僕のものなので
13の世界から来ているライト以外の全員の記憶がセラに追いついた。
カイアス、パラドクス、女神の騎士…。
蘇ったさまざまな記憶。
そんな中で一番の注目を浴びることになったのはホープだった。
今のホープは14歳の見た目で、でも実際の年齢は27歳。
今、ホープを囲み、そんなちぐはぐな姿に盛り上がるひとつの輪があった。
「ホープ殿は今の見た目よりも年上との事でしたな」
「はい。カイエンさんほどでは無いですが…エドガーさんくらい…かな」
カイエンにそう尋ねられたホープは頷いた。
そしてわかりやすい例えとしてエドガーの名前を挙げ、このくらいだろうと実際の自分の姿についての説明をしていた。
「見た目よりしっかりしているのは無意識にそうした経験が出ていたのか」
例に挙げられた当のエドガーは顎に手を当て、納得したように頷く。
「まあ、もともと結構しっかりした子だったけどね」
様々な反応を見せる皆の姿に、あたしは少し笑ってそんな風に口を添えた。
あたしも、未来の記憶を思い出した。
だからあたしは、本当の年齢のホープの姿も知っている。
すらっと背も伸びて、格好良くなってたよなあ…なんて、ちょっと姿を思い出してくすっと笑った。
すると、それを見たティーダに聞かれた。
「ん?ああ、ナマエも見た目の方が若いんだっけ?」
「うん。でもあたしはホープほどじゃないよ。時間を超えて旅してたからね。今よりプラス3年って感じかな?だからまさかのホープと年齢逆転しちゃったわけ」
「へー…なんか複雑ッスねえ」
「ねー」
ティーダの問いに答え、ふたりでゆる〜く頷きあった。
本当、なんか色々複雑である。
でもその時、突然ティーダはハッとしたようにホープとあたしを見た。
「もしかして、敬語で話した方がいいッスか?」
「いえ!今更ですし、僕も落ち着きませんからこれまで通りで構いません」
「あたしもどうでもいいな〜」
年下だと思っていたホープや同じ年代だったあたしが年上に変わる。
確かにティーダくらいの年代にとっても年齢の逆転が起こわけで。
それを気にしたティーダにホープは首を横に振った。
あたしもそれに合わせた。
今更敬語とか変なだけだもんね。
「しかし…そうか、3年か…」
「エドガー?」
そうして笑っているとエドガーがあたしの隣にやってきてスッと優しく手を取られた。
ちょっとビックリ。
見上げて首を傾げれば、エドガーはあたしを見つめて微笑んだ。
「今の姿も大変愛らしいからね…未来の君は更に魅力的な女性になっているのだろうな。一度はお目にかかってみたいものだよ」
「あー…あはは、ありがとう…だったらいいけどね〜」
手を握られ、まっすぐに見つめられたまま甘い台詞で口説かれる。
うわーおー…。
率直に、浮かんだ言葉はそんな感じだった。
女性がいるのに口説かないのは失礼、彼はそんなポリシーの持ち主だ。
そんなのもだから、常日頃、女の子を口説く姿はよく見かける見慣れたもの。
あたしもいつも優しく接してもらっている。
けど、ここまで思いっきりなのは、あたしは初めてかも…。
いや、はは…。これはなかなか照れる感じ…。
反応に困って「あはは…」と笑っていれば、その時するっ…と握られていた手が第三者の手によって解かれた。
「エドガーさん…ナマエさんを口説かないでください」
「ホープ」
解いた手はホープのものだった。思わず呟く彼の名前。
するとホープはそのまま今度は自分がエドガーに代わる様にあたしの手を取った。
「この人一応、僕のものなので」
「へっ」
「おっと…これは失敬」
ホープの口にした言葉。
それにあたしは思わず目を丸くした。
…牽制…っていえばいいんだろうか。
するとエドガーはふっと笑い、両手を軽く挙げてすんなりと離れていった。
それを見たホープはちょっと安心したみたいに「ふう…」なんて小さく息をついた。
そんな姿を見ながらあたしは今聞いた言葉を頭で繰り返す。
僕のもの…。
…なんか…うわあ…。
ひゅー…なんてティーダの軽い口笛が聞こえた。
大人の面々の視線はどことなく微笑ましいものを見てるような…。
でもそんな中で一つ、さっきから何か考えている様子の小さな子がひとり。
「えーっと…そうなると…」
「んー?ビビ、何か言いたい?」
こてん…と三角帽子の角を傾けてそう首を傾げたのはビビだ。
そんなビビの様子に気が付いたティーダが声を掛けるとビビはおずっとホープに尋ねた。
「ホープおじちゃん……ってこと?」
黄色い純粋な瞳。
可愛らしい声で発せられた、その一言。
「おじ!ええっ!?」
「…ぶはっ」
それを聞いた瞬間、ホープは驚きの声を上げ、その隣であたしは盛大に吹き出した。
「そ、そこまででは…ないはず…だけど…」
若干困惑気味に否定するホープ。
それを見たエドガーは軽く笑いながらそんなものだとホープを諭した。
「子供から見れば大人はみな一緒さ」
「うう…今のはちょっと…刺さります…って、ナマエさんは笑いすぎですから!」
「だって!おじ…ホープおじちゃんて!あはははっ!」
一方、あたしはだいぶツボにはまってた。
ホープの肩に顔をうずめ、ぱしぱし軽く叩きながらひーひー笑いが止まらない。
だっておじちゃんて!
