届かぬものに届いた気がして


この世界にも夜は来る。
暗くなった空。優しく光る星。

あたしはぼんやり、そんな景色を眺めていた。

特にすることもなく。
したいこともなく。

ユウナのところにでも行こうかなあ…。
適当に話し相手になってもらおうか…。

そんなことまたぼーんやり考えていれば、その直後に急に後ろから大きな声がした。





「おう!ナマエちゃん!何してやがんだ!」

「へっ…あっ!」




振り返ればそこにいた見知った顔。
豪快に笑う、親父さんの姿があった。





「ジェクトさん…」

「なーにこんなとこでひとりぼっちでいやがんだ?」

「いや、特に意味は…ユウナたちのとこ行こうかなって思ってたところで」

「フーン?」

「ジェクトさんは?確かアーロンたちと呑んでたんじゃ?」

「おう。そうだぜ。真っ最中だ」





今、ジェクトさんはアーロンや他のサッズとかカイエンとかのオジサマ達で集まって渋〜くお酒を交わし合っていたはずだ。

じゃあ一体ジェクトさんは何を。

そんなあたしの頭の中を察したのか、ジェクトさんは手に持って居たおつまみをあたしに見せた。




「つまみの追加だ」

「はー…盛り上がってるんですね」

「へへっ、まあな!」





その笑い方を見て、楽しいんだろうなと思った。
オジサマ同士で話も色々合うんだろうし。

アーロンも、楽しんでるかな。

そんなことを考えていれば、腕を組んであたしを見てるジェクトさんに気がつく。

うーん、なんだろ。
なーんか企んでる、そんな顔だ。

そう言うのがわかるくらいにはこの人とも一緒に居たんだよな、と何だか改めて実感する。

そして、そんな予感は見事的中。

ジェクトさんはニヤリと笑うと、ガシッとあたしの腕を捕まえた。





「暇してんだろ?だったらちょっくら付き合えよ」

「えっ」

「おら!いくぞ!」

「えええええっ!」





その後は、早い。
なんかこう…有無も言わさずって感じ?

これもう人攫いじゃないのか。

そんな勢いで、あたしはジェクトさんにズルズルと連行されてしまったのであった。





「おう!スペシャルゲストのご登場だぜ!」




ジェクトさんに首根っこ捕まれたまま連れてこられたオジサマ達の酒飲み会場。

ジェクトさんの声に面々が振り向き、あたしの姿を見るなり皆目を見開いていた。

勿論、その中にはアーロンもだ。




「ナマエ…」

「は、はろー…」




あたしを名前を呟いたアーロン。
あたしは軽く手を上げ、苦笑いしながらその声に応えた。





「まあほれ!座れや!」

「はあ…じゃあ、お邪魔します…」





おそらく先程まで座っていた場所なのであろう。
空いていたスペースにドカッと座ったジェクトさんに促されるまま、あたしもおずおず席に着く。

位置的にはジェクトさんとアーロンの真ん中って感じだった。





「お前…何をしているんだ」

「え、いや、何と言われても…ジェクトさんに連行された」





隣に座った際にアーロンに声を掛けられる。
素直に答えればアーロンは呆れたように息をついた。

いやいやいや、あたしなんも悪くないかんね!?





