恋話


「そっか、狩りかー。宿とか普通に泊ってたし、基本的に召喚士は歓迎されるというか…だから、そういう経験ってあんまりないんだよね」

「こっちは野宿ばっかだったからな。でも、案外楽しいもんだぜ。大物が獲れた時はやっぱテンション上がるしな」





ファングと話す、旅の最中のお食事事情。

召喚士の一行として旅をしていたあたしたちは、宿をとったり、アルベド族の飛空艇に身を寄せていたり…。
そんな感じだったから、野宿とかってあんまりした記憶がない。

結婚式騒動があって、ベベルからマカラーニャの森に逃げた時とかくらいかな?

一方、打って変わってファングたちのルシ一行の旅は世界中が敵だらけ。
当然宿なんて取れないし、大自然での野宿や狩りが日常的だったとか。

そんな話をしていると、向こうからマッシュがやってきた。





「なあ、女子たちが架空の恋愛話で盛り上がってるぞ。微笑ましいよな」





そう言われ、その場にいた何人かが振り向く。

あたし、ファング。
それと近くにアーロン、ヤン、カイエン。

ほう、恋愛話とな。
なんかそんな可愛らしい話をするには凄い面子な気がするんだけど。

でもそんな話題を聞き、真っ先に声を裏返らせた人がこの中にひとりいた。





「れっ、恋愛話だと!?」

「ははっ!アーシュラはいなかったから、安心しろ」





声を上げたのはヤン。
その反応にすぐ理由を察したマッシュは軽く笑う。

ああ、なるほど。
お父さんとしては娘のそういう話って複雑?





「いいじゃねーか。年頃なんだから、浮いた話のひとつやふたつくらい」

「むっ、そういう意味では…!」





ファングに小突かれ、少し焦っているヤン。
まあ否定してるけどアーシュラのことで焦ったのは明白だよね。

すると意外や意外、そんなヤンをなだめに入ったのはカイエンだった。





「左様…その時が来たら、認めてやってほしいものでござる」

「訳ありのようだな」

「うむ…。以前、恋人を喪い、生きる気力を無くした娘さんを励ましたことがある。見ていられぬほどの憔悴ぶりだったが…恋の思い出に触れた時活き活きした様子は拙者も思わず安堵したものでござるよ」





