取り戻した記憶


「スノウ!!」





セラは駆け寄った。
ぐっと呻き、膝をついたスノウの元へ。

セラの手を借りながら、スノウは立ち上がる。





「へへ…皆、手加減美味いな…」





そう言ったスノウの顔には笑みが浮かんでいた。

もう後ろ暗いものはない。
いつもの、ニッと笑うスノウの顔。





「ああ。ちょうど良かったみたいだな」





ライトが答えた。

あたしたちは、スノウの混沌を抑えるためにスノウと対峙した。
力の加減は難しかったけど、スノウなら絶対に耐えて混沌を抑えつけられるって信じてたから。

もう、スノウからあの禍々しい気配は感じない。

そして、スノウの体から光が溢れ出した。
それはあたしたちの、失っていた記憶。

スノウから出て、辺りに満ち…あたしたちの中に戻ってくる。

すると、一気に忘れていたはずの記憶が蘇った。





「嘘…これって…」

「おいおい…こんなのアリか?」

「衝撃…実感湧かないかも」





ヴァニラ、サッズ、ノエルが驚きを口にする。
その言葉で、皆の記憶も蘇ったのだと実感できた。

うん…あたしの中にも、ちゃんと戻ってきた。

失われていた記憶。

…世界が終わる、最後の13日。





「ライト、ナマエ、お前ら本当にやったのかよ!!」

「えっ、ええと…」

「……。」





ファングに言われる。

本当にやったのか。
それは、13日の最終日のこと…。

でも、あたしはうまく言葉が見つからなかった。

いや、本当に一気に蘇ったから…ノエルが言ってたみたいに実感の方が追いついてなくて。
だけどわかる。それは紛れもない現実だ。

ライトはどうだったのだろう。
ライトも、何だかじっと黙っていたから。

するとその時、ひとり記憶を持っていたはずのスノウが驚いたように声を上げた。





「な、なんだこの記憶!?どうなってるんだ?セラ…義姉さん!!」





記憶を持っていたはずなのに、驚いているスノウ。
その様子を見たミンウは「ふむ…」と少し状況を整理してくれた。





「どうやら、全ての記憶があったわけではなさそうだな」

「そのつもりだったさ。けど…全部じゃなかったんだ!!」





どういう原理だったのかはわからないけど、スノウの記憶は完全ではなかった。
多分、希望も何もない、暗い部分だけで止まってしまっていたのだろう。

本当は、そんなことない…。
希望は、失われてなどいなかったのに。

そしてライトはレインズさんに振り返った。





「レインズ。あなたはこのことを見越していたんだな…」

「黙っていてすまなかった。記憶は己で取り戻してこそ、意味がある」

「チッ、良い趣味してるぜ」





ファングもレインズさんを肘で小突く。
今ならレインズさんがあたしたちを見守ってくれていたことがよくわかるから。





「お姉ちゃん、スノウ…私たちの未来には続きがあったんだね」

「ああ。私たちに残されたのは絶望じゃない。神のくびきを解き、新たな世界を掴んだんだ」





セラと、頷きながら微笑むライト。

そう。
あたしたちは、掴めた。

絶望に抗う希望、それが人の力だ。

そう叫んだライトの言葉を…よく覚えてる。

人は、その想いと絆で、神様に打ち勝つことが出来た。

でも…。





「スノウの早とちりだったんだね」

「悪かったよ…ああ、俺は本当に大馬鹿野郎だ!」





ヴァニラに「もうっ」と軽く叩かれながら、反省するスノウ。

もう、皆の表情はひとつ憑き物が取れたよう。
希望を思い出すことが出来たから、ふっと心が軽くなった部分があるのだろう。

でも…。

その時、あたしは引っ掛かりを覚えていた。

一気に思い出した記憶。
そしてそれを少しずつ辿り、実感も帯びていく。

だけどそうすると、くんっ…と引っ掛かる。

待って…。
だって、そうだとしたら…。





「ライトニングとナマエが戦ってくれたおかげだ」

「私やナマエだけじゃない…皆で掴んだ未来だ。なあ、ナマエ…?」

「…ナマエ?」





その時、ライトとノエルが声を掛けてくれた。

でもふたりは、あたしの顔を見て不思議そうな顔をする。
それはきっと…あたしの顔に曇りが浮かんでいたから。

ノエルに顔を覗き込まれる。





「ナマエ…どうした?」

「…希望、ちゃんと掴めた。それは覚えてる。でも…ちょっと待って…。だけどつまり、だったら…ホープは…」





口にしたホープの名前。
その瞬間、ぐっと不安の色が濃くなった。

だって…神様は。





「そうだよ…ホープくんは?スノウ、見つけられたの?」





あたしの声を聞き、セラがスノウに尋ねる。

するとスノウの顔は真剣なものに変わった。
そしてその目が、あたしに向いた。





「…悪い、ナマエ。ホープには追い付けた。でも、何も話せなかったんだ」





スノウはあたしに謝った。

彼は、ひとりでホープを追いかけた。

そして実際に追いつけた。
でも、何も話すことは叶わなかったという。

それは一体…と、皆不思議そうな顔をした。

だけど、あたしの引っ掛かりもそこにあった。

認めたくない。
でも、逸らせない…。





《皆が覚えていないだけです。だから、今のうちに離れます。皆を…ライトさんを、傷つけないように…。ナマエさんを…守る、ために…》





いなくなる直前、ホープが言っていた言葉。

今なら、その意味が分かる。
それは…つまり。

きっとそれは、もう確信だった。





「…スノウ。ホープは…ホープの中には…!」

「……。」





スノウはこくりと頷いた。
スノウはあたしが察したこと、気づいてくれたのだろう。

そして、ホープと話せなかった…その理由を口にする。





「あいつは…ブーニベルゼになってた」





それを聞くと、皆の顔色も変わった。

やっぱり…そうだった。

ホープがあたしたちから離れた理由。
エルドナーシュに植え付けられた、淀みの断片の正体。





「そうか…ホープに潜んでいたのは…!くそっ!こんなところで出てくるなんて!」





話が繋がり、ライトは悔しそうにぎりっと拳を握る。

ホープに潜んでいたもの…。
それは元の世界でホープの体を器とした…神、ブーニベルゼだった。





「我々が記憶を取り戻したのなら、恐らく彼らも…」

「急ごう…時間がない」





ひとりが記憶を取り戻したら、通常、その記憶は同じ世界から来た全員に戻る。
あたしたちが取り戻したのなら、ホープの体にも同じ変化が生じるはず。

レインズさんがそれを危惧すると、ライトは頷いた。

そして、あたしに振り向き言ってくれる。





「ナマエ、必ず取り戻すぞ」

「…うん!絶対、ブーニベルゼの好きになんてさせない…!」





あたしも大きく頷き、その声に答えた。

ホープの不安の理由はわかった。

わかったからこそ、絶対助ける。

神様になんて渡さない。
必ず、また、その手を掴むから。



END
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