解放者の目覚めを待つ
「どうにかしてスノウに接触し、私たちの記憶を取り戻す。話はそれからだ」
ライトは言う。
今の最優先事項。
まずは、スノウの持つ記憶の断片をあたしたちに戻すこと。
「にしても、どうする?ひずみを開けてくまなく探すか?」
ファングは骨が折れそうだなと頭を振った。
確かに当てずっぽうでひずみを開いていくのはかなりの労力だろう。
上手く引き当てられればいいけど、骨折り損になる可能性も高い。
「でも、さっきは会えたよ。出来ないことじゃないと思う。それに私…スノウとちゃんと向き合いたい。仲間だからこんな思いさせられないって…何が理由なのか聞きたいの」
そこに、凛と声を通したのはセラだった。
スノウを誰よりも一番案じているのはセラだろう。
そして同時に、誰より信じているのも。
だからこそ、理由が知りたい。
信じているからこそだ。
「うん。聞こう、ちゃんと」
「うん、ありがと、ナマエ」
あたしはセラを見て頷いた。
するとセラも頷き返してくれた。
「きっとスノウにはスノウの考えがあるんだよね。やり方はともかく、私たちを守ろうとしてる」
「あのバカ…ひとりで抱え込むなんて」
セラの声を聞き、ヴァニラも「うーん」と考え、ライトは「クソッ」ともどかしさを露わにした。
皆もわかっている。
スノウもあたしたちのことを思ってくれていること。
それがわかってるから余計もどかしいんだけどね…。
「まあ、言いたいことはあるにせよ、俺たちの考えは同じってこった。スノウを説得して記憶を取り戻す。ホープを助けるにしてもそれが最優先だ。ナマエ、お前さんは…気が気じゃねえよな。大丈夫か?」
「うん、あたしは大丈夫。あたしも先にスノウと記憶を取り戻す方がいいと思う。スノウの様子も変だし、早く何とかしてあげたい。ホープを助ける為にも、きっとそれが最短だと思う。ありがとう、サッズ」
話をまとめながら、サッズが気遣てくれた。
俺を言えば「おう」と優しく背中を叩いてくれる。
ホープの事…。
勿論気になる。
一秒でも早く、会いに行きたい。
…会いたいよ、ホープ。
でも、やみくもに探したって仕方ないから…。
記憶を取り戻すこと。
それはホープを助ける道にも必ず繋がっているはずだ。
「ミンウ、声の元へ向かうのは後だ。先に仲間の目を覚ます必要がある」
「もちろんだ。後悔のないよう、進むといい」
ライトはミンウに了承を得る。
ミンウもすぐに頷いてくれた。
するとその時、今まで聞き役に徹していたレインズさんが口を開いた。
「…ひとつだけ、頼みがある。彼が君たちの記憶をかたくなに抱えることを責めないでやってくれ」
「…なんだと?」
「…彼は、君たちの未来を知っている。だからこそ、ひとりで抱え込むことを選んだのだ」
スノウを責めないで欲しい。
そんなレインズさんの言葉に顔をしかめたライト。
そしてファングもそれを聞き、レインズさんに詰め寄った。
「一度、きっちり話してもらおうと思ってたんだ。あんた、全部知ってんだよな?スノウもあんたと同じくらい知ってるって事なのかよ」
「彼は、私の混沌に触れたことで未来の記憶を知ってしまった。来たるべき事実…もしくは、既に起こった事実に絶望したからこそ…君たちにそんな思いをさせないことを選んだのだ。だから…」
レインズさんは、きっとすべてわかっている。
ホープが消えた理由も、スノウが一人で抱える理由も。
わかった上で、黙っている。
失った記憶は…自分たちで思い出さなければならないから。
「大丈夫です!私は絶対にスノウを責めない。それがスノウの優しさなんです」
「うん。スノウは仲間だから記憶を渡せないって言ってた。だからあたしたちの為を思ってくれてるのはわかってますから」
絶対にスノウを責めないと言ったセラ。
あたしはそこに同意した。セラはこちらを見て「ありがと」と小さく微笑んでくれた。
そしてセラは姉にも頼む。
「だから…お姉ちゃんも、怒らないで。お願い…!」
「努力する。それで、突破口はあるのか」
ライトはため息をつきながら了承した。
そしてレインズさんに尋ねる。
どうしたらスノウにこちらの声を届けられるか。
それくらいのヒントはいいだろうと、意見を仰いだ。
「…君だ。ライトニング。君が魂の解放者として目覚めれば、彼は受け入れる覚悟が出来たと思うはずだ」
「魂の…解放者。それも、私の運命なのか…」
「そしてナマエ、君の協力も不可欠だろう」
「え、あたし…ですか?」
「君は、女神の力を継いだ者…。そして解放者と共に、歩み続けた者だ」
女神の力…。
そして、解放者と共に…?
レインズさんの言葉の意味は、よくわからなかった。
いや、女神の力に関しては…何度か言われたこともあるけど。
でもあたし自身はあまり実感が湧いてない話だから。
ただ、今は…。
もし自分に何か力があるのなら、何も惜しまない。
「気に入らないがやるしかない。ナマエ」
「うん。大丈夫。やるしかなければやるだけだ、でしょ?」
「ああ。…皆、悪いが付き合ってくれ」
鍵は、ライトとあたし。
解放者と女神の力を継ぐ者…。
実感なんてない。
記憶がなくて、何のことやらって感じ。
でも、必ず。
そう、決意した。
END