生きている音
「あのね、あたし、あの時ジェクトさんが言った言葉を聞いて思ったことがあって」
「ジェクトが言った言葉?」
夜。
飛空艇内の、ちょっとした静かな場所。
窓からの静かな景色を眺めながら、あたしはアーロンと話をしていた。
「うん。ほら、ジェクトさんの剣をアーロンが受け止めた時。二度も死なせたくないって、ジェクトさんそう言ってたでしょ?」
「ああ…」
アーロンも何のことを言っているのか、思い出したようだった。
シーモアによって淀みの断片を植え付けられたジェクトさん。
あたしたちは必死に想いをぶつけ、ジェクトさんも乗り越え、無事に力を抑えて此処に帰ってくることが出来た。
でも、そうして力をなんとかしなきゃと奮闘していた時。
ジェクトさんが力に翻弄されるまま振るった剣をアーロンが受け止めた時に、ジェクトさんが言ったのだ。
逃げてくれ。
二度も死なせたくない…ってね。
「いやさあ、この世界では死者も…って、それはわかってたんだけど、でもなんとなく…アーロンやシーモアに対してって、少し感覚が違ってた気がして」
「俺やシーモアはスピラにおいても死人だったからな」
「…うん」
アーロンは、何が言いたいのかなんとなく察してくれたらしい。
そう…。
アーロンやシーモアは、スピラにいた時から死人という存在だった。
この世界では、死者も生を受ける。
それはわかってた。
もうこの世界に来てからだいぶ時間が経つ。
そういうことがある世界だって、もう受け入れていた。
でも、ジェクトさんの言葉を聞いて…。
今のこの状況は、スピラの死人という概念とは、全然違う事なんだよなって…。
なんだか凄く、それを実感した気がしたのだ。
「ね、アーロン…ちょっと抱き着いてもいい?」
「……何の確認だ」
「えへへっ」
へらりと笑う。
あたしはトン…と、アーロンの胸に身を寄せた。
アーロンもそれを拒むことはなく、そっと受け止めてくれる。
そして押し当てた耳。
そこから一定の、落ち着く音が響いてきた。
「…心音、するね」
「……。」
耳を澄ませて、その音を聞く。
生きている音。
それは穏やかで、落ち着いて…。
死人じゃなくて。
今、ここでアーロンが生きている音だと…。
「…二度も死なせたくない、かあ…」
「…なんだ?」
「…ううん。…あたしも、それ思うなあって思っただけ」
そう呟くと、頭にそっと大きな手が触れた。
それを感じて顔を上げると、頭から撫でて滑らせるように頬に落ちてきた。
目が合ったから、ふふっと笑って見せる。
するとアーロンは小さな息をついた。
「…まったく、呆れる」
「え?」
「…俺自身にだ」
するとアーロンはフッと笑った。
それは軽い自嘲?
そして、距離が縮まる。
あ、
なんて思った一瞬。
唇に触れた感覚。
あたしは目を閉じて、そのぬくもりを感じていた。
END