共に紡ぐ物語


「闇の世界か…本当にうまくいくでしょうか?」





不安そうな声。
銀色の柔らかな髪を揺らして俯きそう零した少年。





「ホープ、不安?」





あたしが気遣うように声を掛ければ、彼、ホープはこちらを見上げた。





「そうですね…」





そして小さく笑うと、眉を下げながら否定せずに頷いた。





「なな、なぁ〜に弱気になってるもんよっ!だだだ、大丈夫だもんよっ!」





するとそこに噛みまくりながら強がる雷神の声が入った。

大丈夫、にはとても聞こえない…。
思わずホープと苦笑いしながら雷神を見やれば、そんな様子を遠慮なく突っ込むゼルの笑いが響いた。





「はははっ!オイオイ雷神!声が震えまくってるぜ〜?」





からかうようなゼルの声。
だけど実際は、ゼルも多分人のことを言えない。





「そういうゼルさんもさっきから落ち着かないみたいですけど?」

「うっ!バレた…?」





ホープがそう言えば、ゼルも観念したように後ろ頭を掻いた。

あたしは、そんなみんなの姿に小さく息をついた。

あたしたちが旅しているこの世界には、光と闇の世界があるのだと言う。
そのふたつにはそれぞれクリスタルコアというものがあり、ふたつでバランスを保ちながらこの世界を支えていた。

しかし、光の世界のクリスタルコアは壊れてしまった。

修復するためにはクリスタルコアが壊れた際に飛び散った輝きを集めなければならない。
それを探すため、あたしたちは今まで旅していた光の世界を離れ、闇の世界を旅することになった。

だけど、そのことにどうやら不安を覚えている面々もちらほらいるみたいだ。





「やれやれ、情けないのう。もっとシャキッとせんか」





すると、そこにそんな声。
振り向けばこちらに近づいてくる大人の影がふたつ。






「あ、ガラフ…とアーロン」





声に振り向き、あたしはそこにいたふたつの名前を呟いた。

声を掛けてくれたのはガラフだ。
ガラフの言葉にゼルは少し弱気な顔を見せる。





「そんなこと言われてもうよぅ…」

「大きな試練を前にして浮き足立つのは誰にでもある事だ…俺もな」





すると、そんな様子にアーロンがそう言った。
その声に雷神は意外そうに目を丸くする。





「んあっ?アーロンにもそんな時代があったもんよ?」

「……当たり前だ」





驚く雷神にアーロンは当然と言うように頷いた。

そんな時代…昔のアーロン、か。

その時あたしはちょっと、過去のことを思い出した。

出会った頃のアーロン。
今より頭が堅くて、でもそれゆえ真っ直ぐで。





「若かったころの俺は、何かを変えたいと願いながら腕を磨き、旅を続けていた。だが…結局は何も果たせなかった。覚悟が足りなかったんだ」





過去の、アーロンの旅の結末…。
確かにそれは、望みを叶えることが、何か変えることは出来なかった…。

覚悟が足りなかった、か…。

あんなに必死だったじゃないか。
叫んでいたじゃないか。

そんな風に言いたかったけど、やめた。
だって気休めにしかならないのわかってたから。





「ふむ。誰にでも似たような経験はあるようじゃのう」

「ガラフさんも?」





アーロンの話を聞いたガラフも何かを思い出すようにそう口にする。
問いかけてきたホープを見て、ガラフは頷いた。





「もう昔のことじゃ。わしらがしっかりしていれば、もっと皆に迷惑を掛けずに済んだんじゃが」

「バッツたちがそれを気にしている様子も無い。ガラフが気にしなくても大丈夫だろう。だが、お前達には同じ轍を、後悔だけが残るこの道を選んで欲しくない。…そういうことだ」

