この世界での仲間がいる
光の羅針盤が輝きを増し、あたしたちが光の戦士を連れ戻そうとすると、均衡が崩れて光の反乱が起きるかもしれない。
それはエルドナーシュの企みに支障をきたす。
だから彼はあたしたちの前に現れ、襲い掛かってきた。
光の反乱が起きることは、あたしたちにとっても良いこととは言えない。
だけど、もしその可能性があるとしても、食い止めればいい。
未来は決まっていない。希望はある。
それは仲間を見捨てる理由にはならない。
誰かを犠牲にするなんて、考えたくないから。
そうしてエルドナーシュを退けた時、光の羅針盤の光が一気に溢れ出した。
その光は、あたしたちを彼の元へと導いてくれた。
誰よりまばゆい光を讃える…真っ直ぐな、あたしたちのリーダーの元へ。
「君たちが…呼んでくれたのだな…」
「僕、信じてたよ…。また会えるって、あなたが言ってたから…!」
「俺だってそうだ!大事なこと、勝手に決めやがって!俺がどんだけ…どんだけ心配したと思ってんだ!!」
「…すまなかった。だが、君達を疑ったことはない。いつか必ずと…そう、信じていた」
倒れこんでいた彼の体をオニオンナイトとプリッシュが支える。
その顔には喜びが満ちていた。
また会えたと、心からの喜び。
でもそれはオニオンナイトとプリッシュだけじゃない。
彼の姿を見つけて、失われていた全員の記憶が蘇った。
どうして忘れてしまっていたのかと。
ウォーリア・オブ・ライト…彼との思い出をすべて取り戻すことが出来た。
だけど…その感傷に浸る時間を、あいつは与えはしなかった。
「…っ!」
風景が、突然変わった。
驚いて息を飲む。
息を飲んでしまったのは、それが誰の仕業なのか…咄嗟にわかってしまったからかもしれない。
「あれは…!」
オニオンナイトが声を上げる。
そして皆も彼の目線の先を見た。
…あたしも。
あたしは、振り向かずともそこにいるのが誰かわかっていた。
「…ブーニベルゼ」
振り向きながら、その名を口にする。
そこにいたのはホープの身体じゃない…。
ブーニベルゼの、本体…。
「至高神ブーニベルゼ…奴を倒せばホープを取り戻せる!」
「彼がまだ囚われているのか…!」
ライトの言葉を聞き、ウォーリア・オブ・ライトも今の状況を察してくれた。
そして彼はあたしに振り向き、心配をしてくれた。
あたしはその眼差しを受け、大丈夫と返す様に頷いた。
「見事、大いなる光の魂を解放してみせたか。やはりそなたらを解放者に据え、箱舟の中で育てたのは正しかった」
ブーニベルゼはライトとあたしを見下ろす。
そこにある存在はさっきとは違う…。
ホープの身体そのものを使って現れた時より…もっと、もっと。
「さっきより力が増してる…!」
「俺たちの記憶の断片を解放したせいだ…!」
ノエルとスノウが剣と拳を構える。
でもブーニベルゼは、そんな様に笑みを零す。
「卑しく、弱き、人間たちよ。等しく救いを与えようぞ。すべての魂を新たな世界へ。映しい世界を創り上げるのだ」
こいつの考え方、言う事は何も変わらない。
どの世界であっても…その思想は同じ。
人間というものがどういう存在なのか、まるで理解していない。
声だけはホープ…。
本当、胸糞が悪くて仕方ない。
「そんなものはいらない…お前の条件は飲んだ。ホープの心と身体を返せ!」
「愚かな…まだ気づかぬか…いつ集まるとも知れずにいた光の羅針盤を与えてやったのは、大いなる魂の解放を早めてやったのは、誰の加護によるものと思っている?」
ライトの叫びにこちらを見下すブーニベルゼ。
光の羅針盤を与えた…。
大いなる魂の解放を早めた…?
まるでそれは自分のお陰だと言うかのよう…。
でも待って…。
それってつまり…まさか、ラムザ達がまだ合流出来てないのって…。
「まさか、ラムザの光の羅針盤がなくなってしまったのは…!」
気付いたオニオンナイトが目を見開く。
この世界に来てから、あたしたちは順調に再会することが出来ていた。
それは光の羅針盤がそれぞれを導いてくれていたから。
でも、ラムザたちだけはいっこうに再会することが出来なかった…。
ラグナが光の羅針盤を拾ったと言っていたけど、それがラムザのモノだったらと…そんな予想だけはしていた。
合点がいった…。
それも、ブーニベルゼが仕組んだことだったのか…。
「そんなことまで出来る奴なのかよ!」
「当然。なんせ万能の神だからな…」
狼狽えたプリッシュにノエルがうんざり気味に答える。
ああ、本当…嫌になる。
「救いを求めよ。されば与えよう。嘆きも恨みも無き、純粋な喜びに満ちた生を。清めの炎に融けよ。然るのち、神の愛を誉れとせよ」
いつか聞いた台詞。
あの時と同じ。
だからこそ、あたしやライトは嫌悪が強くなる。
「何を言っても聞く奴じゃない…!」
「何度言ったってわからない、そんなのは人じゃないって、人を理解する気なんてこれっぽちもない…っ」
苦しくなる。
ホープ…。
ごめんね、ホープ…苦しいよね。
こんな奴の良いように使われて、心も身体も、何もかも奪われて…。
そう胸を押さえた時、目の前に輝く剣先が映った。
「では、戦って取り戻すしかあるまい」
「っ…あなた…まだ」
「お前…体はいいのか…!?」
剣を構えたのはウォーリア・オブ・ライトだった。
その姿にあたしやライトは心配する。
だって彼はついさっきまで酷く傷ついて…。
レムが回復魔法を唱えてくれたけど、まだ万全じゃないだろう。
でも、彼はゆるぎなく微笑む。
「不安はない。ここには、君達がいるのだから」
その言葉を聞いて、はっとした。
そうだ…。
もう、ひとりきりじゃない。
仲間がいる。たくさんの仲間が。
孤独じゃない。
絆を…力を合わせて、戦える。
「僕達だって強くなったんだ。あなたに劣らないって、見せるからね!」
「おう!さっさとホープも取り戻してやろうぜ!」
オニオンナイトとプリッシュが彼の言葉に応える。
うん…。
ここまで、色々あったよ。
あたしたち、きっと強くなれたよね。
怖くない。
あの時より…。
ライトとたったふたりで戦った時より、今はもっと、きっと恵まれている。
だって背中には、たくさんの仲間がいるのだから。
「ライト…!あの時より、力強いね!」
「ああ、そうだな。私もそう思うよ」
「うん…!だから、ホープ!」
「見ているか、ホープ!今からお前を解放しに行く」
ライトとふたり、ホープに呼びかける。
大丈夫。
あと、もう少し。
必ず、必ず助け出してみせるから。
「あの時のようにブーニベルゼを葬るが、今回だって上手くいくさ」
「うん!前に倒せたのに、もっと恵まれた今、倒せないわけなんかない!」
「ああ!私たちには、この世界での仲間がいるのだから!」
END