お守りの言葉


セフィロスはシーモアと手を組み、エネルギーを集め、この世界の主導権を握ろうとしている。

そして、この世界に置いて不完全であるジェノバの力…。
共に母さんを呼び寄せようと、カダージュに囁いた。

カダージュは、セフィロスとともに消えた。

ずっと一緒に戦ってくれていた。
エアリスやザックスとの関係は、結構良好に見えた。

でも、それでも…母さんの為、とあんなに嫌っていたセフィロスと手を組むことを選んだ。

そして…現れたヴァイスという男の存在。
ヴァイスはシェルクと同じディープグラウンドソルジャーで、またその中の帝王なんだろいう。

セフィロスは、ヴァイスとも行動を共にしている。

タークスのルードやシスネ、シェルクやヴィンセント。
何人かが状況を探るために先行し、対峙して得た情報たち。

その際、ヴァイスは…カダージュの気を失わせ、その場に置いてこちらに返してきたと言う。

セフィロスの意思で放ったようだけど、自分さえいれば、カダージュがいなくても計画に支障はないから…と。





「ディープグラウンドソルジャーの帝王…ヴァイス、か」





飛空艇の甲板。
吹き抜ける風は少し冷たくて、心地よい。

そんな風を浴びながら、あたしはぽつりとその名前と呟いた。





「実力は未知数、恐ろしい男だって話だな」

「うん」





言葉は傍にいたクラウドには届く。
反応を返してくれた彼に振り向き、あたしはこくんと頷いた。





「全然覚えてないけどね。ヴィンセントが知ってるところを見ると、あたしたちも多分…知ってる人っぽいけど」

「ああ…取り戻せていない記憶の中にある存在、か」





あたしたちは、ヴァイスを知らない。
だから記憶のあるヴィンセントやシェルク、タークスに頼らざるを得なくなる。

勿論、今出来ることは精一杯やるけど、限界はあるからなんとなくもどかしい感じがするのも事実。

それに、気になる事が…もうひとつ。





「カダージュ、大丈夫かなあ」





ヴィンセントたちが連れ帰ってきた、カダージュのこと。

カダージュも今、ちゃんとこの飛空艇の中にいる。
でも、母さんの為にとセフィロスの側についたのに、自分の意思と関係なく捨て置かれた彼の心はとても穏やかなものじゃないだろう。

カダージュの名前を出すと、クラウドは顔を少ししかめた。





「…あいつのこと、気になるのか?」

「え?うん、そりゃまあねえ」

「……。」

「あは、まあクラウドの言いたいこともわかるよ」





顔を覗いて、軽く笑う。
クラウドの表情は晴れなかったけど。

クラウドの気持ちはわかる。

クラウドは、セフィロスの思念体たるカダージュを迎え入れていいのか、また、彼を説得することが出来るのか。
そんな疑問が拭えないのだろう。





「…ナマエは、カダージュのことをどう思う?」

「んー、そうだねえ…でも、うん、嫌いじゃないよ」

「嫌いじゃない…か」

「うん。考えてること、わからないなって思う事もあるし、記憶がないから元の世界でのこともわからないけど…でも、嫌いじゃない。カダージュもそうなんじゃないかな。こっちのこと、嫌いじゃないって感じ!」

「……。」

「あのね、クラウド。あたし、結構単純なのね?」

「単純?」

「この人嫌かも〜って思っても、次にちょっと優しくされると、やっぱりいい人!…みたいな?」

「…単純だな」

「ええ、単純です」





わかってるわかってる。
いやついさきまでの気持ちどこいった、みたいな。

だから言ったでしょうってね。

まあつまり、何が言いたいかというと。





「カダージュ、たくさん一緒に戦ってくれたよね。そういう姿見てたら、あれ?悪い奴じゃないかもなんて思ったりして」

「……。」

「エアリスとかザックスとのやり取り見ててもね、思うよ。多分カダージュもこっち側にいる事、別に嫌ではないと思うんだ」





そう、それは思う。
カダージュ、多分こっちにいること悪く思ってないと思う。

居心地、きっとそう悪くない。





「でも今回セフィロスの方に行っちゃったから、なんでそっち行っちゃうんだ〜って、好感度バロメーターがちょっと下がってたりして?」

「…単純だ」

「はい、単純です。あははっ!なんて、でも、そういう風に思うのは、こっちの方がいいって思ってくれたらいいのにって思うからかな」

「……。」





味方になってくれるなら、それは嬉しいと思う。

クジャとかみたいに、前に色々あっても、良好な関係を築けてる人もいる。
そういうの、良いなって素直に思うから。





「まあでも、あたしはクラウドの気持ちもいっぱい聞きたいな」

「え?」

「心配とか不安とか、いっぱい聞きたい。それで、一緒に考えたい。だから今、あたしがどう思ってるか聞いてくれたのも、すごく嬉しい。クラウドが反対だからって、あたし別に否定したりしないよ」

