思いきり


高く高くそびえる城壁。
あたしはそれをぽけーっと見上げていた。

それは、あたしたちの行く手を阻む壁だった。

てくてくてくてくと時間を掛けて歩いたのに、ぶつかってしまったその壁。

来た道を一度戻ろうか。
折角ここまで来たのに回り道なんてしたくない。
だったらよじ登ろうか?

壁を前に様々な意見が飛び交った。

そしてそんな中で一際目立った意見がひとつ。





「決めたわ!城壁を爆破しましょう!」





真っ直ぐに壁を見つめ、そう言い放ったのはマリアだった。

彼女はモグに飛空艇に砲台が無いか尋ね、それにケイトの魔法銃を合わせればきっと爆破出来るとにっこり笑って言ってのけた。





「爆破しましょう!ときたか。ああ見えて意外と豪快な娘だな」

「ええ…。そういえば反乱軍だったわね。色々修羅場を見てきたんでしょうね」





アーロンとセリスのそんな声がした。

結局、爆破なんてしたら瓦礫に潰されてそれこそ一貫の終わりだと二人がなだめて迂回する方向で話は何とかまとまった。

なだめた二人だからこそ、残念そうに歩いていく皆の中にあるマリアの背を見てそんな会話が出たのだろう。





「ナマエ」





するとその時、名前を呼ばれた。
あたしは見上げていた城壁から目を離し、声の方へと振り返った。

そこにはいたのはアーロンだ。





「何をしている。行くぞ」

「うん」





セリスも皆を追うように歩き出している。

アーロンはその場であたしを待っていてくれたらしい。
あたしは頷くと、アーロンの元に駆け寄った。





「なにを見ていた?何かあったのか」

「ううん。本当たっかい壁だなあって見てただけ。よじ登るとかにならなくて良かったな〜って。皆思い切りがいいよねえ」





最初はヴァニラの冗談だった。
でも、よじ登るなんて意見が出た時はちょっとゾッとした。

まあ結局はビビやエーコみたいな子供もいるんだからそんな無茶はやめようって方向ですぐ落ち着いたんだけど。

でもそれを提案してくれたのは他ならぬマリアだった。
それなのにその直後に爆破だもんねえ。

思い返すとなんか笑ってしまった。





「……。」

「アーロン?なに?」





すると、アーロンが何も言わずじっと見ている事に気が付いた。
あたしを見て何か考えてる、そんな感じだ。

首を傾げれば、アーロンは言う。





「いや、お前の発言もいつも突拍子は無いがなと」

「ええー…」





言われた言葉にちょっと顔をしかめた。
まあ確かにアーロンにはよく言われるかな、とは思うけど。

でもアーロンの話にはまだ続きがあった。





「だが、あまりに無茶なことは言わんと思ってな」

「ん?」

「ああ、お前はそこまで無茶はしないな」

「あー…」





無茶はしない。
そう言われて、ちょっとした心当たり…みたいな。

まあ、今の爆破とかもそうだけど、確かに基本的には危ない橋を渡る様なことは…しない気がする。
って、それって普通な事の様な気もするけど。

ただ、敢えていうならきっと旅の中ではそういう思い切りも時には必要なんだろうと言う事。

でもあたしは割と慎重…な方だとは思う。





「そりゃあ、無茶して取り返しがつかなくなったら元も子もないもん」

「ああ」

「まあ、育った環境もあるのかな。あたしの本当の元の世界…あたしの生きていた場所は戦いとか冒険とか、そういうの無縁だからね。アーロンもティーダのザナルカンド、見たんでしょ?それに近いんじゃないかな」

「そうだな…」





無茶をする必要が無いから、いざと言う時に躊躇しがち。
って言ってもスピラで冒険して結構度胸ついた方だとは思うけど?

たまには飛び跳ねてみたくなることもあるし、わりと肝は座ってきたというか。
基本的、まあ傾向としては突っ込んだりはしないよねってハナシで。

そんなことを考えながらあたしは一歩アーロンに近づき、その顔を下から覗き込んだ。





「アーロンは、実は結構思い切りいい方だよね?ていうかよくなった?」





ニコッと笑って言ってみる。

ほら、いつかリュックも言ってたじゃない。
キマリがガーッと吠えておっちゃんが突っ走るって。

今回に関しては危険が高かったから止めてたけど、何かまた少し状況が違ったら賛成してたりもしたんじゃんかなーなんて。





「どうだかな」

「えー?結構そうだよー…わっ」





その時、大きな手が落ちてきてわしゃっと撫でられた。

ちょっとビックリ。
なあに?なんて言おうとしたら、その前にアーロンが口を開いた。





「…まあ、無茶はしなくていい」

「え?」





ポンポン、と触れる手。
それを感じながら、あたしはぽつりと呟いた。





「じゃあ、今度は突っ走ってみようかな」





心配してくれるってこと?なんて。

へらりと笑えば、撫でていた手が離れていく。
そしてコンッと小気味良く小突かれた。



END


このイベント、アーロンのなんでお前そこにいるんだ予感凄いですよね。

マリア、セリス、ヴァニラ、ケイト、アーロン。
なんで御嬢さん方の中にひとりだけいるんだよ、おっさん!!!(笑)

で、セリスとアーロンが結構歯止め役になってましたけど、アーロンってわりとどっちでもいけるんじゃないかな、と。
結構思い切りいいところもあるじゃないですか。

最初のザナルカンドでタンク落っことすのとか、砂漠でじっとしてられなかったり。(笑)

みたいなのを思って書いてました。
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