受け入れて笑みを零す。そんな姿も流石スノウって感じだ。





「今に始まった事じゃないだろ」





そしてそんないつもの調子のスノウにホープはそうため息をついた。

あ、ホープのこの感じ久しぶり。
そう思っていると、その口調を初めて見たジタンたちもやっぱり気になった様子。





「あれ、ホープの言葉使い乱暴になったな」

「…ふふっ、やっぱ思うよね〜」





ジタンの言葉にあたしは笑った。

なんだろう。育ちがいいと言うか…普段のホープの言葉遣いは丁寧で、目上の人に対して敬語を崩すなんてことはまずしない。

だけど、その例外に当たるのがスノウだ。
スノウに対してだけは、呼び捨てするし、言葉も崩す。

あたしたちにとってはすっかり当たり前だけど、この世界で出会った皆からすれば新鮮な光景だろうなと思う。





「色々あってよ、まあ今は仲がいい証拠…だな」

「うん。そうそう!とっても仲良しだよ〜」






サッズとあたしはそんな風に簡潔に説明した。
あたしに関してはへらっと笑ってた。

いやだって、サッズの言うようにやっぱり色々あったし。

あたしはわりと、その辺りの事情というか…そういうものを近くで見ていた方だと思う。
苦しんで、悩んで、復讐なんて言葉まで口にしたホープを少しでも何とかしてあげたくて。

あの時一緒にいたからこそ、かな。

うん、だから多分あたしはホープとスノウがこうして話してる姿を見るのは結構好きなんだと思う。





「君は何らかの目的があって次元のひずみ周辺にいたのか?」





スノウの素性がある程度分かったところで、ウォーリア・オブ・ライトがスノウにひずみの近くにいた理由を尋ねた。

スノウの様子を見た感じ、ひずみがどういうものなのかとかはわかってなさそうな気がするけど。

案の定、聞かれた当のスノウはきょとんとしてた。
ただしスノウがひずみの傍にいた理由はちゃんとあって、それは凄く凄くスノウらしい理由だった。





「あの空間のゆがみのことか?全然正体はわからないんだが、モンスターが生まれてくるものを見かけたら放っておけないだろ。誰が犠牲になるかわからない。だったら先になんとかしたい」





危険なものだから、誰かが傷つく前になんとかする。

本当、スノウらしい。

多分、それを聞いたあたしは自然と頬がほころんでたと思う。
そして、そんなまさに光の意思って感じのスノウにモグは嬉しそうに旅への加入を頼んでいた。





「そういうことならぜひモグたちと世界を救って欲しいクポ〜!」

「世界を救う…か。いい響きだな。ヒーローの出番だな!」

「君の頑丈さはきっと頼りになるのクポ」

「丈夫なだけが取柄でな。敵を引き付けるのは任せとけ」





そしてスノウは何一つ引っ掛かりを見せることなく快く承諾してくれる。
まあスノウの性格上ここで別行動したいなんて話にはならないのわかってたけど。






「…相変わらず、調子いいな」






ドンと胸を叩くスノウにホープは相変わらずの塩コメント。

なんだかここまでくると面白いよね。
だからあたしは皆で歩き出した後、ホープの傍を歩き、顔を軽く覗き込んで笑いながら言った。





「君も、相変わらず」

「……。」

「あっはは!」





無言でちらりと見られる。
なんか笑ってしまった。

するとホープは小さく息をついた。





「まさかスノウも来るなんて…」

「ね。ビックリ。でもタイミング良かったね。スノウのおかげで助かったじゃん。油断禁物〜」

「いてっ」





ぴんっ、と軽くホープの額を指で弾く。

さっき、スノウが助けてくれなかったら確実にホープはモンスターの攻撃をモロに食らってたはずだから。
こっちとしても心臓止まるかと思ったわ。





「お気をつけ」

「うう…ハイ」





ホープは弾かれた頭をさすってた。

それにしても、前にもこんなことがあった気がする。
ホープに危険が晒されてビックリした…みたいなそんな感じの。

ああ、そう。あの時は確かほっぺたつねったんだっけ。

まあ、今回はあの時と違ってホープにそんなに非は無いけどね。

あの時…ホープは前にパルスのファルシに轢かれかけたことがある。
でもそれはホープが興味本位で近くにあったロボットいじくってたからロボットが暴走してファルシの前に投げ出される事になったと言う話。だからあれは自業自得。

そんなことを思い出していると、ホープがあたしの顔をじっと見ている事に気が付いた。





「なに?」





どうかしたかと聞いた。

するとどうだろう。
ホープはふにゃっと顔を綻ばせた。





「いや、心配…してくれました?」

「………。」





にやけてる。
と、同時にイタズラしてるような。

いやに楽しそうなその顔に、あたしはちょいちょいと手招きした。





「……頬、お貸し。つねってあげる」

「わー!!やめてくださいー!!」





どうやらホープも同じ事を思い出していたらしい。

人の事言えない。
ホープだって十分調子いじゃないか。

ホープは逃げる様に駆け出して行く。
あたしはそれを追い駆ける。

多分、その顔は、ふたりとも笑ってた。



END


スノウイベント。
前回までの話と時期が前後してしまいましたね。

今回は第一部の時の設定なので、13-2の記憶が無いときです。
つまり13設定。中身子供のままの時ですね。
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