会いたいという気持ち


穏やかな風が頬を撫でる。
澄んだ空気は純粋に気持ちがいいと感じる。

目の前に広がる緑の草原。





「ここ、どこだ…」





佇み一言呟く。
あたしは今、見知らぬ草原にひとりきりで立っていた。





「空、青い…天気良いなあ…」





見上げた空は青く、白い雲も緩やかに流れていく。

あたしは、自分がどうしてこんなところにひとりでいるのかわからない。
なんというか、突然こうしてここに迷ってしまったのだ。

しかしなんとも暢気なのはその清々しい景色のせいだろうか。

いや、多分似た経験を前にもしているからだ。
あの時はこんな青空じゃなくて花火の夜空だったけど。

とはいえ、こんなところでいつまでものんびりしているわけにもいかないのは確かだ。

となればまず真っ先にすべきことは一つ。





「皆は…?」





あたしは辺りを見渡した。

自分には共に旅をしている仲間がいた。
皆はどうしたんだろう?

ライトは?スノウは?ヴァニラは?サッズは?ファングは?
そして、一緒にいると手を握ってくれた小さな彼は。





「…ホープ」





呟いた大切な名前は風の中に消えた。

シーンとする。
辺りには何もかえってこない。





「……虚しいな、コレ」





あまりの虚しさに心にひびが入ったような感覚になった。
こう…ピシッみたいな。

うん。やっぱ虚しい。

思い出して自覚したら、なんだか凄く会いたくなった。

そんな時だった。





「ナマエさんっ!!」

「…っ!?」





不意に背中から大きな声に名前を呼ばれた。
しかもそれは耳が欲していた他ならない彼の声。

えっ、幻聴?
聞きた過ぎて幻聴聞こえた?

一瞬そんな事を考えた。
でもそれと同時に反射的に振り返った。

するとそこにあったのはパアッとした希望の笑顔。

聞き間違いじゃない。見間違いじゃない。
目の映るのは、駆け寄って来てくれるホープの姿。





「ホープ…っ」

「ナマエさんっ!」

「わっ…」





大きく手を広げ、ばっと抱き着かれた。
ちょっとビックリしたけど、迷うことなく受け入れる。

でもすぐにその顔を確認するように少し距離が出来る。
だけど手のひらには触れたまま。

不思議。
その手の体温が凄く安心する。

そうして見上げてくれた彼の顔は、ホッとしたように綻んでいた。





「ナマエさん…無事だったんですね!良かった…」

「う、うん…ホープも?」

「はい!会えてよかった…。もしかしたら、ナマエさんもこの世界にいるかもって考えはしてたんですけど」

「この世界…?」





あたしより今の状況に理解がありそうなホープ。

この世界って?
そんな彼の言葉に首を傾げれば、ホープが駆けてきた方向からまた別の人の声が聞こえてきた。





「おーい!ホープ!って、おお!ナマエじゃねえか!」

「あっ、サッズ!…って、ん!?」





恐らくホープを追ってきたのだろう。
そこに現れたのは見慣れたアフロ…もとい、サッズとひなチョコボ。

でもそれだけじゃなかった。
サッズと一緒に現れた数人の姿にあたしはギョッとした。

少なくとも、思わず目を見張って変な声が出るほどには。





「知り合いに会えたのか。無事なようで何よりだ」

「うん。お姉ちゃん、大丈夫?」

「…え…!」





立派な鎧に小さな黒魔道士。
話しかけれれて、ちょっと反応に遅れた。

他にもぞろぞろと記憶の中にある姿の人たちがぞろぞろと。

でもそれはホープやサッズのように会ったことがあると言うわけじゃなくて、一方的に知ってる形…。
そこに現れたのはあたしの知ってるFFシリーズの歴代の登場人物たち…。





「クポ〜!お姉さんからも光の意思を感じるクポ〜!」

「も、モーグリ?!ひ、ひかりのいし…?」





そして、傍にふよふよと飛んできた白い物体…。
それも良く知ってる。

モーグリだ…。喋ってる…。
いや喋ってるシリーズいっぱいあるけども。

モーグリはあたしを見るなり嬉しそうにあたしに何かがあると言った。
ひかりのいしって何だ…。

困惑して、そうすると見てしまうのはやっぱり見知ったホープやサッズだ。
ふたりの顔を交互に見れば、色々察したふたりは簡潔に説明して助けてくれた。





「ここは、僕たちのいた世界とは違う世界らしいんです」

「え、違う世界…?」

「おうよ。ああ、お前さんには慣れたもんか?まあ他のもろもろは後で詳しく話してやるさ。ひとまず一緒に行こうぜ。な!」

「え、あ、う、うん。ありがと。そうして貰えると助かるよ」





一緒に行こう。
そう言ってもらえるのは有り難い限りだった。

本当、純粋に有り難い。

そうと決まれば、こんな草原のど真ん中ではなんだからと移動することになった。
落ち着いたら他の皆も紹介してくれるらしい。

そうして一行は歩き出す。

でもあたしはすぐには歩き出さず、その見知ったキャラクターたちの背中をぼんやり見つめていた。

いや、ホープたちと会った時点でって話だけど、やっぱりなんかビックリはするというか。

すると、握られていた手の力が少し強まったのを感じた。





「ホープ?」





それに気が付いたあたしは視線を皆の背中からその手の主へと移した。
するとホープもじっとあたしを見上げていた。





「ナマエさん…本当に、会えて良かったです」

「ああ、うん、だよねえ。こんなとこにひとりで突っ立ってどうしよっかな〜って思ってたところだよ」

「あはは、でも本当にナマエさんもこの世界にいて良かったです。…って、この世界に来てしまったことは喜ぶことではないですよね」

「ん?あはは、うん、まあそれはね」





確かに、異世界に飛ばされるとか普通に考えたら笑えないことだろう。
…って、あたしの場合はここに来る前にいた世界がそもそも異世界なわけだけど。

まあ、あたしの事情はともかくで、突然足元のおぼつかない状態にされるのはやっぱり喜ぶ事ではないだろう。

それでもやっぱり今回のひとりぼっちではないという事実は気が楽なものだ。
だからあたしはいつものようにホープと話して笑みを浮かべていた。

だけどホープの方は笑みと言うよりは、ホッとした意味合いの方が大きそうな顔をしていた。





「ホープ?」





あたしは、そんな彼に首を傾げた。
するとホープはあたしを見上げ、じっとこちらを見つめてこう言った。





「…本当に、喜ぶ事じゃないけど…ナマエさんもこの世界にいて良かった」

「え?」

「僕は、ナマエさんに会いたかったから…」

「へっ」





突然の真っ直ぐな台詞。
そんなのを聞いたら、思わず変な声が出た。

しかもなんだかまるで駄目押し?
それと同時。握られていた手が、ホープの両手に包まれた。





「…会いたかったです」

「………。」





そのまま、ホープはそう呟いた。
包むように握る手は、まるで存在を確かめているみたい。

会えなくなってしまう。
それを何より惜しんでいたように。





「……。」





純粋に、想ってくれていたその気持ちが伝わってきた。
それを感じたら、こちらからも応えたいと思った。





「あたしも、会いたかったよ」

「えっ」





視線を合わせ、そっと微笑んでそう伝える。

するとホープは少し驚いたように目を丸くした。
同時に、ほんのり頬に赤みが掛かった事に気が付く。

そして、嬉しそうに笑ってくれた。





「じゃあ…行きましょうか?」

「うん」





また、見知らぬ異世界に飛ばされた。
だけど君と一緒なら、心がふっと軽くなっていく。

その後随分仲がいいんだななんて言われて、おうよ大の仲良しよ!なんて親指を立てたのは…また別のお話です。


END


1章のクラウドが仲間になる前後辺りと考えていただければ。
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