光の戦士が失ったもの


旧世界にて、光の戦士たる彼とガーランドはふたりきりの闘争を繰り広げていた。

この戦いに終わりはあるのか。
そんな思いを抱きながらも、マーテリアの想いを果たすべく、皆に安息をもたらし、闘争を終わらせる。その一心で彼は戦った。

しかし、そんな彼の思いを知ったガーランドは、ひとつの問いを投げかけてきた。

それはマーテリア…かの女神ではなく、別の存在ではないのかと。

その言葉を聞いた時、彼の心は揺れた。
まさか、自分の中で何かが欠けているのではないかと。

そんな時、あたしたちの願いが届き、この新たな世界へ渡ってくることが出来たのだと言う。





「そんなことがあったんですね…話してくれて、ありがとうございます」

「僕たちの思いは世界の隔たりを超えて届いたんだな…」





話を聞き、ホープとエースはそう彼に声を掛けた。

ひょんなことから、あたしたちは光の彼とゆっくり話す機会を得た。
旧世界のこと、ガーランドのこと、こちらに来ることが出来た切っ掛け。

光の羅針盤を集めて、皆で願って、彼の元へと繋がった。
それは全員の共通認識ではあるけれど、彼の視点から、また細かい部分を聞けるのは貴重だよね。

それにホープは、自分と重ね合わせ、思い、感じるものが何だか色々とあった様子だった。





「皆さんも、あの時の気持ちが届いたって知ったら嬉しいと思いますよ。僕にも届いたんです。ブーニベルゼに乗っ取られていましたが…。だから、負けられないって思えたんです。あなたも同じですか…?」

「ああ…おかげで惑わされずに済んだ。君たちのおかげだ」

「そう言ってくれるなら嬉しいな」

「うん、だね」





おかげ、と言ってくれる。

力になれたなら良かったと。
あの時の事を思い出し、エースやあたしは頷いた。

話を聞いている面子は、あたし、ホープ、エース、それからシェルクにリュド、アーシュラ、エナ・クロだ。

飛空艇の甲板の上、光の彼を囲んで皆で話を聞いている。





「それで、気になったことと言うのは?」

「ああ、ガーランドが示唆していただろう?欠け落ちたものとは何だろうな」





そして話を聞く中で、エースは彼にそう尋ねた。

それは旧世界での戦いの中、ガーランドが仄めかし、また光の彼自身も感じた欠け落ちたものの存在。





「心当たりはあるんでしょう?随分戸惑っていたようだもの」

「…おそらくは記憶だ。思い当たる節はある」





エナ・クロに言われ、彼は頷く。

心当たりは記憶。
彼は自分の中に失った記憶があると、そう感じているとのことだった。

それはマーテリアやスピリタスに近しい存在を失ったような記憶だと言う。





「取り戻すのは…怖いか?」





リュドは彼を気遣いながら聞く。

何か…誰かを失った記憶。
曖昧ながら、失ったという部分だけは色濃い事実だ。





「戸惑いはある。しかし…進むことをやめるつもりはない」





誰を、どんなふうに失ったのか。
そんなことを思い出すのは誰にとっても酷に決まっている。

だけど彼はそれを恐れはしないと言う。





「そうだな…記憶がなくて立ち止まってはいけないんだ。答えや出口はその先にあるのかもしれないし、失われた誰かだって望みを託していたかもしれない」





そう答えたエース。
それは本来の世界では死んだ人の記憶をなくしてしまうというエースらしい言葉だった。

記憶がなくても立ち止まらない。
それはきっと、彼の経験則だろうから。





「望みか。それはいったい…」





話を聞き、彼は頭を悩ませた。

そしてその階をじっと見つめるホープ。





「どうせなら、僕の失敗を教訓にしてください」





教訓とは。
そう思ってホープの顔を見ると、ホープもまたこちらを見て頷いた。





「中途半端な記憶に怯えてしまったせいで、仲間を…それに、何より大切な人を危険に晒したんです。だから僕も、あなたやエースさんが言ったように一先ず進む方に賛成です」

「ホープ…」

「ナマエはどう思う?」

「……。」





ホープに聞かれる。

仲間や…何より大切な人、ね。
そう言ってくれたのは、説得力を上げる意図だ。

でも、その言葉の時にこちらを見てくれたのは、嬉しい。

どう思うかなんて…そんなの、勿論決まってる。
だからあたしは微笑んで頷いた。





「あたしも進むに賛成。ひとりで進むわけじゃないし。なにかあったとしても、一緒に考える。それに、あなた自身が進みたいと願うなら、それを支えるよ」





それはホープに伝えたこと近しい。

ちゃんと周りには仲間がいる。
迷ったって、ひとりで悩むことなどないのだと。

まあ、だからこそホープもあたしに話を振ったんだろうけど。





「……。」





彼は黙った。
これは、何か考えてるのかな?

そんな様子にアーシュラが「あの…?」と声を掛けると、彼は首を横に振った。





「いや、少し…安堵していたのだ。私にも、皆と同じ想いがあるのだな」





それを聞いて、あたしはきょとんとした。
いやだって、何をそんな当たり前のことを…でしょ?

確かに彼は感受性豊かとか、そういうタイプではないかもしれないけど。

でも想いがあるなんて、そんなのは当たり前。

皆も勿論、そう思っている。





「当然だ。あなたにも心があるのだから。恐れも戸惑いも、悔しさだって否定しなくていい。あなたのすべてを認めてやってくれ」

「それに、私も言ったでしょ?失ったわけじゃないって」

「必ず、取り戻せます。だから大丈夫です」





リュドにエナ・クロにシェルク。
皆が励ますような声を掛ける。





「…感謝する」





彼はそう言って頷いた。



END
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