ミライノキオク


「カイアス…」





呟いた名前。
だけどそれは知らない名前。

ふうっ…と小さく息をつく。

闇の世界を進んでいる中、あたしたちはカイアスという一人の男に出会った。





《そうか。君も記憶が無いのだな》





その男は、あたしを見てそう言った。

セラは言った。
カイアスを前にするなら、自分は皆を守らなきゃならないと。

彼はライトを女神の騎士と呼び、セラもそれを否定しない。
カイアスと言う男は、ライトやセラ…そしてあたしの宿敵ともいえる存在だったという。





《ナマエ…やっぱり、覚えてないんだよね…》

《ごめん…セラ》

《ううん…ナマエが悪いわけじゃない。変な事言って、ごめんね》





自分で思い出さなきゃ意味がない。
それはあたしもきっとそうなのだろうと思うし、だからセラも語らない。

ライトはイライラしていた。
思い出せないのにどこか覚えがある。
それが歯がゆくて仕方がないみたいだった。





「カイアスって人のこと、考えてるんですか?」

「うん…まあ」





またため息が出た。
すると傍にいたホープが振り返り、こちらに駆け寄って来てくれた。





「ホープも、覚えてないんだよね?」

「はい…。多分、覚えてるのはセラさんだけですね。あとは皆覚えてないみたいです」

「だよねえ…」





はーあ…とまたため息が出る。
くしゃりと髪に指を差し込んで、あたしは唸って頭を抱えた。





「ため息何回目ですか?」

「しらなーい…数えてなーい…」

「別に数えなくても良いですけど…ナマエさん、かなり気にしてますよね?ライトさんもピリピリはしてますけど」

「…わかんない。だって全然覚えてないもん。確かになんか胸の辺りザワザワするけど…うううう…」

「…なんですか」





頭を抱えてうんうん唸る。
その煮え切らない感じにホープもちょっと困り顔だ。

カイアスという男。
目の前にした時、確かにちょっと気になった。

でもきっと、こんなにも気になる理由はあの寂しそうな顔が頭にあるからだ。





「…セラが」

「セラさん?」

「あたしが覚えてないって言った時、セラ…なんか凄く寂しそうだったから…」





そう。セラの様子、ちょっと気になった。

覚えてない事に、セラはあたしのせいじゃないから仕方がないと言ってくれた。

でも、なんだろう…。
あたし、あの人のこと忘れていちゃいけない気がする。





「でも、本当…何者なんでしょうね」

「セラが放っておけないって言うなら、放っておいちゃ駄目なんだろうとは思うけど」

「スノウが言ってましたね。セラさんの敵なら自分の敵だから、戦う理由はそれでいいって」

「スノウらしいよね。でもきっと、セラは嬉しかったと思う」





スノウはいつでもセラの味方だ。
聞いた話によれば、セラがルシになった時だってそう。

スノウは傍にいて、自分が守ると迷いなく言い切ってくれたと。

本当、ヒーローだなって思う。





「うん…でも本当、スノウの言う通りなんだと思う。セラが敵だって言うなら…ね。カイアスの方もあたし見て宿敵だったって言ってたし」

「ライトさんにセラさんに、ナマエさん…か」

「まあ、カイアスが言ってたこと、納得出来ないことも多いしね」

「ですね。ナマエさんが戦うって決めたなら、僕も一緒に戦います」

「…ありがと」





小さくお礼を言えば、ホープは笑って頷いた。

歴史の守護者、カイアス。
それに…女神の騎士。

なんだか引っかかって、気になって…。

カイアスが何者なのかわからないけど、ライトやセラ…皆に危害を加える存在なら、何とかしなきゃって思う。

未来…か。
それを考える時、少しでも幸せで、あたたかいものを願うのは…当たり前のことだよね。

そう、少しでも少しでも…望む未来を掴みたい。
そのために皆、歩いているのだから。



END

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -