一番寄りかかれる場所


「あのさ、ナマエ…お願いがあるんだけど」

「ん?なに、改まって」





とある夜。
ホープは何やら真面目な顔であたしにそう声を掛けてきた。





「僕がいなかった時の話、聞かせて欲しいなって思って」

「え?あー…」





言われてすぐに納得した。
彼の願いとは、自分が離脱していた期間の話を教えて欲しいと言うものだった。





「それは別に構わないけど…」

「ありがとう。助かるよ」

「でも、結構長いよ?」

「それは承知の上だよ。というか、だからナマエに頼んでるんだけど」

「はあーん、なるほど」





言われて納得。
まあ皆も聞けば全然教えてくれるとは思う。

でもホープがいなくなったのって、本当にこっちの世界に飛ばされてすぐだし、一から話すとなるとちょっと大がかりだ。





「よろしい、ナマエ様が一から十までしっかり教えて差し上げましょう」

「あはは、はい、助かります」

「ふふ、じゃ、なんか飲み物でも淹れてゆっくり話そうか」

「うん」





こうしてこの日から、あたしとホープは毎晩だいたい同じくらいの時間から話をするようになった。

次の日には響かない程度。
ほんの少しだけ夜更かしして、旅の記録を辿っていった。





「…という、そんな感じでしたってわけ」

「成る程…。その辺り、断片的には聞いてたから色々合点がいったよ」

「そ?じゃ、今日はこのあたりで終わりにしとこっか」

「えっ?ここからまた話動きそうだよね?」

「うん。でもこれ以上話すと長くなって区切り悪くなっちゃうから」

「…うーん、結構気になるんだけど」

「続きはまた明日!乞うご期待!」





時計の針を見る。
もう結構いい時間。

長く壮大な旅の話は、それこそ小説でも書けちゃうんじゃないかって感じだしね。

続けて数日経ったけど、まだまだ話は続いていく。

あたしもわりと丁寧に話してはいるつもりだし、ホープもちょいちょい質問を挟んできたりするから余計に時間かかってるのもあるかもしれないけど。

でも、こんな風に続けてきて。
また明日、明日はまた凄いんだよ、なんて言ってみたりして。

なんか千夜一夜物語みたいだわ。
いやその話の暴君とホープは似ても似つきませんけども。





「でもさ、昔も、よくこんな風にあったかいもの飲みながら、ナマエとふたりでちょっと夜更かししてたよね」

「ああ、してたね。居候させてもらってたときね」





ふと、遠い昔の出来事を思い出す。

まだまだ子供だった頃。
あのルシの旅を終えて、ホープの家にお世話になっていた時。

まあ、お子様には夜更かしって甘美よな。

ちょうどそれが出来るだけの体力がついてきた頃だし。





「って、やばいやばい、またこれ長々話始まるパターン!ほら、お開きお開き。さっさと寝るよ!」

「はいはい」





あたしが急かすと、ホープもかたん…と席を立ちあがる。

出したコップを片付けて、寝ないと流石に明日に響く。
明日は探索に出るって話もしてるしね。寝不足だなんて笑えない。

でも、ま…。





《だからナマエに頼んでるんだけど》





初日。
ホープが言った、そんな一言。

何気なかったけど、ちょっと胸に留めてある。

逆の立場だったとしたら、あたしもきっと、ホープを頼る。
一番、寄りかかれる、そんな場所。

その実感は悪くないなあってね。



END
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