全員が忘れていること


「…それで君たちは要求を飲んだってことか」





オニオンナイトは、難しい顔をしながらあたしたちの話を聞いてくれていた。

ホープの体に宿ったブーニベルゼと対面したあたしたち。

ブーニベルゼは『大いなる光の魂』というものを解放しろと言った。
あの神の言う事だから、素直に聞くべきではないのはわかる。

だけど、ホープのことを想うと…あたしやライトはそれを優先したかった。

今は、そういう報告を、リーダーたる彼にしているところだった。





「条件の悪い取引だな」

「仕方ないの。ブーニベルゼは万能の神だから…私たちの思いや常識が伝わるような相手じゃないんだ」





スコールがやれやれと首を振ると、ヴァニラがブーニベルゼは常識で計れる相手ではないのだと説明する。

あたしたちも思う。
これは一方的な取引で、こちらにとってはかなり分が悪いことだと。

だけど…。





「…ごめんね。だけど、ホープをいつまでも辛い目に遭わせるの、耐えられなくて…。助けること、優先したいの」

「ホープを助けるには…ひとまず従うしかない。かつて奴はセラの復活を条件に私を解放者に仕立てあげ、ナマエも手中に収めた。おそらく、同じことを企んでいるのだろう」

「じゃあ、今のホープはまるで人質…」





あたしとライトの話を聞き、ユウナは辛そうに気遣ってくれた。

その通り…今のホープは人質も同然。

勿論、あの時の同じように器として使っている部分もあるだろう。
だけどあたしたちの弱みでもあると、ブーニベルゼはわかっているはずだから。





「ブーニベルゼの目的が変わってなけりゃ、世界を作り変えるつもりだ。義姉さんかナマエを女神に変えて、世界を循環させる役目を押し付けるつもりだ」





スノウが説明した、ブーニベルゼの真の目的。

世界を維持するためには、女神の存在は必要不可欠だ。

死者を見守り、救う神。
魂が生まれ変わるための、その流れ。

かつては女神エトロが担っていたその役割。

それをブーニベルゼは、ライトかあたしに担わせようとしているのだ。





「…神を嫌う理由がよくわかった」

「ふん…思い出したのは、ついさっきだけどな」





スコールは、何かと神に嫌悪するライトの言い分に納得していた。

誰が聞いても、ブーニベルゼの目的には嫌悪するだろう。
本当に、人間のことなどこれっぽっちも理解していない…ろくでもない神だ。





「望んでないのに神様になるなんて…相手の要求を飲むだけじゃダメです…!」

「うん…ありがとう、ユウナ。あたしもライトも、神様になるつもりなんてない。自分の感情を押し殺してなんて、そんなこと絶対ありえないから。ね、ライト」

「ああ…」





ユウナの気遣いにお礼を言いながら、あたしはライトに話を振った。
するとライトは小さく笑いながら頷いた。

前は、ライトはひとりでその役目を負おうとした。

でも、そんなこと誰も望まない。
ひとりになんてさせないって、手を掴んだから。

今回はライトも、初めからそのつもりでいてくれてる。

だから、あたしたちは考える。
今、この世界でブーニベルゼが要求したその条件を。





「大いなる光の魂の解放…それが取引条件だ」

「大いなる光…って何かな。魂なら、誰か?」

「って言っても、全然思いつかないよね…」





ライトが取引条件を改めて説明し、あたしやヴァニラは頭を悩ます。

大いなる光の魂…。
なにか、強大な光ってこと?

皆も考えてくれたけど、きっと誰にも心当たりなんてないだろう。

でもその時、スノウが閃いたように別の角度の考え方を提示してくれた。





「だったらその逆だ。全員が忘れてることなんじゃねえか?」





思いつかないのなら、その逆。
全員で忘れていること。

そう言われると、思い当たる節があった。

闇のクリスタルを守り切れなかったあと、新たに生まれ変わったこの大地。
そこに来てから、あたしたちの大多数が忘れてしまった存在がある。





「それ、もしかして…!」

「あの人の、こと…?」






ユウナがオニオンナイトに聞けば、彼もハッとする。
そしてその場の視線がオニオンナイトに集まった。

オニオンナイトと、プリッシュだけが覚えている…ひとりの存在。

ふたりいわく、その人は…眩い光を讃えた、光の戦士なのだという。

それなら…大いなる光の魂という呼び方にも、しっくりくる気がする。





「時が、来たのか…」





ライトが呟く。

光の羅針盤。
それがすべて揃えば、その人のところに行く道になる。

だからあたしたちは、その手掛かりも探していた。





「うん、絶対にそうだ…。今こそ…あの人を取り戻そう!」





オニオンナイトは強く頷く。

ずっと探していた、光の戦士を取り戻すこと。
それがホープを救う事にも繋がっている。

そう確信を得たあたしたちは、記憶から失われた彼を取り戻すべく、その手掛かりを探すことにした。





「……。」






あたしはそっと胸に手を当てた。

少しずつ、進めてる。

でも…気持ち、やっぱり焦ってる。

たったひとりきり…。
望まぬまま体を乗っ取られ、人質にされている。

一秒でも早く、絶対助ける。

そう、胸の上で手を握りしめた。



END
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