「どの世界でも年長者は若者に願いを託すものじゃのう」





ガラフとアーロンが言葉を合わせる。

過去に経験をしているからこそ、大人たちは若者にそれを伝えようとする。
自らの失敗を、続くものたちに繰り返させないために。

そんな声は、皆の中に届いたようだ。





「…そうですね。何かを成し遂げる為には、まずは、自分自身に打ち勝たないと…」

「おう!やるしかないってもんよ!ここまできたら腹を括るってもんよ!」

「俺も覚悟を決めるぜ!後悔だけはしたくないからな!」

「お前達が時代を作っていくんだ。難しく考えず感じたままに、物語を動かしていけば良い」





最後のアーロンの言葉。
それが一番の決め手だっただろうか。

年長者の話を聞き、皆は顔を上げていた。
ちゃんと前を向き、しっかりと意志を持つ。

そして、立ち向かっていくように駆けていった。

あたしは、そんな背中たちを眺めていた。





「アーロンの言葉を聞いてすっかり吹っ切れたようじゃのう」





するとガラフがそう言った。
その声にあたしは再び振り返り、アーロンとガラフを見た。





「…それならいいが」





そう零したアーロン。
あたしはそんな傍に駆け寄った。

そして、じっとそのサングラスの奥を見上げた。

いや、良い事言ってたと思う…。
アーロンの言葉は皆の力になった。

でも、なんかこう…ちょっと気になること。

ちょっと達観しすぎじゃないかなあ…とか。






「…なんだ」

「いや、なーんか…老け込みすぎじゃない?」

「…いつもそう扱ってくるのはお前だろう」

「いや、それはまぁそうなんだけど…」





おじさん、ってからかう。
…それは、そうなのだけど。

でもそれは別にちょっといじってるだけであって…。
そりゃ、スピラの…ユウナのガードとして旅では年長者で一行の柱みたいなもんだったけど。

でも別にさ、アーロンだって、若いのになあ…って。
本音は、そう思ってる。

そんな概念、関係ないなんて言われたらおしまいだけどね…。

でもその時、そんなあたしの言葉に賛同するようにガラフがアーロンに声をかけた。





「そうじゃぞ…アーロン。まだお主も老け込むべきではないぞ」

「…どういう意味だ」

「若者を鼓舞するのは確かに年長者の役目じゃ。じゃがわしから見ればお主とてまだまだ若い。未完じゃよ。お主の物語もな。じゃから共に紡いでいけばいい。それに、どうやらそれを望む者も、近くおるようじゃしな」





ガラフはそう言いながらあたしを見た。
そして優しく、目を細めて微笑んだ。

あたしは思わず「えっ…」なんて声を零した。

そしてアーロンをちらりと見やれば同じタイミングでアーロンもこちらを見ていた。





「なーんてのうっ!」





ガラフは最後にそう笑いながら、歩き出しその場を去っていった。
その姿を見ていれば、アーロンが口を開いた。





「…無論、そのつもりだ」

「え?」

「俺には俺の物語がある…」

「アーロン…」





アーロンの、物語。

無論、そのつもり…。
そんな言葉が聞けたのは、なんだかちょっと嬉しかった。

仕方ない事かも知れなかったけど、スピラでは…次の時代へって、そんな考え方してたと思うから。

でもアーロンだって…これからもっともっと紡いでいける。





「あたし、見たいな…アーロンのこれからの物語」





顔を見上げて、そう微笑む。
笑みは自然と零れた。

でもそこで問われる。





「見ているだけか?」

「え?」





目が合っている。
その時、なんだか凄く、それを感じた。





「じゃあ、一緒に?」





首を軽く傾げて聞いてみる。
すると、サングラスでよくわからないけど多分顔をしかめられた。





「なぜ疑問形なんだ」

「頷いて欲しいから」





そう言ってみれば、アーロンは目を丸くしたみたい。
でもすぐにフッと笑い、頷いて言ってくれた。





「ああ、そうだな」

「うん!」






だからあたしも笑って頷く。

難しく考えず、感じたまま。
さっきアーロンが言ってた言葉。

そう。
今、そうしたいと思うから。



END


このイベント初めて見たとき、いやいやガラフと並べるのはじじい扱いしすぎじゃね!?アーロンさん結構若いよ!?って思いまして。(笑)

でもガラフがちゃんとアーロンも若いって言ってくれたのでそれがなんか嬉しくて。
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