また皆で笑えたらいい
あたしたちは、オニオンナイトとプリッシュだけが覚えている光の戦士の姿を思い出すことに専念した。
もともとずっと、思い出さねばならないと思っていたことだった。
そして遂に、その時が来たということ。
だって彼は、あたしたちの大切な仲間だったのだから。
そしてそれは、ホープを助ける事にも繋がっている…。
だから、あたしは祈った。
あたしの手の中には光の羅針盤はないけど、示す輝きが増す様に。
離れ離れになっている仲間を救うために。
「ナマエは結構前からこの世界にいるんだよな」
「確か旅が始まった島からいるって言ってたよね」
「あ、うん。そうだね。今から考えると、結構な古株なのかも。あたしが加わった時、まだ指で数えられる人数だったし」
ノエルとセラと話しながら、この世界に来た時のことを思い出した。
あたしは、ひとりで佇んでいた。
見知らぬ草原にひとりきり。
空が青くて、白い雲が流れて…。
どうしていいのかわからなくて、そんな景色をぼんやり見てた。
「ああ…そういえば、その時はセラとノエルのことも忘れちゃってたんだよね」
「ああ、なんか最初はそうだったって聞いたな」
「そうだよ。皆、私たちの旅から3年前の記憶で止まっちゃってたの。私が加わったとき、誰も未来のこと覚えてなかったから。ふふっ、結構寂しかったんだからね」
「はは…その節は大変失礼いたしました。だけどまあ幸い、ルシだった時の…ライトたちのことは覚えてたから…皆どこだろう、これからどうしようって考えてたんだ」
呼んでみても返事はなかった。
ぽつんとひとりぼっち。
しーん…として、虚しくて。
だけどその時、背中の方で声がした。
《ナマエさんっ!!》
それは、何より一番聞きたかった声。
最初は幻聴でも聞こえたのかと思った。
でも、それは間違いなくホンモノだった。
「ホープが見つけてくれて、あたしは一行と合流出来たんだよね」
「そっか。ホープくんも最初の島にいたんだよね」
「うん。あと、サッズもね」
聞けば、ホープは突然ひとりで走り出したらしい。
何事だって追いかけたら、その先にあたしがいたと。
それは後でサッズから教えてもらった話。
「そうなの?」って聞いたら、ホープはちょっと気恥ずかしそうに笑ってたっけ。
でも…そう。
あの時、走り出したホープを追いかけて…サッズの他に、当時の旅のメンバーも来てくれたんだよね。
「その時、知り合いに会えたのか。無事なようで何よりだ…って、一番に声を掛けてくれた人がいた」
「それが、その例のリーダーって事か?」
「うん。きっとそうだと思う。その時、まだオニオンナイトくんはいなかったはずだから」
記憶が少しずつ、おぼろげながら…甦る。
ううん…。
本当は、あたしはちょっと特殊で…きっと、その光の戦士っていう存在自体は知っていた。
それはあたしの、本当の元の世界の記憶。
あの時、驚いた事は覚えてるんだ。
一方的に知っている、ゲームの中の登場人物たちが何人も現れたから。
でも、この世界で接した…光の戦士の彼の記憶だけ、すっぽり抜けている。
だけど今、掛けてくれた言葉…思い出せた。
きっと、皆で思い出そうとしているから、その力が強くなっているのかもしれない。
「ホープがいたら、その辺一緒に確認出来るんだけど…あんにゃろー、肝心なところでいないんだから!」
「不憫…。ふっ、じゃあ帰ってきたらお仕置きしてやればいいんじゃないか?」
「あ、いいじゃん、ノエル。何しちゃうー?」
「あははっ、もう、ホープくん可哀想だよ」
「いーのいーの。なーんにも言わないで、ひとりでいなくなっちゃったのは事実だし。どうしてくれようかなー」
そうそう。
そこはちょっと怒ってる。
まったく、ひとりで思いつめちゃってさ。
確かに、あの時はブーニベルゼの記憶がまだ思い出せていなかった。
《だからこそ…僕は今のうちに離れなきゃいけない…。もう、ライトさんや…ナマエさんと、一緒にはいられません》
わかるよ…。
自分の中にある、淀みの力がとんでもないものだって気が付いた。
それは、あたしやライトにとって害をなす力…。
傷つけないように、守るために…。
ホープはそう言って、あたしたちから離れることを選んだ。
今なら、その意味はわかるけど…。
記憶のないあたしたちは未来より劣るのかもしれない。
ホープは、神を打ち破る、解放者の目覚めを待ったのかもしれない。
でも、ホープがひとりで抱え込む必要なんて…やっぱりないよ。
「そういえば、仲がいいんだな…なんて事も、言われた気がするな…」
最初の島にいた時から、やっぱり何かとホープと話してることは多かったし、そんな姿を見て、リーダーの彼からそんな言葉を掛けられた気がする。
おう、大の仲良しよ!…なんて返したっけ。
ああ、思い出していく。
本当に…ホープがここにいたら、一緒に思い出してくれただろうな。
そうだった、懐かしいって…きっと。
早くまた、皆で笑えたらいい。
あたしは心から、そう願ってた。
END