傍にいられた姿


ダークイミテーションが消える。
ホープは彼らの囁きに屈することなく、自らの希望を貫き戦った。

その結果、穏やかな輝きがホープの中に溶ける様に消えていった。





「これが…輝き?」





ホープは自分の胸に触れる。
そして目を閉じ、自分の中に取り込まれたその輝きの存在を確かめた。





「僕の記憶…なくしていた…時間…」





呟く背中を見守る。
輝きには失われたものが秘められている…。

そんな姿にセラが尋ねた。





「ホープくん、もしかして…思い出した?」





その声にホープは振り向いた。
そしてあたしたちの顔を見渡し、セラを見ると頷いて見せた。





「…はい。恐らく。今のセラさんの姿を知っています」

「私のには輝きが入ってなかったのか…」





ホープが、記憶を取り戻した。

一方で、ライトは何の変化も感じられていない様。
勿論、あたしも記憶の変化はない。

そんな中、唯一記憶を有しているセラはホープに聞いた。





「で、でもホープくん…もう大人の時の記憶ってことなんだよね?」

「…なに?大人…だと?」

「大人の時…?」





セラの言葉にライトとあたしは首を傾げた。

大人って、どういうことだろう。
だってセラの姿はそこまで変わってはいないのに。

でも、どうやらセラの言葉は正しいらしくホープはそれを肯定した。





「ええ。今はこんな姿ですけど…多分ライトさんやナマエさんが覚えているよりずっと年上です…」

「年上…?」





よくわからなくて首を傾げると、ホープはそんなあたしを見上げて小さく笑った。

大人の、ホープ…。

やっぱりよくわからないけど、きっと記憶を取り戻したことで確かめたい事はたくさんあるだろう。
だから今は特に多くを突っ込むことはせず、話の流れをセラとホープに預けた。





「誰か…カイアスとかの差し金でそうなっていたのかな」

「いえ、この世界に来る時のことも思い出してきました。僕は次元の狭間をたゆたう間、自分でこの…子供自体の姿を選びました」

「大人の方が力が強いだろ?それとも腕が衰えていたのか?」





ライトは不思議そうに尋ねた。

自分から、わざわざ子供の姿を選ぶ理由…。

大人のホープの姿も知っているセラはライトに首を横に振り、ホープもライトを見上げてその理由を答えた。






「ううん、ホープくんは強いよ。大人になってからもね」

「僕は、ライトさんやナマエさんの傍にいられたことの姿を選んだんです。僕が大人になった時…ライトさんは遠くにいました。どうやっても会えない時の最果てに」

「…それがカイアスの言っていた私の戦い…なのか」





ライトはそう呟き目を伏せた。
思い出せない自分の記憶をもどかしむように。

ライトは、カイアスとひとりで戦っているってこと…?
会えないような、時の果てで…?

それと、あたし…も?
今のホープの口ぶりだと、あたしもホープの傍にはいないみたいだった。





「ホープ…あたし…」

「…ナマエさんも、手が届かないところにいましたから」

「え…」




ホープが大人になった時、ライトやあたしはホープの傍にいなかった。

あたしは、ホープの傍にいない…。
その理由って…もしかして、元の世界…?

そんな考えが浮かんだ途端、ぐっと胸の奥が痛んだ。
あれ…なんだか、凄く苦しい…。

痛みを感じて、きゅっと胸に手を当てる。

するとセラがホープに確認した。





「…もう隠しても仕方ないんだね」

「セラさん、良いんですか?」

「うん…」





今まで未来の話を避けていたセラ。
だけどホープが思い出したことで、未来で何が起きているのかをあたしやライトにも説明してくれた。





「お姉ちゃんは女神の騎士になってカイアスと終わりのない戦いをしていたの」

「僕やセラさん、それに皆もライトさんの願いを叶える為…カイアスから歴史を守ろうとしていました。ナマエさんも、ね」

「えっ…」





あたしも、歴史を守ろうとしていた…?

ホープの言葉に少し驚く。
じゃあ、元の世界に消えてしまったわけじゃないって事?