こないだまでホープお兄ちゃんホープお兄ちゃんって可愛いなあって思いながら見てたのに!
笑いが収まらないあたしにホープは眉を下げてため息をつく。
多分漫画の吹き出しとかがあるのなら黒いぐるぐるってのが付いてる感じだろう。
「元気出せって!身体は子供なんだしさ!」
「うむ。気持ちは若く持つに越したことはないでござるな」
軽く凹んだ様子のホープにティーダとカイエンがそんなフォローを掛けた。
ひとまず、話はそんなところで区切りがついた。
皆はその場から歩きだし、それぞれが少しずつ散っていく。
「はあ…」
そんな中でまだその場に残るホープはまた大きめのため息をついた。
あたしも笑いは収まり、ホープの顔を覗きこんで首を傾げた。
「どした?おじちゃんそんなにショックだった?」
「いや…まぁそれも、まぁ…そうなんですけど…落ち着かないなって」
「そう?まああたしはそんなに変わらないからなあ…」
おじちゃん…とかはまあともかく、大人の記憶が戻ったホープにしてみれば今の姿は違和感があるみたいだ。
あたしはそこまでではないから違和感とかはないけど。
でも確かにあの成長した姿を思い出せばそれも無理はない事なのかもしれない。
「まあ、背とかも伸びたもんね。力とかも違うのかな」
「そうですね…」
「すぐに慣れる」
そんな時、低い声がそう言った。
その場から動いていなかったのはあたしとホープだけじゃない。
顔を向ければそこにはなびく赤いマント。
そこにはヴィンセントの姿があった。
「えっ?ヴィンセントさんも?」
「私は元の世界にいた頃からそうだ。見た目より長く生きている」
「…そうだったんですか。わからなかった」
「あえて言う事でもあるまい」
ホープが尋ねればヴィンセントはそう自らのことを少し教えてくれた。
あ、そう言われれば、そうだった…。
なんて少し思ったのは、あたしの本当の元の世界の記憶だから口にはしないでおこうと思う。
それからヴィンセントはホープが前に言っていた話を辿りながら尋ねてきた。
「お前は…ライトニングやナマエの傍にいられた時間を大切に思っていると言っていたな」
「…そうです。大人の僕にはそれが出来なかったから」
横顔を見れば、ホープはヴィンセントの言葉に少し俯いた。
今更ながらに少し…色々思う。
ホープはアカデミーで必死に研究してあたしたちの手の届かない色んな問題解決や支援をしてくれた。
あたしもセラもノエルも、きっとライトも…そんなホープを頼もしく思っていた。
けど、ホープにしてみれば戦うことの出来ない…そんな時間をもどかしく感じていたんだな…って。
俯くホープの姿にヴィンセントは軽く笑う。
そしてまた重ねて問いかけた。
「守りたいのだろう?」
「…はい」
ホープは頷いた。
そして、見上げられる。
ちょっとどきっとした。
そんなホープの姿に、ヴィンセントは最後にこう残した。
「守りきってみせろ。今…この世界で。後悔を抱えて長い時を徒に生きることほど…無為な時間は無い」
そうして赤いマントを揺らし、先に歩いていく。
ホープは何か思うところがあるのかその背中をじっと見つめていた。
あたしは、そんなホープの手を取りぎゅっと握りしめた。
「え、ナマエさん…?」
触れた感触にホープはあたしを見上げてくる。
あたしはその目を見つめ、今自分が思っている気持ちを伝えた。
「ホープ。あたしも同じ。あたしもライトのこと守りたい。支えたい。だって沢山助けてもらったから。助けてもらって勇気をもらって、あの恩は絶対に忘れない。だからこっちも力になりたいって思う」
「…はい」
そう、多分…あたしとホープにとってライトはちょっと特別。
戦い方も知らない、非力なふたり。
そんなあたしたちを守って、支えて、見ていてくれた。
前だけ見てろ。背中は守る。
その言葉はきっと、何よりの勇気になる。
彼女が傍にいることが、本当心強い。
でも、ライトだって弱いところはある。
沢山迷うし、悩む。
気丈に振る舞うけど、抱え込む部分がある事も知っている。
だからあたしやホープは思うのだ。
あの人のことを守りたい、って。
「それに、ホープのことも…ね」
「え…?」
「ホープ、守るって沢山言ってくれるよね。それは、素直に嬉しいよ…。でも、あたしにも君のこと守らせて」
「…あの頃、散々守ってもらったから…今度は僕の番って意味合いも強いんですけど…」
「あの頃って、どっちもどっちだったと思うけどな。まあ、それは知ってて。あたしも後悔したくないってこと。守りたいって思うから、一緒にいること…選んだんだから」
「ナマエさん…」
そう。支えて、一緒に生きたいと思った。
それは、君のことを自分の手で守りたいと思ったから。
その気持ちを確かめるように、あたしはホープの手を握っていた。
END
ホープおじちゃんめっちゃツボりまして。(笑)
あと前に書いた「もやもやきもち」の内容と少しだけ繋げるイメージで書きました。