照れ屋で優しい
「分不相応な夢を持つとどうなるか、その身に教えてやろう」
冷たいセフィロスの声。
だけど今のカダージュは、そんな言葉に揺らがなかった。
「そんな挑発に乗るとでも?僕はもう惑わされない。兄さん、一緒に戦ってくれるよね。今度はセフィロスを倒すために」
「ああ。あいつらの計画を止めてみせる。だからもう一度だけ…信じてくれ。俺たちは、仲間だ」
答えたクラウド。
一度言葉を間違えた彼は、もう一度信じて欲しいと願う。
その声は、とても優しいものだった。
仲間がいる。
手を取って、助け合えば、それは何倍にも強い力になる。
大切な人がいるからこそ、その想いは力に変わる。
皆で戦って、あたしたちは力を増幅させたヴァイスを倒した。
「ふっふっふ…この俺が膝をつくとはな。やはりネロがいなくては…今の俺では不完全という事か」
「今の、だと…?」
ヴァイスの言葉に聞き返したヴィンセント。
ヴァイスは軽く笑い、その身をゆっくりと起こす。
「そうとも。次はあの時のように時を掛け、綿密な計画を立てるさ」
「何をするつもりですか。やっと…自由になれたのに!」
「この世界に興味が湧いた。以前は俺こそが頂点だったが、ここには渡り合おうとする奴らが大勢いる。お前たちをひとり残らず叩き潰して、虐殺し、惨殺し、撃殺し、磔殺して…この世界に君臨するとしよう…。抗いたくば、せいぜい足掻きに来い」
シェルクが止めても、それを聞くことはない。
虐殺、惨殺、撃殺、磔殺…。
よくもまあそんな恐ろしい言葉たちが次々に出て来るものだと思う。
いやそんなとこに感心してる場合じゃないんだけど。
でも…あの時のように…。
その、未来の記憶はあたしにはない…。
そんな言葉たちを並べて、それを実現するような…そんな戦いが、あったのかな。
そして高笑いを残し、ヴァイスはその場から姿を消した。
「な、なんあんだよ、あいつ〜っ!」
「…私たちなら大丈夫だ。何度でも退けてみせるさ」
「はい。この世界の仲間や…新たな仲間たちと迎え撃てば」
気味悪がるユフィ。
だけど、未来を知るヴィンセントやシェルクはちゃんと未来に希望を見ていた。
そんな中、カダージュはセフィロスに視線を向けていた。
「ヴァイスは行っちゃったよ。僕も降りるし、あんたの計画はおしまいさ」
「…せめてお前が、鍵であれば」
「ああそうさ。僕は無力だ。母さんの役にも立てない哀れな駒だよ。けど、誰かに利用され続けるのも、騙され続けるのも、もうごめんだ。だってわかったんだ…ここには母さんはいないって。なら…僕はあんたと決別する。あんたから生まれた存在でも、僕はもうカダージュだ」
「…どうでもいいな」
セフィロスはそう言い捨て、その場を去って行く。
自分を無力だと卑下するカダージュ。
でもその声は決してヤケになったようなものではなく、ちゃんと意思のある強い声だった。
「ふふ…」
小さな笑み。
最後に残ったシーモアも、そんな笑みを残して去ろうとした。
でも、その背中をカダージュは呼び止める。
「シーモア。あんたのおかげで目が覚めた」
「!」
「あんたも…自分の為に生きなよ」
「ご忠告、ありがたく頂戴しますよ。それではいずれどこかで」
自分の為に生きなよ。
そんな言葉を掛けるなんて、カダージュとシーモアの間には何かあったのかな。
シーモアは一度振り向き、いつもの穏やかで掴めない笑みをカダージュに向けると、すぐに背を向け去って行った。
こうして敵は全員消えた。
多分、これで一安心。
それを見計らう様に、エアリスはカダージュに声を掛けた。
「あのね、カダージュ…」
「な、なんだよ、今更…」
カダージュはエアリスから顔を背けた。
でもそれは嫌悪などの類からくるものではない。
それを、周りの皆に見透かされる。
「きっと、決まりが悪いんですね」
「まったく。まだ拗ねてんの?ほんと中身は子供なんだから」
「別に、僕は…!」
なんだか微笑ましそうな。
そんな視線をホープやリリゼットに向けられ、咄嗟に言い返そうとするカダージュ。
うーん、それすら微笑ましいと思われてるぞーって。
あたしもそれを見てちょっと笑っていると、その時隣にいたクラウドが動いた。
向かう先はカダージュの前。
「せっかく待っていてくれたんだから、礼くらい言ったらどうだ。俺の…弟なら」
「えっ…!」
えっ!
カダージュも声を上げたけど、あたしも驚いた。
いや、あたしだけじゃなくて、その場にいた皆がきっと同じ反応をした。
俺の、弟!
「おい、みんな!今の聞いたか!?」
「い、言い過ぎた、今のはナシだ!」
嬉しそうに皆に聞き出すザックスの反応にクラウドは恥ずかしくなったのか慌てて否定しだす。
そしてその時ぱちっとクラウドと目が合って。
あたしはにんまりと笑った。
「あらー♪」
「ナマエ…何だその顔は」
「いえいえー、ふふふー」
「おいっ…ちょ、そのニヤニヤやめてくれ…っ」
詰め寄られた。
ちょっと逃げる。うふふー、と笑ったまま。
まあ気恥ずかしさのやり場さがしてるんだろうけど。
でもクラウド、あたしだけ追いかけても仕方ないぞ。
「よかったじゃねえか、カダージュよお!」
バレットもカダージュに声を掛ける。
いつもながらに声は大きい。
それを聞いてまた「う…」って顔をしたクラウド。
あたしはそれを見てまた笑う。
「だから笑うな…」って、小さな声で言われた。
「嘘じゃないよね、兄さん…」
確認するカダージュ。
クラウドはカダージュの方を見ない。
すると、そんな反応にリディアがくすっと笑う。
「優しいあなたのことだもの。本当はずっと心配してたんでしょう?」
「別に…興味なんかない」
クラウドはまたそっぽを向いた。
うんうん、クラウドも見透かされてる。
ここまで旅してきた仲間は、クラウドが優しいことなんてもうわかりきってるもの。
「えー?ずーっと気にしてたよねえ?」
「だからナマエ…っ、余計なこと喋るな…!」
クラウドの顔を覗き込んで、にししと笑う。
ちょっと睨まれた、けどちょっと顔赤い。
あ、ダメだ。もうちょっと今本当楽しい。
余計なことっていうか、もうそもそもバレバレな話だしねえ?
その証拠に今度はガーネットが言う。
「照れているだけですよ。きっと、仲良くなれます」
「うん、わかってる。だって僕の…兄さんなんだから」
カダージュは頷いた。
それを聞けばクラウドも諦めたのか、顔を押さえて「はあ…」と息をついていた。
「それじゃカダージュも戻ってきたことだし…帰ろうぜ!俺たちの飛空艇へ!」
ザックスの声に全員で頷く。
こうして、カダージュを迎えに行ったあたしたちは、飛空艇へと戻ったのだった。
END