大切な友達


雨が降っていた。
見上げる空の色は黒。





「うひゃ〜、すっごい雨…こりゃ止みそうもないねぇ」

「うん…。止む気配まったく無いね」





顔を、肩を、濡らしていく雨。
髪から滴る水、服も肌に張り付いて気持ちが悪い。

ユフィとあたしは空を見て、はあっと一緒にため息をついた。





「この辺りはいつも雨が降ってるのクポ。モグのポンポンもふやけちゃうクポ〜…」





モーグリがふよふよと近づいて来て、この雨がこの場所特有のものであることを教えてくれた。

ごろごろと雷の音もする。
別に怖いってわけじゃないけれど、長いこと歩いていたくない気分にはさせられるなあと思う。





「恵の雨とは言うが…この調子じゃ体力を奪われてしまうな」

「このままだと風邪ひいちゃうね。クラウド、どこか雨のしのげる場所に…」





フリオニールも眉を下げ、ティファも皆の体調を気遣いクラウドにそれを仰ごうとした。
…けど、クラウドの様子がなんだか少し変だった。





「…クラウド?」





雨よりも、もっと別の何かを気にしているように見えるクラウド。
ティファが声を掛ければ、クラウドは辺りを見渡した。

あたしはじっとクラウドを見てた。





「…誰かいる」

「えっ?」

「感じるんだ。ソルジャーの気配を…」





クラウドはそう呟いた。





「ソルジャー?」

「えーっ!?なになに、誰がいるってのさ!?」





あたしは聞き返し、ユフィは驚いたように声を上げる。
突然のそんな言葉だ。その場にいる全員がクラウドに注目を集めていた。

けど、クラウドはそんな視線など気にも留めていなさそうだった。





「…向こうか!?」

「あ!待って!クラウド!」

「……。」





クラウドは走り出した。
ティファが静止を掛けたけど、止まることなく。

わき目もくれず、ただ、その誰かに意識を全部持って行かれているみたいに。

雨の中、いや雨にすら気が付いているのかわからないくらいで走っていくその背中をあたしはまたじっと見ていた。

…クラウド、様子、変だ。
何かに焦ってる?いや、でも…それしか見えてないような。





「みんなでクラウドを追うクポ!雨宿りはひとまずお預けなのクポ〜!」





モーグリがそう言うと、皆も頷いた。





「ナマエ、行きましょ!」

「何ぼけっとしてんのさ!」

「うん、ごめん。行こう!」





ティファとユフィに促され、あたしも頷いた。
そしてクラウドの背を見失わない様に皆で走り出した。

走りながら、あたしは考えてた。

クラウドが、それしか見えなくなるくらいになるものって…なんだろう。
セフィロス?でもきっとそれは違う気がする。だってそれならセフィロスの気配って言うはずだから。

セフィロスじゃない、ソルジャーの気配…。





「クポ〜!やっと追いついたクポ〜!」





しばらく走れば、クラウドの背に追いついた。

足を止めたクラウドの先に立っていた人物。
そこにいた彼は確かにクラウドと同じソルジャーの服に身を包んでいた。

黒髪の、明るく爽やかな印象を受けるひとりのソルジャー。

その彼を前にクラウドは固まっていた。
そしてこの中でもうひとり、ティファも彼を見て大きく目を見開いた。





「あの人は…ザックス!?」

「ザックスって…」





ティファが叫んだその名前を、あたしも小さく繰り返した。

ザックス。
その名前は聞いたことがあった。

確か、クラウドの友達の…。





「クラウドさんと同じような服を着ていますね。あの人もソルジャーという職業なんですか?」

「どうやらそのようだな?」

「えっ、あ…ええと、そうだって聞いてる…かな」





近くにいたホープやWOLに尋ねられ、あたしはちょっと変な返しをしてしまった。
いや、ちょっとザックスに意識をやり過ぎていたのもあるけど…。

そんなあたしにホープが首を傾げた。





「聞いてる…ってことは、ナマエさんは知らない人なんですか?」

「…うん。話は聞いたことあるけど、会ったことは無いんだ。クラウドの友達だって聞いてる」

「そうなんですか」





ホープは頷いた。

…そう。話は聞いたことがある。
でも、会ったことは無い。

いや、その返しではきっと説明不十分なんだろう。

だけど…。

あたしはクラウドの横顔を見た。

青い瞳はザックスを映して、悲しげに揺れていた。
戸惑って、何かを必死に耐えているような、そんな風にも見える。





「お?ぞろぞろと後ろにいるのはクラウドのトモダチか?」

「あ、ああ…そうだ」

「よく見ればティファもいるじゃん!久しぶり!怪我は治ったか〜?」

「ええ…おかげさまで…」





見知った顔に会えたことが嬉しいのもあるのか、ザックスはクラウドやティファに明るい口調で笑い掛けていた。
だけどクラウドとティファの返しは、動揺を隠せぬようにぎこちない。

