変わらない気持ち


あたしは今、不思議な体験をしている。

今立っているこの大地。
それは生まれ育った世界とは異なるものなのだという。

つまりそれは、異世界ということ。

はー。なんとも不思議な体験しちゃってるもんである。

勿論びっくりがした。
けど、あたしは割となんだかあっけらかんとしていた。

理由はある。何故ならここには同じような境遇の人が沢山いたから。
みんなそれぞれ、色々な世界からこの世界に飛ばされてしまった人たち。あたしはそんな人たちと、この世界で仲間になった。

そしてその中には見知った顔もあった。

セシルがいた。ヤンがいた。
それと、会ったことはなかったけど、あたしたちの世界の国のひとつエブラーナの王子だというエッジもいた。

だから不安はあまりなかった。
でも気になることっていうのはある。

他の、此処にいない知り合いはどうしているのかな、とか。

……カインは、どうしてるだろう。

きっとそれは、この世界に来てから毎日、ふとした拍子に思ってたこと。

そしてそんな日々を過ごす中、遂にこの世界でカインと再会する日が訪れた。





「〜♪」





鼻歌交じり。その日、あたしはセシルの事を探していた。

この世界での仲間は、今だとそこそこの大所帯だ。
だから同じエリアにはいるけれど、複数の輪に分かれて一緒に行動していないっていうのはよくある話。

セシルを探していたのは、大した用じゃない。
ただ、ポーションをいくつか見つけたからセシルにも分けようかなとか思ったくらいで。

そうこううろちょろしていると、セシルが突然何かを見つけて駆け出して行ったという話を聞いた。
だからあたしはその道を聞いててくてくと歩いてた。

一体何を見つけたんだろう。

ぼけーっとそんなことを思いながら進んで行くと、そこにはひとつのひずみがあった。
そしてその前に、誰かが佇んでいる。

周りには他の皆もいた。でもあたしの視線はその佇む誰か一直線。
その背中の主を把握した瞬間、あたしは目を見開いた。
多分セシルも同じような衝動を抱いたんだろう。

気が付いたら、思わずタッと駆け出していた。





「カイン!?ここに来ていたのか!」





セシルは呼びかけた。
すると、その人物は振り返る。

セシルだけじゃなくて、そこにはヤンやエッジ、それにWOLやモーグリもいた。

エッジは尋ねた。





「セシルの知り合いか?」

「彼はバロンの竜騎士であり、セシル殿の親友…だった…」





彼を知らぬエッジにヤンが簡潔に説明をしてる。
自分の説明をされている当の本人、彼は目の前にいるその顔たちを見渡した。





「エッジ…ヤン…そうか、お前たちも無くしているのか。セシル…聖なる光を失くすとは…」

「どういうことだ、カイン?ここにで何をしている?」





あたしがその場についたのは、セシルがそう言ったその瞬間だった。

皆の間をサッと駆け抜け、一直線に向かう彼の元。
突然横切ったあたしの姿に、みんな驚いてた。でも、そんなの知〜らない!

ただただ真っ直ぐ。
そして、バッ…と両手を広げて飛びついた。





「カインーーー!!!」

「っ!?」





効果音をつけるとすれば、多分結構豪快な音なんじゃなかろうか。

そこにいた、ずっとずっと思い焦がれていた彼。
会えたらいいなって、ずっとずーっと考えていたその人。

カイン、やっと見つけた!!

もう、なんだろ、その瞬間多分嬉しさが限界突破。
そりゃもう思い切り、あたしは全力でカインとの再会を喜んだ。





「っ、ナマエ!」

「やーっと見つけた〜!」





飛びついた結果、カインは驚いたみたいだったけどちゃんと受け止めてくれた。
ふっふふ、流石だね!この嬉しさは留まるところを知らない。あたしはへらっと笑った。





「お、おい!てめえ!ナマエ!何してやがんだ!」





すると後ろからそう言われた。
くるりと振り返ればこちらを指差しているエッジ。
人を指差すな!とかまあそれはさておき、突拍子無い事したのは認めるし、状況を確認しなきゃいけないのはわかる。

