偽りの手のひら


あたしたちは走った。
大切な大切な、あの背中を見つけて。

ひとり、塔の中で佇む小さな背中…。

やっと、やっと見つけた。





「ホープ…」





目の前まで来て、ライトが声を掛けた。

あたしは、ぎゅっと胸の上で手を握った。

違う…。
その背中はホープじゃないと、わかったから。





「ライト、違う…こいつは」

「…ああ。…ブーニベルゼ!!」





あたしは否定した。
ライトも確信し、その名を叫んだ。

すると、答える。

もう二度と聞きたくないと思っていた…あの、感情のない声。





「…記憶を取り戻したようだな、解放者、女神の力を継ぐ者」





銀髪を軽く揺らし、ゆっくりと振り返る。

声、姿…それは、どれをとってもホープのもの。
何よりも愛しい、大好きなもの。

だけど、全然違う。

冷たい声、冷たい瞳。





「卑しき人の器では、聖堂ひとつ呼び出すに留まっていたのだ。この世界もまた不完全よ」






ブーニベルゼは言う。

聖堂って…ルクセリオのあの大聖堂?
こいつはそれを、この世界に呼び出したの…?

それは最後の日の…。

そして、好き勝手なことを言う。
その言動には皆も怒りを覚えていた。





「酷い。ホープの体を奪っておいて…」

「ホープを返しやがれ!!」





ヴァニラが非難し、スノウが怒鳴る。
でも、ブーニベルゼには何も響かない。





「くだらぬ」





そう吐き捨てると、ホープの体から力が溢れた。
それは辺りをも震わせる、ぐんッ…という強い波動。





「うっ…!すごい威圧感…」

「空気が震えてる…!」





セラとノエルが少し圧倒される。

でも、気持ちはわかる。

感じる…その威圧感。
目の前にいる存在は、とんでもない存在だと、体のすべてでわかるから。





「気を抜くな…!あれは輝ける神にして、至高の存在…全能のブーニベルゼだ…!」





レインズさんが改めて声を掛けてくれた。

絶対に油断してはならない相手。
あれは、世界の創造神なのだから…。





「哀れな人間よ。悪しき縁に囚われているか」

「…まだ、そんなこと言ってるのね」





いつかも聞いた台詞。
あたしは厭味ったらしく言い返した。

本当にこいつは人を理解していない。

この世界で甦っても、何ひとつ変わってない。

すると、ライトの手があたしの肩に触れた。





「御託はいい。今度は何を企んでいる。まだホープを利用するつもりか!」





そしてライトも問い詰めた。

その目的。
再びホープの体を奪ってまで、企むその目的は。





「魂の解放だ。それこそが、世界に救いをもたらそう」





ブーニベルゼは静かに告げた。

魂の解放…。
それが救いをもたらす…。





「俺たちの魂は解放された。もう充分だろう!」





スノウが強く言った。
でも、ブーニベルゼは首を横に振る。





「否…到底足りぬ。大いなる光の魂を解放せよ。さすれば世界は救われよう」





そしてあたしたちに命令を下した。

大いなる光の…?

それって一体。
初めて聞く単語で、見当もつかない。





「大いなる光の魂、だと…?」

「裏がある。素直に飲むべきではない」





ライトが聞き返すと、レインズさんが止めた。

裏がある。
それは、勿論気が付いている。

ブーニベルゼに従って、ロクなことになるはずが無い。

だけど…。

今、あたしたちにはひとつ、大きな弱みがあった。





「だが…私はホープを取り戻したいんだ…!ナマエ…」

「…っ」





ライトが口にした、その望み。
あたしもそれに、心がぐらりと揺れた。

ホープ…。

取り戻したい。
早く、助けてあげたい。

本当は何より優先したい、その願い。

そんな想いは、神様に見透かされる。





「女神の力を継ぐ者…この手を掴めばいい。さすれば、そなたの望みは叶う。とこしえの愛を授けよう」

「っ…あんた…本当…」





ホープの姿。ホープの声。
そして、何より愛しいその手のひらを差し出す。

嫌悪する。
怒りと吐き気。

本当にこいつ、何も変わってない…。





「っそんなのいらない!あたしが欲しいのは、そんなものじゃない!」





叫んで、否定する。
でもきっと、神様には理解出来ない。

早く、取り戻したい…ホープのこと…。

胸の奥が痛くて、苦しくなる。

すると、それを見ていたライトが再びレインズさんに頼む。





「そのためにも、ここは…」

「…分かった。君達の考えたとおりに」





レインズさんは了承してくれた。

…ごめんなさい。

ちゃんとわかってる。
絶対裏がある。

素直に飲んでいい話じゃないって。





「心を決めたか。期待しているぞ、解放者、女神の力を継ぐ者」





こちらの答えを聞くと、ブーニベルゼはそう言い残しその場から姿を消した。
ふっ…と、目の前いたホープの姿が消えてしまう。





「ホープ…っ」





思わず手伸ばす。
でも勿論、間に合わない…。

その手は宙を泳ぎ、何にも触れることは叶わない…。

そういえば、エルドナーシュにホープが付いていった時も…同じように手が宙を泳いだ。

あの時、変な既視感を感じた気がした。

今ならわかる。
あれは…最後の日の1日前、ホープが消えてしまったあの瞬間に…よく似ていたんだ。





「ナマエ…」

「ライト…」





すると、ライトが後ろからぐっと肩を抱いてくれた。
それは痛みを分け合う様に…。





「すまない、ホープ。もう少しだけ、耐えてくれ…!」





そう言ったライトの顔を見る。
その顔も、悔しそうで、酷く悲痛そうだった。



END
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