取り戻した希望


この世界で出会った皆と力を合わせて、あたしたちはブーニベルゼを倒した。


《いずれ甦るのかもしれないが、人はまた神に勝てるさ。必ずな》



いつかライトが言っていた言葉を思い出す。

その通りだ。
人は何度だって、立ち上がる力を持っているから。

そうして、希望を取り戻す。

ブーニベルゼが消えると、そこに光の球体が現れた。
宙に浮かぶその中に眠るのは…囚われていたホープ。

光はゆっくりと消える。
吊るされるように囚われていたホープの身体もその呪縛を解かれ、緩やかに落ちて来る。





「ホープっ!!」





あたしは咄嗟に、手を広げて走り出した。

そして、落ちてきたその体をぐっと抱きしめる。

落ちてくる速度はゆっくりだった。
けど、抱き留めたその瞬間、ふっと重力が戻ってくる。

まだ力の入っていないホープの身体と一緒に、あたしもそのまま膝をついた。





「…ナマエ…」

「ホープ…!」





その時、耳元にか細い声が届いた。

あたしの名前を呼ぶ、ホープの声。

さん付けじゃなくなった。
それは、取り戻した今の記憶の中にある…あたしへの呼び方。

ブーニベルゼとは全然違う。
本当の、ホープの声。





「…ナマエ…ごめん、僕…」

「ううん…おかえりなさい」

「っ…」





ぎゅっと、抱きしめる。
すると、あたしの背にもそれに応えてくれる感覚があった。

大好きなぬくもり。

ああ…、やっと、また会えた。
やっと、取り戻すことが出来た。

その想いを、ぎゅっと噛み締める。
きっと…ふたりで。

するとその時、皆の足音も近づいてきた。





「ライト…さん…」





あたしの背後。
来てくれた皆を…ライトを見上げ、ホープが呟く。

その声を聞き、あたしはホープの身体から離れ、ふたりで立ち上がった。
ただ…手だけは、繋いだまま。

そうして見たライトの顔は、少し感極まっているように見えた。





「ホープ!良かった…帰って来られたんだな…!」





無事と、再会を喜ぶ声。
良かったと言ってくれるその想いに、ホープは何かを耐えるように俯いた。





「勝手なことをして…すみません…。情けなくて、悔しくて、どうしようもないのに…あなたのところへ…そして」





言葉の途中、繋ぐ手に力がこもったのを感じた。
その感触に顔を見れば、ホープも顔を上げ、こちらを向く。





「ナマエの傍に戻れたことが…すごく…嬉しいんです…」





なんだか少し、泣きそうなくらいの声。

…移ったかな。
目の奥がなんだか熱くて。

ううん…でもきっと、その想いは同じで。





「ああ…私も同じだ。ずっと前から、そう思っていたよ」





ライトが優しく答える。

あたしも。
あたしは…繋ぐ手にもう片方の手も重ねて、包むようにホープに向き直った。





「あたしも、すごく嬉しいよ」

「…ナマエ」





ホープもこちらに向いてくれる。
そして、あたしが重ねたのと同じようにホープももう片方の手を添えてくれた。

でもそうして…また、彼は後悔する。





「僕は馬鹿でした。ライトさんや…ナマエを、守りたかったのに…」

「言うな」





するとライトは、短くそう言った。

その声にホープは顔を上げてライトを見る。
あたしも、同じように。





「無事でいてくれただけで、いいんだ」





ライトは微笑む。
それはとても穏やかに、優しい声で。





「そーだぜ!お前の代わりにスノウが殴られてやるってよ!」

「へへッ、みんな揃ったんだ。痛くも痒くもねえよ!」





その時、ファングやスノウがそう明るく言ってくれた。

何も気にすることはないのだと。
そう伝えるように。





「俺も…お前を助けたかった。けど、ひとりじゃ無理だったんだ」

「そうだよ。ふたりとも!もうひとりで決めちゃうなんて、絶対にダメだからね」

「どんなにキツいことだって、一緒に分け合おうぜ。仲間なんだからよ」






スノウは、自らも道を誤りかけたことを言う。
そこに、ヴァニラやサッズも声を重ねてくれる。

あたたかく迎える、仲間たちの声。





「はい…!」





その言葉たちに、ホープはやっと笑みを零した。

あたしたちは、ずっと支え合ってきた。
ひとりじゃ潰されそうになりそうなことも、一緒に乗り越えてきた。

そういう仲間の絆…。

なんだか懐かしくて。
でも確かに、改めてそれを感じられた気がする。





「ダメですね…皆さんの前じゃ…出会ったばかりの僕に戻ってしまう」





喜びの中、同時に…ホープは少しだけ、照れくさそうにそう呟いた。

懐かしいと感じたこと…。
それはきっと、皆同じなのだろう。

あの旅はもう遠い昔で…あの頃よりも、強くなれたことも沢山あるけれど。





「それでいいじゃねえか。長〜い付き合いなんだからよ」

「信じられねえくらいのな」





サッズやスノウが笑う。

信じられないくらい、長い付き合い。

うん。本当に。
それは何百年という…長い話。





「だが、そのおかげでブーニベルゼに勝つことが出来たんだ。どこにいようと何をしていようと、私たちは繋がっている。それを伝えるために…会いに来たよ、ホープ」

「ライトさん…。はい…っ!」





ライトの言葉に、ホープは改めて大きく頷く。

あたしたちのこの縁は、きっと切れることなどない。

思い続ければ…。
何者にだって、解くことは出来ない。

それは、この手だって同じ。





「ホープ」

「ナマエ…」

「あははっ、呼び捨て久しぶり」

「…はは、そうだね。久しぶりだ」

「まったく。ひとりで思いつめちゃってさ、本当にもう」

「…うん、ごめん」

「ふふふ、言いたい事、いっぱいあるよ」

「うん。聞く。ちゃんと聞くよ」

「当然」





ふふっ、と笑う。

ホープは、ちょっと申し訳さそうだった。
でも、その笑みは…すごくすごく嬉しそうで。

ライトと、スノウと、サッズと、ヴァニラと、ファングと。

仲間たちに囲まれて、皆で笑い合う。

その時、その様子を少し離れたところで見守るセラとノエル、そしてレインズさんにあたしは気が付いた。

セラとノエル。
ふたりとは目が合った。

あたしが気が付いたことに、ふたりも気付いてくれたから。


やったね。やったな。


ふたりはそんな顔で、ぐっと手を握っていたり、親指を立てていたり。
そんな様子にあたしは微笑んで、大きく頷く。

まだ…この世界での問題は片付いていない。
やることはまだまだあるけれど。

でも。





「ホープ、会いたかったよ」

「うん…、僕も…ナマエに会いたかった」





今は、もう少しだけ。
この喜びに浸っていたいと思った。



END
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