筋の通った人
「なるほど。それぞれ異なる世界の者が一堂に会しているというわけか…」
バッツのお父さん、ドルガン。
新たにこの世界に呼ばれたその人は、異世界という事実を取り乱すことなく受け入れていた。
「呼ばれたばかりにしては落ち着いているな」
「驚かないのか」
そんなドルガンにアーロンとキマリが言う。
このふたりもそこまで困惑とかしてた記憶はないけど。
でも、そんなふたりからしてもドルガンの様子は落ち着いて見えるみたいだ。
するとドルガンは小さく笑った。
「はは…そもそも私はバッツと違う世界の人間なんだ」
「「!」」
自分は息子であるバッツとは違う世界の人間。
そんなカミングアウトにアーロンとキマリは反応する。
まあ驚くよね。
あたしは、まあその辺は本当の元の世界の記憶もあって…ってことで。
するとそこにバッツが補足するように付け加える。
「親父だけじゃないさ。ガラフやクルルもそうなんだ」
「バッツとレナとファリスは同じ世界ってことだよね」
「お、そうそう!そういうことだな」
あたしもちょろっと口をはさむと、バッツはうんうんと頷いてくれた。
別に隠していたわけではないだろうけど、アーロンたちにとってはここにきて初めての事実だよね。
漠然と、バッツたちは同じ世界の仲間って考えてただろうから。まあ大まかに言えばそれで間違っては無いんだけど。
でも、もともと世界を越える経験をしているのなら今の状況に驚かないことにも納得はいく。
「それがなぜ世界を越えるようなことに?」
そしてアーロンは続いて浮かんだ疑問を尋ねた。
まあ、そりゃ思うよね。
どうして世界を越えたのか。
だけど、うーん。
結構食い付いてるというか、興味持ってそうな感じ?
アーロンもスピラから夢のザナルカンドっていう異世界に飛んだ経験者だし、もしかしたら親近感みたいなのが湧いてるのかも。
あたしは隣でアーロンの横顔を見上げながらそんなことを思った。
「今から30年前…わしらと暁の4戦士は邪悪なるエクスデスと戦っておった。ドルガン、ゼザ、ケルガー、そしてわしが協力してもうひとつの世界にエクスデスを封印したんじゃが、その時エクスデスの復活を警戒したドルガンだけは元の世界に戻らずに…ひとりバッツたちの世界に残ったというわけじゃ」
ガラフが説明してくれた。
ガラフ、ドルガン、そしてあとふたり、暁の戦士と呼ばれる戦士がエクスデスと戦っていたこと。
エクスデスをバッツ達の世界に封印したために、ドルガンは残ったこと。
それを聞いたアーロンは納得していた。
「フッ…予感でもしたか」
「それだけじゃない…こちらの都合を別の世界に押し付ける事にも疑問があった」
「筋の通った考えだ」
ドルガンの答えも聞き、アーロンは更に頷く。
筋の通った考え、か。
なんというか。
親近感だけじゃなくて、感心してるというか…。
ドルガンの人となりそのもの気に入ってるみたいだ。
「封印はどうやって守っていた」
「俺が小さい頃、親父は時々出かけてたよな。悪い人を見張りに行くって。あれは封印の様子を見に行ってたんだろ?今ならわかるよ」
「ああ。その通りだ」
キマリが封印について聞くとバッツが幼少期を思い出し、その記憶をドルガンに確認していた。
幼い頃のバッツは父がどこに出掛けているのか理解していなかったけれど、今になって考えればそういうことだったのかと繋がっているようだった。
「そうだな、あの頃はまだ…」
息子からの問いに、何か考え出すドルガン。
その様子を見たアーロンは何か察したように声を掛けた。
「家庭を持てば責任感も強くなる。立派な父親だ」
アーロンのその言葉は、己の友と重ね合わせた部分もあったのかな。
家族を思う、仲間の背を見て。
異世界に残ったドルガンは、その世界で家庭を持った。
守るべきものが出来た。
ドルガンはゆっくり首を振った。
「そう持ち上げないでくれ。一度は退いた身…あとはバッツに任せるつもりさ。とはいえ、ガラフに負けるつもりはないがな」
