伝説の旅路


この辺りは気候が良くて気持ちよさそうだ。
そんな話をしていたあたしとユウナはお散歩しようかとふたりで飛空艇を下りた。





「ユウナ、どこ行く?」

「そうだねえ…、あれ?ナマエ、見て」

「え?」





さて、どっちに行ってみようかと話そうとしたその時。
ユウナが何かに気が付き、指をさした。

え、とあたしもその先を見る。





「あ」





そこにあった光景。
それは、魔物と対峙するブラスカさん、ジェクトさん、アーロンの姿だった。

そういえば見かけないなって思ってたけど、3人で外に出てたのか。





「結構大きいね…」

「うーん。まあ、そうだね」





周りにいた雑魚を軽く蹴散らし、残るはちょっと大きめの魔物。

少し厄介そうかなとは思うけど、でもユウナの声もあたしの声も、大して焦ってはいなかった。
いやまあ別に倒せるでしょって感じというか。

手伝いに行っても全然いいのだけど、あのお三方でも充分事足りるのは間違いないだろう。





「ちょっと見てる?」

「えへへ、うん、父さんが戦ってるのじっくり見たい」





様子を見ているユウナの顔がなんだか楽しそうだったから、聞いてみるとやっぱり頷いた。
じゃあ、ちょっと見学してましょーか。

そうしてあたしとユウナは少し離れたところでその戦闘の様子を見守っていた。





「片付けるか」

「こりゃあ、勝っちまうな!」





しばらくして、魔物の様子に変化が出た。

大きな威嚇。
でもそれはきっと最後のあがき。

あと、もう一歩でこちらの勝利が見えた。





「備えならある」





前に出たアーロンとジェクトさんに、ブラスカさんがヘイスガを唱えた。
それを受けた瞬間、ふたりは一気に前に飛び出す。

重く、しかし素早い攻撃の嵐。

魔物の体制が崩れた。

あと、一撃。
それできっと片が付く。

アーロンとジェクトさんは一度引いた。

そして…。





「見せ場だ!」





お前がトドメを刺せと、ジェクトさんがアーロンを焚きつけた。

その時、なんとなくあたしも察してた。
多分トドメは、アーロンが決めるって。

それが分かった瞬間、思わず駆け出していた。

ユウナが「ナマエ!」って、びっくりしてたけど。
でもごめん、ちょっとだけ!

だってこんなの見たら、ワクワクしちゃうじゃん!





「アーロンっ!」





あたしは呼びかけた。
でも、アーロンは振り向かない。

ただ代わりに、大きく剣を振り上げた。

さっすが。
まあ、もう軽く100回は超えて使ってる合わせ技なので。





「いっけえ!」





あたしは思いっきりアーロンの刀に向かってファイガを放った。

炎を纏う刃。
アーロンはそれを、力のままに振り下ろす。

トドメの一撃。
アーロンはそれを見事に決め、魔物はその場に崩れ落ちた。





「父さん!」

「ユウナ」





戦いを見届けると、ユウナもこちらに駆け寄ってきた。
一歩下がっていたブラスカさんとジェクトさんがそれを迎える。





「おう、ユウナちゃんもいたんだな」

「ああ、急にナマエの声が聞こえた時は驚いたが」

「ナマエとふたりで散歩しようかって話してて、そしたら父さんたちを見つけたから。ふふ、凄かった!思わず足を止めて、見惚れちゃってたの」

「ははは、そうかい。それは嬉しいね」

「へへっ、まあ俺様達に掛かればこんなもんよってな!」





ユウナに褒められ、気を良くしたように笑うブラスカさんとジェクトさん。
一方で、あたしはくるっともうひとりを振り返って見た。





「よっ、おつかれー」

「まったく、無茶をさせるな」

「決まったんだからいーじゃない」





捻くれ口調はいつもの通り。
戻ってきたアーロンと一緒に、あたしも3人のところに歩み寄った。





「ブラスカさん、ジェクトさん、お疲れ様です!ふふ、外から見てるのもなかなか楽しいですね!」

「ははっ!それは何よりだ。だけどナマエの場合は」

「そう言いつつ、飛び入り参加してたじゃねえかよ」

「えへへ!」





ジェクトさんに軽く小突かれ、へらっと笑う。

見てるのは楽しかった。それは本当。
でも、うずうずしちゃって飛び込んじゃったのも事実。





「回復するね」

「ああ、ありがとう、ユウナ」

「おう、頼むぜ、ユウナちゃん」





ユウナは回復魔法を唱え始めた。
それを見たあたしもアーロンを見上げる。





「アーロンもする?」

「ああ、頼む」





3人も一気に回復するのは大変だろうし。
ブラスカさんとジェクトさんはユウナに任せ、あたしもアーロンに回復魔法を唱えた。

そこからは、おじさまたちも交えて辺りを歩こうかと言う話になった。

天気が良くて気持ちがいい。
この人数なら探索がてら、ちょっと距離を伸ばしても良さそうだしね。





「ちょっと、懐かしかったなー」

「懐かしい?」




歩き出して、ぽつりと呟く。
すると隣を歩いていたアーロンが聞き返してくれた。

歩くのは、ユウナ、ブラスカさん、ジェクトさんの少しだけ後ろ。

あたしはこくんとアーロンを見上げて頷いた。





「最初の頃、魔法がまともに使えるようになるまでは、ああやって眺めてることも多かったから」

「ああ…」

「ジェクトさんは持ち前の運動神経で早々に戦力になってたからね」

「あれはまた特殊だろう」

「まーね。でも、格好いいなあって、3人の背中を見てた」





ガードにしてもらって、すぐの頃。
魔物なんていない平和な世界で暮らしていたあたしは戦うなんて出来なかった。

だから、戦うアーロン、ジェクトさん、ブラスカさんの姿によく見惚れてた。

まあ、いつまでも見惚れてばっかじゃいられないから、あの時は結構魔法の勉強頑張ったんだよね。
そこからは、役に立てる喜びも知っていったんだけど。

でも、本当に最初の頃の気持ち。
それを思い出して、懐かしいなって思った。

そんなことを考えていると、ちょっと思い立つ。

じゃあ思い立ったなら。
あたしはくすっと笑い、ぎゅっとアーロンの腕に抱き着いた。

驚いたのか、ちょっとびくりとされる。

でもそのまま。
あたしは見上げて一言。





「格好よかったよ、アーロン」





此方を見下ろすアーロンは、サングラスの奥の瞳を丸くさせていた。

あたしはパッと手を解く。

だって前、皆歩いてるし。
まあ最悪見られてもおふざけだって誤魔化すだけだけど、でも元々こっそりの予定だったので。





「…突然なんだ」

「思ったから言っただけですー」





けろっと笑う。

まあ、ちょっとした悪戯。
でも本当に思ったこと。

すると、アーロンは呆れ気味に息をついた。

でも、小さく笑みを零して。





「まあ、悪い気はせんがな」





そう言ったその顔は、機嫌が良さそうだった。



END
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