すると、セラがあたしの両手を包み込むように手に取って穏やかに笑った。





「ナマエは、私と一緒にいたの。一緒に戦ってくれてた。それは、私達にしか出来ない旅で…」

「あたしは、セラと旅をしてた…?」





そう聞かされ、ホープの方も見てみれば彼もまたその通りだと言うように頷いた。

あたしやセラにしか出来ない旅をしていた…。

もしかして、だからカイアスはあたしも宿敵と言っていた?
そしてそれを覚えてないあたしに対してセラが寂しそうだったのは…。

そう考えれば辻褄は合う気がした。

だけど、それなら…元の世界に消えたわけでは無いって事…だよね。

それを聞いたら、なんだか凄くホッとした気がした。





「お姉ちゃんが記憶を取り戻せばきっと…辛い事をたくさん思い出すことになる…」

「忘れたままは御免だ。どんな未来でも、私は前に進む」

「ライトさんならそう言うと思ってました」





ライトは記憶を取り戻すことに意欲を増したようだ。
そんなライトにホープは笑う。

セラは終わりのないという戦いをするライトを救いたかった。
ライトがセラを戦わせたくなかったように、セラもライトのことを本当に思っている。

仲のいい姉妹だな、なんて…改めて思った。




「なんだか、不思議な気分です」

「ん…?」




それから、少し落ち着いて休む時間を設けることになった。
あたしは記憶が戻ったというホープと色々と話をしていた。





「えー…っと、本当に…大人?」

「はははっ、この姿だとわかりづらいですけど、大人ですよ。ナマエさんより年上です」

「…なんだそれ」

「事実ですから」




ちょっと目を細めてみれば…そんな反応をするあたしにホープはなんだか楽しそうに笑っていた。





「ナマエさんやセラさんには、時間を超える力があったんです」

「え?」

「ふふ、今のナマエさんにはわからないのかも知れないけど…だから時には遠い遠い未来にいたり…。だから僕は貴女を傍で守る事が出来なかった。自分の手で、ちゃんと守りたかった。目的は…見ているものは同じだったけど、それが凄くもどかしかった…」

「…ホープ」





ホープは少し遠くを見ながら、そう呟いた。
その目はちょっと、寂しそうな…。

でもなんだか…凄いこと言われている気がする。




「あのー…なんか、色々凄いこと言ってません?」

「あはは…そうかもしれませんね。でも、嬉しくて。今は、傍にいられる。一緒に旅していた時は、ずっと傍にいて、非力ではありますけど…手を伸ばして、自分の手で守る努力が出来ましたから」

「…ホープ」

「だからこそ、僕はこの姿を望んだ…」





未来のホープ。

未来のことを考えると、あたしは不安になることもあった。
あたしは、どうしているのかな…って。





「あのさ、セラも少し大人びてたよね。てことはさ、あたしも少しは大人になれてたりするのかな?」

「ああ…、そうですね、僕の知ってるナマエさんも、また少し大人びた姿ですよ」

「そっか。じゃああたしも、今のこの姿を選んだ理由とかあるのかな?」

「……言われてみれば、そうかもしれませんね」

「ふーん…未来のあたし、どんなこと考えてたんだろうね?」

「どんなこと、ですか…」

「うーん…実はさ、未来のこと考えるの…少し億劫でね」

「え?」

「今のあたしが大事にしてるもの…壊れないように、壊さないようにそっとしてるもの…どんな風になっちゃってるのかなぁって」

「ナマエさん…」





小さく笑って言う。
多分それで、ホープは何のことを言っているか何となく察したみたいだ。

もしかしたらホープは、その答えも知っているのかもしれない。

それをわざわざ尋ねることはしないけど、でも、今はそんなに思い出す事を億劫だとは思っていない気がした。





「うん…でも、もう大丈夫、かな。自分が守りたいって思うもの、守る努力はしてるのかもって…それはちょっとわかった気がするから」





少なくとも、望む未来のために戦っていることはわかった。

欲しい未来があるのだと。
それが見えていて、掴むために動けているなら…。

あたしも思い出したいなって、そう思った。



END
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