ただ、嬉しくなっただけ
進行方向に霧が出てさ、見通しが悪い。
一度降りた方がいいかと思ってこちらを見に来た。
操縦席にいたヴァンが、甲板に出来てきてそう言った。
だけどそれに対し、光の彼は落ち着いた声でこう答える。
「…問題ない。このまま進んでも障害物はなさそうだ」
どうしてそんなことがわかるのだろう。
それはその場にいた誰もが思ったことだった。
しかし彼自身、それを上手く説明することは出来なさそうだった。
ただ、一先ずは信じてもらえないかと。
そう言うからには、本当に勘とかではないのだろう。
確信があって、そう言っている。
そこまで言うのならと、彼の言葉を信じてみることになった。
そうして進んでみた結果。
その言葉通り、無事に何事もなく飛空艇を下ろすことが出来た。
なんでも彼曰く、危険なものや悪意が感じられなかったという。
不思議な話。
でもなんにせよ、彼の話をまだまだ聞きたい。
こうして今まで甲板で話していたメンバーのまま、あたしたちは探索に出たのだった。
「あなたのことはお師匠様…父上から聞いておりました。こうして共に戦うことができ、光栄です!」
「ああ、君の事も頼りにしている。よろしく頼む」
現れたモンスターとの戦闘。
アーシュラは彼と初めて肩を並べられることに喜んでいるみたいだった。
そしてそれは、彼もまた同じこと。
「ヤンの娘とは心強い。セシルのことも驚いたが…」
「セオドアの事ですね。皆さんもそう仰っていました。私はポロム様やパロム様のお姿に驚いたものですが…ふふっ」
アーシュラやセオドア。
彼らは新世界に来てから加わった仲間だ。
というか、今一緒に行動しているシェルク、リュド、エナ・クロもそう。
当たり前だけど、こちらの世界に来てから仲間になった人たちは皆、彼とはまだ出会ってそう日が経ってないんだよね。
そしてそんな彼と同じような状況になっているのが、もうひとり。
「僕も新鮮でした。長らく皆さんのところを離れていたので…」
そう言って彼に同意したのはホープだった。
あたしは隣でうんうんと頷く。
「そーそ。ホープがいなくなったのも、新世界に来てわりとすぐだったからねー」
「うん。でも、戻ってきたら仲間が増えていてとても嬉しかったんですよ」
ホープがエルドナーシュと共に姿を消したのは、新世界に来てすぐの事だった。
まだ全然、元の世界の皆と、レイルたちくらいとしか再会出来てなかった時。
忘れもしない、アカデミアの景色の中で。
結構ひょうひょうと話す。
この話題を、腫れ物に触るみたい避けたりしない。
もう振り返って、大変だったねって、笑って話せばいい。
まあともかく。
ホープも彼と同じで、新世界で仲間になった人たちとはまだ日が浅いんだよね。
「今、ナマエに離れていた間の話を聞いてるんです」
「えっ、そうなのですか?」
「うん、長いから毎日少しずつだけどね」
「確かに一気には話せませんよね。色々ありましたからね」
成る程、と頷いてくれたアーシュラ。
自分がいなかった時期の話を聞かせて欲しい。
そうホープに頼まれたこともあって、最近毎夜、旅の話をする時間を設けている。
断る理由なんてないしね。
頼ってくれるのも嬉しいし。
真っ先に、頼られる場所にいる。
その事実は自然なことで、でも自然であることが嬉しい。
まあ、知っておいたほうが何かと役立つこともあるだろうと思うしね。
「これからもっと皆さんと仲良くなっていけたらいいですよね」
「ああ、そうしていきたい」
ホープと彼は共に頷き合っていた。
このふたりだからこそ、共感しあえること。
離れていた時間は寂しいものだ。
でも、こうして気持ちを共有出来る相手がいるっていうのは良かったのかもしれない。
いや良かったって言うのもおかしいんだけどさ。
「ナマエ?どうかした?」
「ううん、別に?なんでもないよ」
「そう?」
あたしは、ふたりの様子を見て…多分、頬を緩ませていた。
それに気が付いたホープに不思議そうな顔をされたけど、ゆっくり首を横に振る。
ただ、思っただけ。
またこうしてふたりがいる景色。
考えなきゃならないことは、まだまだたくさんあるけれど。
でも、望んだ景色の一つがあること。
それがただ、ちょっと嬉しくなっただけだ。
END