何より強く結ばれた運命
「未来における我々の世界は崩壊し、終末を迎えている。ライトニング…君は神の使命に従い、人々の魂を清め、導き、解放していたのだ。それこそが解放者だ。そしてナマエ。君は最後まで、彼女の傍で、共にあった」
レインズさんは解放者が何たるか、そしてあたしがどういった立ち位置にいたのかを少し話してくれた。
終末を迎えた世界…。
迎えるまでの残された時の中、駆け抜けた解放者。
「その自覚を取り戻せば、スノウも納得して受け入れてくれるかもってことだよね…」
ヴァニラが難しい顔をして呟く。
解放者としての自覚を取り戻せば、記憶を受け入れられるだろうとスノウも納得してくれるはず。
レインズさんの話を聞きながら、導き出した結論。
でも、それは決して簡単な話ではない。
「だが、いったい私にどうしろと…!」
「うん…、正直全然わかんないよね…」
ライトは焦りを露わにし、あたしも何をどうしたらいいのかさっぱりわからなかった。
魂の解放者。
彼女と共にあった者。
そんな風に言われても、記憶はうんともすんとも言わない。
「少し落ち着いてはどうだ。焦ったところで妙案は浮かぶまい」
そんなあたしたちの様子を見たミンウはそう少しなだめてくれた。
でもそんな穏やかな声に対し、ライトの苛立ちは増すばかり。
「お前には運命が見えるらしいからな。それで他人事のようにしていられるのか」
「ら、ライト…」
「ま、まあまあ…!」
ライトは苛立ちを隠さずミンウにぶつける。
そんなライトを今度はあたしとヴァニラがなだめた。
ああああ…いやちょっとそうなっちゃうかもなんて思ったけど。
あたしだって焦ってないわけじゃない。
ううん…とてもじゃないけど、落ち着けない。
自分でも、その自覚はあった。
早くホープを探したくて、じっとしてられない。
でも、落ち着かなきゃってそう思った。
そうしないと見えるものも見えなくなるって…。
それは、経験談…かな。
前に、セラとノエルと旅してた時、アガスティアタワーでホープが襲われた映像を見た。
その時あたしは混乱して、取り乱して、まだ残っていた可能性を見失ったから。
…あれは、落ち着けって言ってくれたふたりに感謝だわ…。
それに、ミンウは…決して他人事と思っているわけじゃない。
「では、全て決められたことだとしても、人は抗うのをやめるだろうか」
「…!」
ミンウは変わらぬ、穏やかな声でそう問いかけた。
その言葉にライトも顔をハッとさせる。
それはきっと、心当たりを思い出したから。
ルシだった時も、その後も、あたしたちは運命にたくさん抗ったよね。
「…そうだな。悪かった」
ライトもそれに気が付き、ミンウに頭を下げた。
ミンウは気にしていないと首を軽く振る。
そしてあたしたちの顔を見渡すと、ふふ、と小さく微笑んだ。
「…君たちの運命は不思議だ。複雑で、奇妙で、紐解くのが難しい。だが、強い結びつきを感じる」
「ふん…神に散々弄ばれた奴らの集まりだからな」
「集まったきっかけは何であれ…互いを思いやり、守り合おうという気持ちが運命に立ち向かう力になるのだろうな」
簡単には語れない。大変なこと、たくさんあった。
だけど、それでも歩いていられたのは…。
それは間違いなく、皆が傍にいてくれたからだ。
「そうだね…最初の使命を受けた時から、私たちは皆を守りたかった」
「はじめは息子を助けたい一心だったけどよ、だんだん…お前らの事も好きになったからな」
「そうだろう…その思いは変わるまい。いつ、いかなる時も」
ヴァニラやサッズも思い起こし、頷く。
そしてそれを聞いたミンウはまた微笑んでくれる。
ライトも、胸に手を当ててその思いを確かめていた。
「ああ、そうだ…。多分、未来の私だってそのはずだ。世界が崩壊し、終末が迫っても、諦めて神の言いなりになるだろうか。きっと戦い続けたはずだ。守りたいものの為、譲れないものの為に。私たちは未来で終わってなんかいない…。きっと、その先に希望があったはずなんだ」
いつだってそうだった。
大切な人を思い、戦っていた。
辛くて、理不尽で、苦しくて。
でも諦めたくなくて、必死になった。
それは絶対に、未来でだって同じだよね。
「ナマエ…と言ったな。君の運命は、また一段と興味深い」
「え?」
その時、ミンウがあたしに目を向けそう言った。
一段と…?
そんな風に言われ、あたしはきょとんとする。
ミンウは優し気に目を細めた。
「何か、君だけは特殊だな。まるで異次元。それを超えて、彼らと縁が繋がっている」
「あ…うん、そうかも。あたしは元はライトたちも違う世界の人間だから」
「違う世界…そうか、成程。腑に落ちたな」
「うん、でも、それでも皆と縁があったのは嬉しい」
ふっと表情柔らかく頷く。
世界、次元を超えて繋がった縁。
一番最初、あの世界に迷い込んだ時は戸惑った。
でも今は…出会えて良かったって心から思うから。
「ああ、世界を超えて君と彼らは確かな運命で結ばれている。だが、その中でひとつ、一際、何より強く結ばれている運命がある」
「えっ…?」
…ひとつ、何より強く結ばれている運命…。
そんな風に言われて、咄嗟に浮かんでしまったのは…。
《…ナマエさん…》
《あたしも放さないから、ホープも放さないで…くれる?》
《…はい》
出会った日。
互いに頼りない手を握り合った。
互いに放さないって、約束した。
…あの瞬間。
あたしと君の運命は始まったのだろうか。
それは願望かな?
…でも、本当にあの瞬間のことって、不思議なくらいによく覚えてる。
そしてきっと。
それから少しずつ、強く、強く…結ばれていく。
「何より強く結ばれている運命、か…」
手のひらを見て、きゅっと握りしめる。
ひとつ、誇れること…。
それはきっと、異なる世界であっても、時を隔てても、強く結ばれてる。
そうありたいと、望む限り。
誰にも、そう簡単には解かせない。
それがたとえ神様であろうと。
そんな風に考えたら、なんだか元気が出てきた。
「おや。瞳に光が差したな」
「…うん、そんなに柔な絆じゃない。神様にだって解かせない。そう思えたの。ありがと、ミンウ」
「力になれたなら何よりだ」
白い布の向こう。
ふふ、と笑う白魔導士。
うん。大丈夫。
絶対に取り戻せるって、確信を得られた気がした。
END