その様子は事情を知らないホープやWOLから見ても明らかだった。





「三人は知り合いみたいですけど…どこかギクシャクしてませんか?」

「次元のひずみはすべてを…我らの記憶もひずませている。話が噛み合わない点もあるだろう」

「…うん」





ふたりの声に、あたしは頷くしか出来なかった。

ザックス…。
ソルジャークラス1st。

クラウドの親友。そしてセフィロスが村を焼き払う事件に繋がったニブルヘイムへの調査の際に派遣されたソルジャー。だからティファとも面識がある。

そういえば、前にセフィロスに見せられた幻の中で見たのはこの人だった気がする。

あたしも、話せたらなって思った。
会ってみたかったって、何度も思った。

そう、会ってみたかった。
でももう会うことは叶わないはずだった。

…彼は、クラウドと共に神羅を追われる身となった。
そしてクラウドの前で、その命を落とした…。

だから、ギクシャクするのも無理のない話だった。





「あのお兄さん、とても強い光の意思を持ってるのクポ!仲間になってくれたら嬉しいクポ!」





そんな中で、モーグリはいつものように光の意思を確かめていた。

勿論、クラウドから聞いていたザックスの話から考えれば光の意思があるのは聞くまでも無いとは思う。





「んっ?そこのモフモフ。なんだ?光の意思ってのは?」

「クポ!よくぞ聞いてくれたクポ〜!」





モーグリはザックスに近付き光の意思やこの世界について説明をした。

最初は到底信じがたい話だと思う。
でも彼は素直な人なのか、その話に驚きながらも比較的すんなり受け入れてくれた。





「…オイオイ、ホントかよ?」

「俺もティファも次元を超えてこの世界にやってきたんだ」

「そっかぁ…やれやれ、俺の周りは普通じゃない事ばかりだ。まっ、違う世界つってもさ、こうやってまた会えたんだ!俺は嬉しいぜ!」

「……ああ。俺も嬉しいよ、ザックス」





今、自分に笑い掛けてくれる目の前のザックスにクラウドは胸がいっぱいになっているみたいだった。

それはなんとなく、わかった。

苦しいくらいに、胸の中に何かが溢れてるような。
戸惑って、辛くて…だからひとつだけ、確かな嬉しいという言葉を返す。

見ていて思うのは、やっぱりクラウドにとってこの人は特別なのだということ。
だって、こんなクラウド…初めて見たから。





「え〜っと、そこのモフモフ…モグとか言ったっけ?俺も旅に加わるぜ!世界を股に掛ける任務なんてワクワクするもんな!」

「クポ〜!心強い限りなのクポ〜!」





ザックスは旅の同行を快く引き受けてくれた。
その感じの良さと光の意思の強さにモーグリは嬉しそうにくるくると回る。

クラウドはそんなザックスに申し訳なさそうな顔をしていた。




「また世話になる。…すまない」

「ハハハッ!なんだよ〜。水臭いな。…トモダチ、だろ?」

「…ありがとう、ザックス」

「へへ…。だから、気にすんなって!そんじゃ頑張っていこうぜ!目指すは次元のひずみ!燃えてきたぁーッ!」





元気に声を上げるザックス。
クラウドはそんな彼を見て顔を柔らかく綻ばせていた。

本当に、こんなクラウドは初めて見る。

でもきっと、まだまだクラウドに関して知らないことって沢山あるんだろうな。

きっと、夢にまで見るくらい…とっても会いたかった人なんだろう。

別に、全部知りたいとか…そういうことじゃない。
でも、少しずつでいいから、今抱いた気持ちとかも教えてくれたらいいなって。

それに、あたしもザックスと色々話してみたい。

でもまあ、今はいいかな。
これから一緒に旅するんだし、この先チャンスはいくらでもある。

二度と巡ってくることなんてないはずだった現実が、この不思議な異世界では叶うのか。





「ナマエさん、なんだか嬉しそうですね?」

「ん?そうかな?…うん、そうかも!」





ホープに言われ、自分の顔がほころんでいた事に気が付く。

だってきっと、クラウドは嬉しいはずだから。
クラウドが喜ぶのなら、それはあたしも嬉しい。

きっと、後悔があっただろう。

だけど、もう手の届かなかった人に手が届く。
肩を並べて、戦う事がきっと出来る。

思うこともあるかもしれない。
こんなことが許される異世界、神様の力。

でも再会自体は、嬉しいことだよね。




「…よかったね、クラウド」





そっと微笑む。
そして、誰にも…自分にしか聞こえなくらいの声でそう小さく呟いた。



END
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