「おおっ!言いおったな!?わしとてお前には負けんぞ!」
「ははは…!楽しみにしていよう」
ガラフと気兼ねなく話す姿。
それを見ていると、本当に気心知れた仲なのだろうなとその空気が伝わってきた気がした。
「なんかさ、アーロンってガラフとドルガン、どっちにもちょっと似てるよね」
「似てる?」
それから、各々の時間になった。
バッツとドルガンは、親子ふたりで話していたり。
あたしは飛空艇に戻る道を歩きつつ、アーロンと話してた。
「んー、もともとガラフとは立場似てるんじゃないかなあとは思ってたんだよね。親世代と息子世代と…みたいな?」
「ああ…」
「んでドルガンの方とは、異世界にひとりで…とか。あ、そうそう。あとね、知ってる?暁の戦士の中ではドルガンが最年少だったらしいよ?」
「俺たちの旅の最年少はお前だろう」
「ま、そりゃそうだけど。でも男の最年少はアーロンだよ。なんだかんだ可愛がってもらってた部分、あったと思うけど」
あの当時、アーロンは25歳。
ブラスカさん、ジェクトさんから見ると10近くは下だったわけで。
はたから見てても、そういう風に感じることはあったから。
「でもさ、親近感とか、あと普通にドルガンのこと気に入ってるでしょ、アーロン」
「そう見えたのか」
「うん。見えた」
「…フン。まあ、筋の通った人間だとは思ったがな」
筋の通った人間。
しっかりとした考えをもって、強く立っているっていうのかな。
芯が強く、真面目。
でもそういうのを考えると、あたしの頭にパッと浮かぶのはアーロンだ。
「ま、アーロン自身がそうだしね」
さらりと、当たり前に言う。
だからだろうか。
それを聞いたアーロンは少し目を丸くしていた。
「…どうだろうな。そうあれたら良いとは思うものだが」
「謙遜しなくていいと思うけど。アーロンはそういうとこ、きちっとしてるもん」
「…そうか」
「うん!堅物堅物!」
「…褒めているのかそれは」
「ふっ…あははっ!褒めてる褒めてる!まあそりゃカッチカチすぎだともうちょっと柔軟でも…とか思ったりもするけどさ。でも、そういう姿勢というか、考え方はいいなと思う!」
堅物、なんて言うとちょっと悪口だけど。
でも言い方を変えるとそれは筋の通った人だと思う。
「あたしはアーロンの背中見てて…ああ、自分も見習いたいなって、そう思うことはいっぱいあったから」
「……。」
ちょっと素直に。
いや、でも本音。
その背中は眩しくて、憧れて。
「まあ、なんというか、隣に立つときに恥ずかしくない自分でいたいな〜とか思ったりするわけですよ」
なんだか照れくさくなってきたから少しおどけつつ。
すると、それを聞いていたアーロンはフッ…と笑った。
「…それは、こちらの台詞だな」
「はい?」
きょとんとする。
だって、こちらの台詞?
首を傾げると、アーロンはまた笑った。
「ここぞという時、凛と立つ…芯のある強さを持っている。そうだな…仲間内でも、1、2を争うほど、お前は強いと思うぞ」
「…え、ええ…そんなことないと思うけど」
「お前こそ謙遜する必要はない」
ぽん…と大きな手が頭に触れる。
優しい感触。
撫でられると、胸の奥がきゅうっとする。
ああ、もう。
この手が好きで好きでたまらない…。
大人しく、その感覚に浸る。
「それに、お前も筋はきちんと通す人間だ」
「え…?」
短く、アーロンは言う。
あたしは小さく聞き返す。
すると名前を呼ばれた。
「ナマエ」
「うん…?」
「俺が筋の通った奴を好ましく思うというのなら、お前が立証しているのかもな」
「え…」
そう言われ、見上げようとする。
すると、わしゃっと乱す様に髪を撫でられる。
それはまるで、照れを隠すみたいだった。
でも、もしあたしもそうあれていると言うのなら、それはやっぱりアーロンの影響が大きいと思うなぁ…って、ぬくもりを感じながら思ってた。
END