過去と未来
「ナマエ!」
「わっ…」
ひらりと緩やかになびいた薔薇色の髪。
その色はとてもよく知っているもの。
だけど、そこに浮かべられている可憐な微笑みは…正直、あまりよく知らない。
「えっ、あ、あの…!?」
ふわりと抱き締められたその感覚。
咄嗟に抱き留めて、でもその手は触れていいのかと行き場に悩んだ。
あたしは笑顔で抱き着いてきたセラに大きな驚きを覚えた。
「あ、ご、ごめんね。そっか…ナマエも、私より過去から来てるんだよね…」
「えっと…そうなるの、かな…?」
あたしの反応も見てすぐに離れたセラ。
そんな彼女の表情は眉を下げてどこか少し寂しそうだった。
少しずつ少しずつ仲間を増やしながら進み続けているこの異世界での旅。
今はニーベウスという都市を散策しているところで、そこであたしたちは武器を手にひとりで戦っていたセラと出会った。
前に、ルシにされたあの遺跡の中で一度だけ、あたしはセラの姿を見た事がある。
最もその直後にセラはクリスタルになってしまったから、本当に見たってだけなんだけど。
でも、だからあたしの中のセラと言えばライトやスノウの話の中にだけにしかいない。
だけど彼女はあたしのことをよく知っているみたいだった。
「…未来では、あたし、セラと仲良しなのかな…?」
ライトに似ていて、でももう少し印象の柔らかい色。
そんな瞳をおずっと見つめ、ゆっくりとそう尋ねてみる。
すると彼女はきょとんとしたように目を丸くした。
ん?ちょっとストレートに行き過ぎた…?
仲良しとか厚かましい…?
若干、そんな不安が脳裏に過る。
だけどそれもつかの間。
セラはすぐにくすりと笑い、そして楽しそうにこう言った。
「うん。ふふっ、多分…仲良しだよ?」
「多分?」
「ふふふっ!だって、ナマエがどう思ってくれてるかは…私にはわからないからねえ」
「えええ〜っ、そういう?」
「そういう」
「……ふっ」
なんだか、思わず噴き出した。
するとそれが合図だったみたいにふたりで一緒に笑ってた。
ああ、なんかいいなあ、この雰囲気。
自然と思ったのはそんなこと。
今、ここにいるセラはあの13の世界からこちらに来ている面子の中で誰よりも未来の記憶を有しているのだと言う。
そう未来のことを彼女は多く語らないけれど、やっぱり色々と変わっている事もあるみたいだ。
例えばセラが旅に出て、戦えるようになっていたり…。
セラがあたしの事をこうして知っていたり。
だけど、こうして少し話をしただけだけど…感じた事もある。
何があったかはよくわからないけど、未来のあたしはきっと…セラのこと大切に思っていたのだろう。
「ああ、そう言えばスノウに言われたっけ…」
「スノウ?」
「うん。結構気が合いそうな感じはするから、会えたら話してみろってさ」
「ああ…そう言えば前にもナマエそんなこと言ってたかも。スノウにそう言われたから話してみたかったんだって」
「え、おお…流石、未来とはいえ同じ人間。思う事は一緒って感じ?」
「ふふ、そうかもね」
本当に、すっかりぺらぺらと仲良くお喋りしてしまってる。
これは…スノウ本当に大正解。
スノウの勘、やるじゃん!
…って、なんかよくわかんないけど、確かにセラとはウマが合うかもしれない…。
これは良いお友達を見つけてしまった気がするぞ!!
セラと話してるうちに、なんだか妙なウキウキ感が目覚めてきたあたし。
でもその時、そんなテンションに歯止めを掛けるかのようによく聞き慣れた声に名前を呼ばれた。
「ナマエさーん!」
「あ、ホープ」
「ホープくん」
「あ、セラさん…すみません、お邪魔しちゃいましたか?」
「ううん、別に?」
「うん。大丈夫だよ」
名前を呼ぶ声はホープのもの。
ホープはこちらに駆け寄ってきて、でもセラの姿を見つけて少し申し訳なさそうな顔をした。
だから、ただ雑談してただけだから平気だって言えば、また「すみません」って一言だけ言って小さく笑った。
「どうかした?」
「いや、ごめんなさい。本当に大したことは…さっき、バトル参加してたよなって思って…」
「ああ、ケアル?うん、大丈夫。一緒に行ってもらったメンバーが前衛さんばっかりだったからね〜。後ろで地味〜に支援してただけだもん」
「この間そう言って豪快に足すりむいてたじゃないですか…」
「あれはちょっと石に足を取られたから…ってもう忘れてたのに!しかもセラにばらすな!めっちゃ皆に笑われたやつ…」
「ふっ…あはは!忘れちゃ駄目ですよ。また足取られますよ?」
「言ってくれるじゃないか…」
くそう。ホープめ、このやろう。
人の古傷ぐりぐり抉りよってからに…!
むすっと不貞腐れるあたしと、くすくすと笑ってるホープ。
すると、そんな様子を見ていたセラは「あっ…」と何かに気が付いたように小さな声を漏らした。
「そっか…ナマエとホープくん、まだ…」
「ん?」
「セラさん?」
その声にふたりでセラを見る。
するとその視線に気が付いたセラはゆっくりと首を横に振った。
「ううん、仲良いなって思っただけだよ」
セラはそう言って優しく微笑んだ。
そんなセラの姿を見て、あたしはふと…少しだけ、頭に過ったことがあった。
そう言えば、セラが言う未来がどれくらいの未来なのかはわからないけど…あたし、あの世界でどうしてるのかな。
…ホープとは…。
凄く、不毛な事。
だって、どうするべきなのか、どうしたいのか…自分の答えが出せていないのにそんなことを考えるなんて。
今、あたしは曖昧に甘えてる。
…答え、ちゃんと出せる日、来るのかな…。
もしくは、出すことなく…消えてしまったりするのかな。
ただ、セラも、ホープも…。
笑ってくれる未来であればいい…。
そんなことを考えるのは、やっぱり甘えてるのかな…なんて、ちょっとだけ思って、あたしはまた、その心にゆっくりと蓋をした。
END
セラと絡む話は書きたいな〜ってずっと思ってたんです〜!
で、2部の1章が配信されて13がドエライことになってたのであれ出来たら書きたい…!っていう欲が沸きまして…その下準備的なカンジ。
いや本当…書けたらいいよね…2部…。(ちょっと遠い目…)
9章のどこかのストーリー中に組み込ませて書こうか悩んだんですけど結局オリジナルなお話にしてしまいました。
セラと仲良くなるお話、本編では省いてしまってるので丁度良かったかも。(笑)
ちなみにセラには結構色々と相談と言うか、話をしていた設定が自分の中だけであったり。
なのでセラはその曖昧の部分の事は大方知ってる設定です。
「まだ…」の後に続くのは「まだ曖昧な時なんだね」です。