「俺とアーロンの旅を語るにゃ、この小娘は必要不可欠だぜ!」





がっはっはっ!と笑いながらパシパシ頭を叩かれる。

いやもう好きにしてくれ。どうにでもなっちまえ。
変に開き直ったあたしはそのまま大人しくされるがままでおつまみに手を伸ばす。

するとペシッとアーロンがジェクトさんの手を払った。

まぁ、なんというか10年前にはそう珍しくない状景だろうか。
あの時はアーロンが今より口煩かったからジェクトさんと言い争って、それを見てブラスカさんが笑って…。

今回は、そんなやりとりに笑うのはサッズ、スタイナー、カイエン、ラグナなんていうオトナな面々。





「ははっ!そういやナマエもユウナの父親のガードってのをしてたって話だったか?」





そしてサッズにそんなことを聞かれ、あたしはコクンと頷いた。





「そうだよ。一緒に旅させてもらってたの」

「なるほど。ナマエ殿も」

「世界を救う旅に同行されていたわけですな!感服いたしますぞ!」

「い、いやあ…それほどでも、ていうか本当にそれ程でもないだけど…」





カイエンやスタイナーの大層な感心にちょっと押され気味に笑った。

スピラでもよく羨望と言うか、そう言う目は向けられた。
伝説のガード。あたしなんか全然大したことないのに、そんな肩書が独り歩き。





「ん?でもなんか変じゃないか?ナマエってティーダたちと同じくらいの歳だよな?なのにアーロンやジェクトと旅してたのか?はっ!まさかこう見えて俺より年上だったり!?」

「いや、それは無い」





そう尋ねてきたのはラグナ。
でもなんか最後の方おかしな誤解されそうだったからの速攻できっぱり否定した。

「あ、そう?」なんてラグナはちょっとホッとした顔してたけど、でもこれってまあそりゃ疑問に思うことだよなとは思う。





「ええとね、前にティーダが自分はユウナたちとは違う世界の人間だって言ってたじゃない?つまりはジェクトさんもなわけだけど…。実はあたしもユウナ達とは違う世界の人間でね、でもティーダとジェクトさんともまた違って…。で、あたしの世界だけ皆の世界とは時間の進み方が違うらしくて…」





気が付いたら、なんか色々事細かに説明してた。
皆も結構真剣に聴いてくれたから、結構話甲斐もあったし…。





「あたしは、途中までしか旅してないから。本当に凄くなんて無いの。だけど、一緒に旅が出来て…良かったなって思ってるよ」





最後には、そんな本音まで零してた。

でも、隣にアーロンがいてジェクトさんがいて。
もう二度と戻ることなんて、届く事なんて無いと思ってた過去に…少し手が届いたような錯覚をして…。





「…悪かったな」

「うん?」





結局、なんだかんだお開きになるまでしっかりと付き合ってしまってた。

酔っぱらって寝てる面々もちらほら。
そんな中、アーロンがあたしに突然謝ってきた。





「ん?なんで謝ってる?」

「いや、適当なところで抜けさせてやろうと思ったんだが、なかなか流れを作れなかった」

「あー、ううん。大丈夫だよ。最初は困惑したけど後半はもうそんなの全然気にしてなかったし。むしろかなり楽しかったかも。話したいこと話して、色んな話も聞けて。おじさんたちの会話に混ざるのも悪くないねえ。連れてきてもらってジェクトさんに感謝だね!」

「…物好きだな」

「なんでだし」





そんな会話をしながらクスッと笑った。
そしてアーロンを見上げ、尋ねてみる。





「アーロンは?楽しめた?」





するとアーロンもふっと笑う。





「そうだな…」





アーロンはそう言いながら手をスッとあたしの方へ伸ばした。

あ、頭撫でてくれるかも。
一瞬、そんな期待が胸に浮かぶ。

けど、その手は頭に触れる前に下げられてしまった。

あれ…なんて思うと、後ろの方から一つの声。





「おめーらよぉ…あれからちったぁ進展のひとつでもあったのか?」

「ジェクトさん!」





振り返れば、そこには寝そべったままこちらを見上げてるジェクトさんがいた。

さっきまで寝てたのに。
いつ起きたんだろう。

あたしがそんなことを思っていれば、アーロンが口を開いた。





「何の話だ」

「けっ、そこでとぼけるかよ。まあいいけどな」





ジェクトさんはそう言いながら小さく笑う。
その笑みは、どこか満足そうな…そんな感じにも見えた。



END


アーロンの断章追加ストーリー…それのその後、ですかね。
ジェクトと渋の夢の共演。

ブラスカ様とジェクトは主人公とアーロンが仲良いな、お互いに悪くは思っていないだろうと気づいてた設定です。
ことさらにくっつけようとしたりはしないけど、たまにからかったり、見守ってたって感じ…って言えばいいんですかね。

そんな感じです!(雑)
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