アーロンに尋ねられ、その詳細を話してくれたカイエン。
それを聞くとヤンも少し思ったことがあったよう。





「むう…確かに私も妻には支えられているわけだし…、とはいえ、まだ早い!武の道を究めるまでは、ならん!」

「え、ええ…」

「フッ、父親と言うものは頑固だな」





結局やっぱりダメなのか…。
その結論にあたしは苦笑いし、隣でアーロンも小さく笑っていた。

するとマッシュが思い出したようにアーロンを見て尋ねてきた。





「そういや小耳に挟んだんだが…昔、縁談を断ったことがあるらしいな?それはやっぱりナマエがいたからってことか?」





ちょっと、ぴくりと反応した。

ああ、そういえばブラスカさんが来た時点でそういう話題が出たこともあったかも。
アーロンがブラスカさんのガードになったのはその縁談を断ったことが関係しているし。

でも、あたしがとな。
うーん?まあ確かにこの世界で出会った人たちだとそう思うのかもしれない。

しかしそれはハズレ。
あたしは関係なしだ。

だからあたしは「ううん」と首を横に振った。





「それね、あたし全っ然関係なしだよ〜」

「…ああ。それは、こいつと出会う前の話だからな」

「えっ、そうなのか?」





同じようにアーロンも否定すると、マッシュはちょっと驚いた様子。
そして少しだけ申し訳なさそうな反応をした。





「そっか、変な話振って悪いな」

「え?ううん!全然!その辺の話知ってるし、なーんもだよ!むしろアーロンの縁談とかそりゃ気になるよねー!」





あたしはアーロンをちらりと見上げてにしし…と笑った。
その視線に気づいたアーロンはすっごい微妙そうな顔してたけど。

でも別に隠すような変な話でもないわけで。

アーロンはひとつ息を吐くと、そのことを話し始めた。





「…出世絡みのものだったからな。それで夫婦になっても相手に失礼だ」





そう、結局はそういうこと。
堅物たるアーロンはそういう理由で縁談話を断った。





「真面目だなあ!あんただったらきっと見合いでも好かれてたろうに」

「フッ…そうか?面白みのない堅物には無理な話だ」





アーロンの答えを、ファングは真面目と言う。
それを聞いたアーロンは少しの謙遜、自分から堅物と言って軽く笑って見せた。

うーん…まあ、その辺ってどうだったんだろう。
案外、向こうさんは乗り気な話だったのかもしれないし…。

ああ、でもその話はのちにキノック老師にいったって聞いたから、そういうわけでもなかったのかな。





「堅物ねえ…。ま、その選択をしたからナマエが隣にいるんだろうけど」

「ファング」





ファングにぐいっと肩を掴まれ、後ろから抱きしめられる。

まあアーロンが話を受けていたら、きっと旅はしなかったし、あたしは出会えなかった。
そういう想像はあたしもしたことあるけど。

するとファングはまじまじとアーロンの顔を見た。





「ジェクトに頼まれて馬鹿正直にティーダを見守ってきたんだっけ。ただ、大事なことはそれと同じだろ。傍で安心させてやって、笑顔を守りゃいい」

「親子の接し方と同列に語るな。伴侶相手では違う」

「そっか?結局、好きな相手は家族…みたいな気持ちでもあるんじゃねーの?」





親子と、伴侶…。
それを聞いて、あたしも思わずまじっとアーロンの顔を見た。

いや、アーロンのそういう価値観ってあんまり聞いた事なかったなって思ったから。





「無事を祈り、守ろうとし、いつも幸せであって欲しいと願う。ふむ…そうかもしれんな」

「まあ、夫婦だって家族の形だもんな。共通する愛情もあるだろう」





奥さんへの気持ち、子供への気持ち。
両方わかるカイエンが頷けば、マッシュもそれに同意する。

多分、家庭を持って…それから変化していく気持ちもあるのかなとも思うんだけど。
家族っていう形に変わるから、確かに共通する愛もあるように思う。

するとそれにはヤンも同意した。





「うむ。妻やアーシュラにはいつまでも健やかに幸福でいて欲しいものだ」

「…ってことで、アーシュラがそういう相手を連れてきても、認めてやろうな!」

「ぬおっ!」





マッシュに突っ込まれると、ぴしりと固まるヤン。
あー…これは…。

その反応にファングがにやにや笑う。





「どうしたよ。納得したんじゃねーのか?」

「しかし、ぐぬぬ…!」

「頭で納得しても、心は受け入れがたいらしい」





アーロンも軽く笑い、やれやれと首を振る。

まあ、そんな「ぐぬぬ…」ってねえ。
あたしもちょろっと口を挟んでみる。





「まあまあ、アーシュラが決めた相手ならいいじゃない」

「はあ、先が思いやられるな。私らはアーシュラの味方だぜ。な、ナマエ」

「うん。そこはアーシュラについちゃうよねー」





「ねー」「なー」とファングと頷き合って笑う。

まあ、お父さんと言うのは色々複雑なものらしい。
それも子供を大切に想うがゆえ、なんだろうけどね。





「あー、面白かった。お父さんは大変だ」





歩きながら、けらけら笑う。
あの場から解散して、テキトーにぶらぶらする。

アーロンだけは、まだ一緒。





「でも、縁談の話があそこで出て来るとは思わなかったなー」

「お前、楽しんでいただろう」

「へっへっへ、そりゃ楽しいに決まってんじゃん」





アーロンの縁談話。
まあそりゃ、もしアーロンが話を受けてて、別の誰かと…とか考えるのはウーンって思ったことはあるけど。

でも普通に、アーロンがそういうネタの中心になるのは面白いって話だ。





「親子と伴侶は違うかー。そう言う価値観聞けたのもちょっと新鮮だったよ」

「…まあ、確かに共通する部分もあるのかもしれんがな」

「うん。家族だからね。それはあたしもあると思うな」





笑っていて欲しい。幸せでいて欲しい。
それを守れるようにと願う。

家族愛とか言うし、それは共通するだろうなって思う。





「まあでも、アーロンは良い人だよねえ…」

「何だ急に、気味が悪い」

「褒めてんのに何だとこの野郎」





気味悪いってなんだ。
本当つくづく失礼なおっさんだ。

…まあいい。

話そうと思って言ったことだから、このまま続けよう。





「縁談を断った理由。まず相手に失礼だって言ったの、凄いなって思ったの」

「どういう意味だ?」

「だってさ、んー…あたしもさ、全然知らない人と結婚しなさいとか言われたら、嫌だなって思うと思うんだ。でもそう、最初に来る理由って自分が嫌だからなんだよね」

「…俺とて、自分が乗り気ではないというのも勿論あったぞ」

「うん、まあそうかもだけど、でも最初に相手への気遣いが出て来るのは優しいなって思った」





まあ、そういうことだ。

ファングにも真面目だって言われてたけど、まあそうだよね。
真面目で、頭の堅い堅物。

でも、こういう堅さは格好いいなって。
あたしがアーロンのこと好きな理由のひとつだ。





「……。」

「ふふふー」





アーロンは黙った。
あたしは笑う。

もしかして、ちょっと照れてたりして。

そんな風に思っていると、アーロンは思い出したように言った。





「…娘達が恋愛話で盛り上がる、か」

「ん?」

「フッ…お前は食い気だったな。旅行公司の夕食に、狩りの肉の話にも食い付いていたな」

「ほっとけいっ」





ガスッと軽くアーロンの横腹の辺りを殴る。
でもそうしながら笑みを零すと、アーロンもフッと笑っていた。



END
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