だから改めてカインを見やれば、カインもこちらを見ていた。





「ナマエ…お前は…」

「ふふ!カイン、大丈夫?調子とか悪くない?今は何ともない?」

「あ、ああ…」





首を傾げ、笑い掛けながら尋ねる。
するとカインは頷いてくれた。





「そっか、よかった!心配してたけど、今はいらなそうだね!ん?ていうかさっきエッジのこと呼んでた?カイン、エッジのこと知ってるの?」

「………。」





ちょっと一気に喋りすぎたかな。
あたしを見たまま、黙ってしまったカイン。うむ、反省。

でもやっぱり色々気になった。

元の世界では、カイン、ゴルベーザに操られちゃってたよね。
あれはファブールでの出来事。でも今は何とも無さそうだからホッとした。

それと、エッジのこと。
確かにエッジはあたしたちと同じ世界の人だけど、会ったことは無い人だった。

…カイン、どっかでエブラーナと繋がりなんかあったっけ。

うーん、でもやっぱカインに会えたから浮かれてるんだろうな。
だから上がったテンションのまんま質問攻めしちゃった。

すると、カインはあたしの肩に手を置いた。





「…そうか。お前もなくしているのか」

「え?」





そして、少しだけ寂しそうにそう言った。

なくしてる?

仮面で表情はよく見えない。
でも、声音が少し…。





「ナマエ…」





その時、セシルに呼ばれた。
振り返ると、セシルからは何だか複雑そうな様子が見て取れた。

すると、そんな様子にカインは小さく笑った。





「…俺を疑っているな、セシル。長い付き合いだ。声を聞けばわかる」





疑い…。
それは、あの時の裏切りの記憶が焼き付いているから…。

あたしは、操られているだけだって気持ちが強い。

でも、やってしまった事実、そして他人の真意を計るのは難しい。
セシルや、それにファブールのクリスタルの件だしヤンからしてみれば色々と複雑な思いがあるのは当然ではあるだろう。

カインは背を向けた。





「安心しろ…今、ここで敵対する気はない。守りたいものは同じだ」

「あっ、カイン!」





カインはそのまま、ひとりで目の前のひずみの中に入って行ってしまった。





「クポッ!ひずみに入っちゃったクポ!」

「自分ひとりで次元のひずみを閉じるではないのか?」





その様子に驚いたモーグリと、WOLが予想を口にする。
するとそれを聞いたエッジは慌てた。





「だったら危ねえぜ!助太刀に行かねえと!」

「そうしなければならないのはわかっている。でも…」

「…カイン殿は、セシル殿とは袂を分かち、悪しき者に従っていたのです。私の祖国も…彼の率いる軍隊に…」





だけどエッジとは対照的に、セシルとヤンには迷いがあった。

割り切れない事実。
拭いきれない不安。

そんなふたりの様子を見て、WOLは気遣いながら言った。





「しかし、彼は君たちのことを案じているように見えた。君たちが、なくしている…とも」





なくしている。確かにカインはそう言っていた。
セシルにもヤンにもエッジにも。それに、あたしにも。





「あなたは次元のひずみを通るとき、記憶の一部を失ったと…そう話していたね」

「ああ、あいつ、このエッジ様の名前を知ってたぜ。こっちはバロンの竜騎士に知り合いなんて…うん?いや…本当に…知らねえ…のか?」

「我々もまた…カイン殿や自分自身についての記憶に欠けがある可能性があると…?」





前にWOLが言っていた記憶の喪失の話を思いだし、そして自分自身の記憶の不安定さも感じ始めている様子の皆。

…あたしは、どうだろう。
カインの口調を考えれば、確かにあたしも何か記憶を失っているんだろう。





「ナマエ。君は、何かを知っているのか?」





多分皆よりも困惑していなかったからだろう。
WOLにそう尋ねられた。

でも首を横に振った。
だってそれが答えだったし。

あたしも、カインが向こう側についたのは覚えてる。
そこで記憶も終わってる。

でも、それでも大丈夫だと思えることはあった。
あたしはどんなことがあっても、カインのことをきっと信じてる。





「あたしも記憶、多分無いよ。セシルたちと同じ。…ごめんね、ヤン。ファブールのこと、簡単じゃないのはわかってる。でもあたしはカインが優しいの、知ってる」





あの時のことは、カインの本心ではない。
ただ、きっと…迷いに付け込まれた。

もしもカインが本心で裏切ったと言うのなら、その理由にあたしはきっと頷けるはず。

あたしにとって、カインとはそういう人物だ。





「ね、あたし、追いかけるよ。ひずみの中、行ってくる。色々確かめたいもの」

「…ああ、僕たちも、このひずみの中に行こう。カインが何か知っているのなら…確かめなければ」

「おうよ!このままじゃスッキリしねえぜ!」





あたしがひずみの中に入ってくると言えば、セシルやエッジも頷いてくれた。
だからあたしもニッと笑って頷き返す。

そして一番に駆け出した。





「んじゃ、お先に!」





早く、早く。
なんだか気持ちが逸る。

やっと会えた。
だから見失わない様に。

あたしは一番乗りで、歪みの中に飛び込んだ。




END
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