人の力


「…はっきりしたことがある。ミンウ、お前の聞いた声は、恐らく…ブーニベルゼのものだ」

「うん。あたしもそう思う」





記憶を取り戻した今、ライトとあたしは確信した。

ミンウが聞いていたという声の正体。
それは恐らく、ブーニベルゼであると。

するとそれを聞いたスノウ、サッズ、ファングの表情も変わった。
きっと皆も、そうだろうと感じたのだろう。





「知ってるんだね」





その声の正体。
オニオンナイトに聞かれ、スノウやファングが答えた。





「知ってるも何も…義姉さんやナマエを利用した、神だ」

「ヴァニラのこともな。どころか、うちらの世界全てをひっくり返そうとしてたヤツだよ」





ライトを解放者に仕立てた張本人。

その目的は、嘆きも恨みもない、輝ける魂だけを新たな世界に生まれ変わらせること。

幾百年の歳月に耐えられなかったか弱き魂は不要。
心を曇らす悲しみの記憶は無用。

穢れた死者の魂などいらない。
歓びだけがあればいい。

でも、そんなのは人間じゃない。





「じゃあ、また君たちを利用するために?」

「恐らくな。ホープに与えられた淀みの断片、その正体こそがブーニベルゼだ」

「どういうこと…まさか、ホープの中にそいつが…!?」





ライトから淀みの正体を聞いたオニオンナイトは驚いていた。

そりゃ、驚くだろう。
まさかそんな神の力がホープの中になんて、誰だって想像できない。

元の世界にいた頃、あたしたちだって…そんなの想像つかなかった。





「…ブーニベルゼはね、ホープを幽閉したの。自分を宿す器にするために…」

「ナマエ…。そんな…」





あたしはオニオンナイトにホープとブーニベルゼの関係性を説明した。

それを聞くと、彼も言葉を失っていた。

13年を13回。
そうして169年の歳月を掛けて…ホープを己の宿る器に作り替えた…。

酷い話。
誰だってそう思う。

…ホープの気持ちを考えると、本当に…はらわたが煮えくり返りそうだ。





「奴は自分の力を取り戻すため、私たちを助ける素振りで誘導したんだろう」

「前にもそんなことがあったよな…。俺たちはまんまとその罠にはまっちまったってわけか」





ライトがブーニベルゼの思惑を読めば、カーッと悔しそうにアフロを掻くサッズ。

神様は、人の心を読めない。
だけど表情や声音を見て、内面を見透かすぐらい造作無い。

だから翻弄される…。
一筋縄じゃ行かない相手だ。





「ああ。だから奴は今まで以上に力をつけているだろうな」

「どーする?ったって、戦うんだろ?」

「当たり前だ。以前と同じであれば、ブーニベルゼを倒すことで私やナマエの魂も解放されるのだから…」

「うん…ホープの魂も」





ファングに戦うのだろうと問われ、ライトとあたしは頷いた。

そして顔を合わせる。
最後のあの時、ホープを助けて、あたしとホープの魂は解放された。

そしてふたりでライトの手を掴んだ。





「…それが、私たちの運命なのだろう?」





ライトはミンウに尋ねた。

未来が見えるというミンウ。
彼が見た未来というのは…きっと。

ミンウは頷いた。





「私の見たとおりだ。しかし運命とは従うだけのものではない。人はみな、いつか死ぬ…。だが、私は白魔導師だ。死が訪れるからと言って、傷ついたものを見捨てることは出来ない。運命に立ち向かい、切り開くことこそが、我々の誇るべき力なのだ」





そしてミンウは話してくれた。

運命というもの。

彼は知っている。そして、信じている。
人は運命に立ち向かう力を持っていること。

その考え方は、幾度となく運命に抗った…あたしたちととてもよく似ている気がした。

だから、ミンウに対するライトの見方も大きく変わる。





「…あんたのことを誤解していた様だ。私もそう思うよ」

「うん。人は強いよ。あたしたち、ちゃんとそれを知ってる」





あの時だって思った。

ブーニベルゼがもしまた甦ったとしても…。
人は何度だって、立ち上がることが出来るはずだって。





「ライト。ホープを助けに行こう」

「ああ。行くぞ…ホープを取り戻しに」




END
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