気持ちを伝える方法
「西のエリアの探索?」
「ああ、この間モンスターが多かったのが気になって…少し考えてるんだ」
「ふーん、それは確かに気になるかもね。んー、ね、クラウド。それ、あたしにも手伝えるかな?一緒に行ってもいい?」
「来てくれるか?助かる」
「うん!じゃあ一緒に行く!」
何気ない空いた時間。
飛空艇の外に出て、軽い散歩。
ナマエと話す、他愛ない一時。
この間、数人で探索に出た時、妙に西の方からモンスターが湧いてくるような気がした。
その話をすると、ナマエは一緒に探索に来てくれると言った。
一緒に行く。
些細な言葉選びだ。
でも、そこになんとなく…好意的なものを感じられて。
そういう瞬間を、最近凄く…実感出来るような気がする。
「あ、そうだ、クラウド。あたしもちょっとお願いがあるんだけど…」
「なんだ?」
「うん、あのね」
よく話す。
一緒に過ごす。
それは別に、元の世界でも珍しいことじゃなかった。
ただ、この世界に来て、更に距離が縮まったと思うのは、きっと気のせいじゃない。
共に過ごす歳月が長くなった分、それはおかしな話ではないだろう。
…同時に、ナマエのことを大切に想う気持ちも…元の世界にいた時よりも、俺の中で強くなったと思う。
「…ってことで、ちょっと手伝って欲しいなぁなんて思いまして」
「ああ、構わない。手伝うよ」
「やった!ありがと!」
「でもそれだと、もう少し人手がいるだろ。他は?誰か声を掛けたのか?」
「あ、ううん、それはまだ。人手はいるなーって思ってたけど、とりあえずクラウドに聞いてからにしようと思ってたから」
「そうか…」
一番に…、頼ってくれる。
信頼されている。
自惚れではなく…ちゃんと思える。
それだけじゃない。
俺が悩んだ時も、一緒にいてくれる。
傍にいて、一緒に考えるよって、そう言ってくれた。
振り返った時に、必ずそこにいてくれる。
クラウド、って…俺を呼ぶ声。
悪くは思われていないと…。
いや、互いに…大切に想っていると、そう、わかる…。
「なあ、ナマエ…」
「ん?」
名前を呼ぶと、俺を見て首を傾げる。
いつだってそうだ。
声を掛ければ、目が合えば…いつだって駆け寄ってきてくれる。
その度に、勘違いするなって…自分に言い聞かせていた。
ナマエは、誰とでもよく話す。
だから俺だけが特別じゃない。
そう思ってた。
だけど…もしかしたら…。
特別だと、そう思っても…いいのか?
自惚れて。
勘違いじゃないのかもしれないって…。
そんな風に、考えることが増えて…。
「……。」
じっと、見つめる。
…気安く名前を呼んで、その頬に触れて、近づいて…。
そんな想像だけして、けど、すぐに振り払う。
別に…いいんだ。
信頼して貰えて、少し、人より頼って貰えて。
それだけで、別に今は。
記憶も戻ってない。
だから今は、こうして…限りなく傍にいられたら、それで十分だって。
ずっと、そんな風に思ってた。
でも…本当は、…違う。
異世界。
戻っていない記憶。
そんなのを言い訳にして…本当は、ただ、臆していだけだ。
万一、今の関係を壊してしまうとしたら、とか。
記憶の戻った未来ではどうあれているだろう、とか。
不安を数えて、怯えてる。
本当は、いつも思ってる。
俺だけを見て欲しい。
俺のことだけ、考えていて欲しい。
「クラウドー、どーしたの?」
「あ、ああ…悪い」
呼んだのに黙っていたから、ナマエが不思議そうな顔をした。
俺は軽く謝って、首を横に振る。
こうして隣にいること。
それが当たり前になって…、だけど、もっと。
欲張りになる。
…気持ち、伝える方法、か…。
最近よく、そんなことを考えている。
END