大切な人を想って


スノウが絶望した未来。

それについて、あたしは少し…考えていた。

世界が終焉を迎える。
それは凄く悲しいことだけど、それがひとりで記憶を抱え込むことに繋がるのだろうか。

じゃあ、他にスノウが絶望するようなことって…なんだろう。

そう思った時、あたしは過去…フィフス・アークでの出来事を思い出していた。

昔…旅をしていた時も一度だけ、スノウが失意したときがあった。

それがフィフス・アーク。
そしてその理由は、バルトアンデルスからセラの使命を聞かされたことにあった。

そう…スノウが絶望する理由として真っ先に浮かぶのは、セラが関わっているんじゃないかってこと。

…未来でセラに何かあった?

考えられる可能性は?
セラは…。





「時読みの、力…?」





ふっ…と頭に浮かんだ単語。

時読みの力。
それは未来が見える代償として、命を削られていく力。

そういえば、ノエルも未来の話をする度、悲しそうな顔をする。
それはセラに何かあったからなんじゃないか。

…どうしてだろう。
否定する材料も探してる。

だけど、考えれば考える程…ことごとく辻褄があっていく。





「ナマエ!」

「!」




そんな時、背中から声を掛けられた。
肩にもそっと触れられる感覚。

少し、ぴくっとしてしまったかも。





「セラ…」

「うん?」





振り返ってそこにあったのは、何も変わらないセラの微笑み。

…これは、あたしの勘。
聞いたわけじゃないから、確証はない。

でもセラは、あたしより記憶を持ってると思う。

ノエルも口にしないこと。

全部取り戻したら…いずれにせよ、向き合うことになる。





「…セラ。あの、さ…ちょっと聞きたいことが」

「うん?なに?」

「……。」

「ナマエ?」





ちょっと、怖気づいた。
だって、そんなこと本当に聞いていいのか…。

セラはどう思う?





「もう、どうしたの、ナマエ?」

「…ううん、あー…、あはは、やっぱりいいかなあって」

「もしかして、私の未来の事?」

「へっ」





もう笑って誤魔化してしまおうかと思ったら、セラの方から言い当てられた。

そんな展開は予想してなくて、思わず声が裏返る。
でもその瞬間、ああ…やっちまったと思った。

そうして見たセラの顔は、ふふっと優しく笑っていた。





「ナマエ、思い出したの?」

「いや、そういうわけじゃ…。でも、なんとなく予感というか何というか…」

「まあ、ナマエは私に時詠みの力があるの知ってたもんね」

「っ…じゃあ、セラは…」





聞いてしまって、ずきりと胸に痛みが走った。

予感がした。
でも、そうであって欲しくないと願っていた。

なのに…その願いは、いとも簡単に崩れてしまった。





「そんな顔しないで。ナマエ。私、最後まで戦うって自分で決めた。後悔はしてないんだよ?」

「セラ…」





セラの優しい手が頬に触れた。
多分、あたしが酷い顔をしていたから。

そんなあたしとは対照的に、目の前の彼女はにこりと笑う。





「ナマエって、結構人の事ちゃんと見てるよね」

「え?」

「私が皆より未来の記憶持ってるの、なんとなく気づいてたでしょ?」

「…まあ、なんとなくだけど。セラも気付いてたんだ。あたしがそう思ってること」

「ふふ、まあ親友だからねー」





セラはずっと微笑んでいる。

でもあたしは、笑う事なんて出来ない。

痛みは続く。
思わず手を伸ばして、セラにぎゅっと抱き着いた。





「セラ…っ」

「わっ」

「ごめん…ごめんね…っ、」

「もう。どうしてナマエが謝るの?」





セラの手があたしの背に触れる。
とんとん、と優しく。

…あたしがなだめられてどうするんだ。

でも、頭の中には沢山の後悔が浮かんだ。

旅、止めればよかった?
他に何か方法があったんじゃないの。
もっともっと出来ることがあったんじゃないか。

回りだす、悲しみ。

だけど傍で聞こえるセラの声は穏やかだった。





「ねえ、ナマエ。さっきも言ったけど、私後悔してないよ。旅を始めたのは、お姉ちゃんに会いたかったから。でも、旅を続けたのは私の想いだから」

「……セラ」

「ふふふ、でもナマエが悲しんでくれたのは、ちょっと嬉しいな」

「…馬鹿」





ぎゅっと、抱きしめる力を強める。
するとセラは耳元で、またクスッと笑った。





「ねえ、ナマエ。私、言いそびれてたことがあるの」

「なに?」





ゆっくりと体を離す。
ちゃんと目を合わせてから、セラは言う。





「ずっと、傍にいてくれてありがとう。最後まで一緒に駆け抜けてくれて、本当に心強かった」

「セラ…」

「だから、私がナマエに望むのは、ごめんじゃなくてどういたしまして!」





ほら、なんて促された。

まったく…本当に強い。
大人しい顔して、驚くほどしたたかな子。

…うん。知ってる。セラはそういう子だって。





「でも、どういたしまして…ではないかな」

「え?」

「あたしの方こそ、ありがとう、セラ。こちらこそ、一緒に駆け抜けてくれてありがとう」

「ふふ、強情だなぁ」

「どっちが!」





そう言って、今度はあたしも笑えていた。
お互いに、一緒に笑った。

…きっと、未来のあたしも、後悔したんじゃないかと思う。

今思ったことと全く同じ。

止めればよかった。
もっと出来ることがあったんじゃないか。

でも、旅を続けると、未来を守ると、そう願ったセラの心だけは無下にしないようにしたい…。





「未来でもね、解放者になったお姉ちゃんの傍にナマエはずっといてくれたって教えてもらったでしょ?だから私、正直ほっとしたの。ナマエがお姉ちゃんの傍にいてくれて良かったって」

「…そう?」

「うん。私は、思うよ。未来のお姉ちゃんも同じようなこと思ったんじゃないかって」





未来でのこと。
正直記憶がないから何とも言えないけど…。

でも、そうだね…。

ライトの力になれていたらいい。

ううん、なりたい。
きっと、それは思っただろうから。





「ねえ、ナマエ。早く戻ってきて欲しいね」

「…うん。おかえりって、早く言いたいね」





スノウと、ホープ。
想い馳せたのは、誰より大切な人。

笑顔で迎えたいねって、あたしたちは、そう話していた。



END


ちょっとセラ色が強いですね。
13-2とLRの設定の話。

主人公はセラを助けられなかったこと、かなり後悔している設定をLRで置いていたのでその辺に触れたいなと思ってまして。
なので、こういう話を一回挟みました。

でもLRほど重くもしたくなくて。
セラから気持ちを聞ける分、本編より少し軽くなってるかもですね。
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