いちばん歳の差のない姿


「うわあー…!」





思わず漏れた声。
あたしは多分、目をキラキラと輝かせていた…と思う。





「昔のアーロンだ…っ!!」





きっちりと束ねられた黒い髪。
黒いレンズに隠されることなく見える、きりっとした瞳。

今、あたしの目の前には10年前の姿をしたアーロンがいた。





「…そんなに目を輝かせるほどのことか?」





あ、やっぱりキラキラしてたらしい。
あたしの反応を見て、アーロンは大きく息をついた。

安息の大地。
意志の力と言うものがあるこの世界。

そのせいかよくわからないけれど、今、アーロンは25歳の容姿にその姿を変えていた。
ただ、記憶は35歳のまま。

なんとも不思議な現象が起きるものだと、それで片付いてしまうこの世界は凄い。





「わー!もっと見せて見せてよく見せて!」

「っ落ち着け!」





ひゃー!!!
と、あまりの懐かしさにずいずい近づいたら脳天チョップされた。

痛い!暴力反対!

この乱暴っぷりは今も昔も同じだな。

まあでも正直興奮してたのは認めよう。
その自覚はある。

言われた通り、あたし自身もちょっと落ち着く努力はした。





「ん、まあ一応謝るよ。ごめん。でもさあ、無理ないと思わない?こんなトンデモ現象起きたらはしゃぐでしょ。そうそう、アーロンこんなだったよね」

「こんなだった…とはどういう意味だ」

「そのまんま」





こんなはこんな。
こんな感じだったよねー、ってそういう素直な感想だ。

サングラスもしてなくて。
きちんと後ろで髪を結わいてて。

お堅くて、凄く真面目そうな青年って感じ。





「ねーねー、ちょっとこっち向いて見せてってばー」

「…楽しそうだな」

「うん、めっちゃ楽しい」

「……。」





やばい。
落ち着くとは言ったけど、さっきからニヤニヤが止まらない。

なんかこう、胸の奥からすごい楽しさ込み上げてくるような…。

そんなあたしとは対照的にアーロンのテンションは低いけど。
いやま、いつもだって高くないけどさ。

まあとりあえず、あたしはうふふと楽しさいっぱいで仕方ない。





「あ、じゃあねえねえ!あたしは?どう?」





上がり切ったテンションのまま、あたしは手を広げて今度は自分を見てくれと言った。

だって、姿が変わっているのはアーロンだけじゃない。

今、あたしはあの旅から2年後。
カモメ団として飛び回っている時の姿をしていた。

アーロンにとってはなかなか新鮮でしょう!
さあどうよ!って!

ふふーん、と胸を張る。

でもそれを見たアーロンはなぜか顔をしかめた。…ん?





「……少し、肌を出し過ぎではないか?」

「え!?」





肌!?え、露出!?
そう言われてバッと自分の格好を見た。





「え、そ、そこまででもないと思うけど…」





まじまじと、改めて見て…。

いやまあ…露出してない、とは言えないかもしれないけど…。

でも別に普通と言うか…。
そんな言われるほどでもないと言うか…。





「ユウナとかパインの方が派手だと思うんだけど…。あとリュックとか…そうリュック!リュックはね!あいつひどいよ!?出せるとこ全部出してますって感じ!それに比べたらこんなの全然!」

「…そんなことを力説されてもな」

「…いやそれはそうだけども…。えー、別にこれくらい普通だよー」





まあ…ガードとして旅してた時の格好よりは、派手?
あれ、なんか周りが結構だからもしかして感覚狂ってる?

いやでも別にガードの時だってそんなお堅い格好をしてたわけじゃないぞ。

うーん…予想してた反応とは違うな…。

いや別に、服装を褒めて欲しかったわけじゃないけど…。

どちらかというと、成長した姿を見て貰いたいっていう気持ち…かな?





「ねえ、アーロン気付いてる?」

「何がだ」

「あたしはあの旅から2年後の姿で、アーロンは10年前の姿。つまり、今まででいっちばん歳の差ないってこと!」

「……。」





にっこり笑う。
まあ今もまだアーロンの方が上だけど、でもこれくらいの差なら同世代って言ってもいいくらいには縮まってるんじゃないかな?





「まあ…そうなるな」

「ふふふ、でしょ?」





この世界でもそういう話をすると、歳の差だねって言われることはまあ少なくないわけで。
その度に、あたしの世界の1年がスピラでは10年だったから実際はそこまでじゃないんだけどねーなんて話したりして。





「歳の差は気になるか?」

「うーん、どうだろう。まあ、アーロンから見たらあたしは子供だろうなーって思う事はあるかな」





マカラーニャの森で…アーロンに好きって告白した時。

その時も、思った。
あたしなんて、ガキンチョだろうしなって。



「…それは、こちらの台詞だな」

「え?」

「お前から見れば、俺はオジサンだろう?」

「…あはっ、アーロンが自分からそれ言うの珍しい!」

「…茶化すな。…まあ、多少は思うさ」

「ん…ま、そーだよね。一緒」

「こちらの姿の方がいいか?」

「ううん。どっちの方が、なんてないよ。だってどっちもアーロンだもん。あはは、35歳の姿も渋くて格好いいよ。あたし、好きだよ」





ちょっと近づいて、ぎゅっと抱き着いた。
アーロンもそっと背中に手を置いて、こうすることを許してくれる。





「歳の差って、まあ全く考えないわけじゃないけど、でも別にそこまで気にしてるわけでもないと思う。だってそれで気持ちがどう変わるわけでもないもの」

「フッ…同感だな」





アーロンも小さく笑う。

まあ、アーロンのこと好きだなって思った時、指で数えて考えたりはした。
でもどんなに差があったとして、だからってって話なんだよね。

ただ、ここはちょっと不思議な異なる世界。





「へへへっ、でもアーロンと歳が近くなったっていうこの異世界ならではの状況、折角だから楽しみたいなって気持ちもあるわけですよ」

「わざわざ特別するようなことなどあるのか?」

「特別とかそういうんじゃないけど、でも普通なら起こりえない、ありえないことでしょ?それを楽しもうってだけだよ!」





今度はぎゅっと、アーロンの腕に絡めて抱き着く。

今、いちばん歳の差がない姿。

普通はありえないこと。
この世界だからこそ起きた、不思議な体験。





「アーロン、デートしよ!」

「デート…?」

「うん!ちょうど街の地形だし!」





笑顔で見上げて頷いてみる。

今いる場所は、ノクトたちの世界にある街レスタルム。
なかなかデートにはおあつらえ向きな場所なんじゃないかなーって。

すると、アーロンは小さな呆れため息。

だけど。





「お前が望むなら」





ふっと穏やかに、そう微笑んでくれた。



END
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