「ナマエ…」





ニコリと笑って、そう伝える。
するとその時、その場にひとつ足音が近づいてきた。





「ここにいたのか、探したぜ」

「あっ、ザックス!」

「おう、ナマエ〜」

「……。」

「ん?クラウド、どした?」





こちらに来てくれたザックス。
あたしはいつも通り返事をしたけど、クラウドは浮かない顔のまま。

そんなクラウドの様子に、ザックスは勿論すぐに気が付いた。





「カダージュのこと、本当に説得できると思ってるのか」

「俺は信じてるし、そのつもりだけど…。はは…出来たとしても、嬉しいって感じじゃないか」

「悪い…、俺だけ、こんなこと言って」

「気にすんなよ。それより俺、わかったんだ。あいつは本当に、母さんに会いたいだけなんだって。そのためなら自分を否定するセフィロスとだって組む覚悟がある」

「…ああ」





クラウドは尋ねる。
本当にカダージュを説得できるのか。

ザックスは曇りなく答える。
自分は信じてるし、そうしたい。

でも、決してクラウドの気持ちも否定しない。

そして、カダージュの気持ちも考える。

カダージュは、母さんに会いたいだけ。
ただ純粋に、想いはその、たったひとつだけ。





「あいつ、どうしてそんなに会いたいのかな。もしかしたら、本能的なことなのかもな。けど、もしそれだけじゃないなら…俺は助けてやりたいんだ。だってあいつ、苦しんでるからさ」

「ははっ…ザックスらしいな。俺も、そうやって救われてきた」





あ、クラウドが笑った。

思わず、目を引く。
ザックスとのやり取りの中で見せたその笑み。

たまに見える、その優しい笑み。
やっぱり好きだなって思う。

ザックスも「ええ?ホントかあ?」って笑ってた。





「兄さん、か…。ザックス、ナマエ。俺…カダージュに向き合てみようと思う。セフィロスの目的を探るためにも」

「そっか。うん。話、色々してみよう」

「ああ、そうしてみようぜ。さすがクラウド。やっぱりお前は出来る奴だよ」





クラウドは決めた。
カダージュに向き合ってみること。

あたしとザックスも頷く。

それから、あたしたちはセフィロスたちの動向を追うことになる。

その飛空艇での道中、また、クラウドとふたりで話す。





「思ったんだよな…」

「ん?」

「…カダージュも俺みたいなところがあるのかもしれない」

「クラウドみたいなところ?」

「心細いから必死で戦って、いつも何かを探し続けてる…」

「…そっか」





零した言葉。
それはきっと、クラウドの胸の内だった。

カダージュも心細いから、母さんを探すのかな。

クラウドはじっと、あたしの顔を見てきた。





「…でも、俺には…ナマエがいるから」

「えっ?」

「ナマエは…俺のことを信じてるって言ってくれるから。どんなに心細くなっても、振り返ったら絶対そこで笑ってくれるって…そう、心の一番奥で知ってるから、だから…進んで行こうって思える」

「クラウド…」

「…そう、だよな…?」

「…うん!信じてるよ、クラウドのこと」





こくんと頷く。
するとクラウドは少しホッとしたように表情を和らげる。

あたしの言葉がクラウドの支えになれてるなら、凄く嬉しい。

そこであたしも、自分の気持ちを伝えた。





「あのね、あたしも…不安になった時クラウドが俺を信じてくれって言ってくれたから。あれ、結構ね…あたしの中でお守りの言葉なんだ」

「お守り…?」

「うん。だから、前を見るの怖くないよ」

「…そうか」





そう言った時、クラウドは嬉しそうにしてくれた気がした。





「カダージュも、振り向いた時に誰かが傍にいるって思えたら、何が少し変わるのかな」

「……。」





そう、呟く。

でも実際、エアリスもザックスも、他にも皆…カダージュのこと、気に掛けてる。
もし、それをカダージュが感じられたら…彼の気持ちも変化するのだろうか。

風に吹かれながら、そんなことを考えた。



END
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