光の記憶を辿って


ホープはライトニングたちの世界の神様によって囚われていた。

その神は言う。
大いなる光の魂を解放せよ、と。

それはホープを救うための、取引の条件だった。

大いなる光の魂…。

それってなんだろう。
そう考えた時、導き出された答えは…あたしたちが忘れてしまっている、光の戦士の存在だった。

だからあたしたちは、彼の存在を思い出すことに努めた。
記憶を辿って、彼のいた手掛かりを探して。

光の羅針盤に、願った。





「あの人の事か…プリッシュは覚えてるの?」

「おう!忘れようったって忘れられねーからな!」





ライオンが聞くと、プリッシュは勿論というように笑って頷いた。

あたしたちの中で、彼のことを記憶しているのはふたりだけだ。
プリッシュと、リーダーの少年であるオニオンナイト。





「いったいどうんな因子が働いたのかしら。気に入りませんわね」





どうしてふたりだけが覚えているのか。
逆に、どうしてあたしたちの記憶からは消えてしまっているのか。

シャントットがやれやれと首を振る。

するとそれを聞いていたヴィンセントがあたしやクラウドを見て記憶の事を聞いてきた。





「因子か…。お前たちにも失われた記憶はあるようだからな」

「クラウドはティナやフリオニールについて、何か思い出したんだよね?ナマエも一緒に話したって言ってたっけ?」





ティファにも聞かれる。

クラウドは以前、ティナやフリオニールと花の話をしたと言っていた。
そしてそこにはあたしもいたと。

実はあれから、クラウドとふたりで話をした。

少しでも思い出したくて、一緒に記憶を辿ったのだ。

それで、あたしの記憶にも…ちょっとした変化があった。





「うん…あたしも、ティナやフリオニールと話したかもって、そんな気がしてきたんだよね。結構曖昧だけど…でもクラウドの言う通り、そういうことがあった」

「ああ。俺もナマエと改めて話して確信に変わった。だから何かきっかけさえあれば、そいつのことも、おそらく」





クラウドと頷いた。

そう。なんだか頭の中にモヤがある。

それがわかる。
そこに何かがあるって、それはわかるのだ。

だから何かきっかけがあれば、少しずつ引っ張りだせそうな気がするんだよね…。





「やってみましょう。光の羅針盤を見せてくれる?」





ライオンに言われ、あたしとクラウド、プリッシュは光の羅針盤を取り出した。

眩い輝きが手の中で光を放つ。
この光を見ながら、皆で手掛かりを探せば…それがとっかかりになるかもしれない。





「頼む、皆…少しでもいいから、思い出してくれ!あいつは角のついた兜を被って立派な盾を持ってるんだ。滅多に笑わない仏頂面でさ、冗談も通じなくて、つまんねーやつなんだよ。だけど、世界の事も仲間の事も大事に思って、俺たちをここに送り出してくれた…。大丈夫だ、また会えるってこの光の羅針盤を…」





プリッシュは話してくれた。
自分の記憶にある、あの人の姿を。

それを聞いていると、なんだか心がざわざわした。

知ってる…。
その人の事…あたし、知ってる気がする。





「「光は我らとともにある」」





その時、そんな言葉を口にした。
それは自然と頭に浮かんできた言葉だった。

クラウドと顔を合わせる。





「クラウド…」

「ああ、ナマエも…か?」





その声は、クラウドと重なっていた。
もしかしてクラウドも…。





「クラウド、ナマエ、思い出したの!?」





ティファに聞かれた。

同じ言葉。
ふたりで口にすれば、それは偶然じゃないのは明らかだった。

でも、まだ完全じゃない…。
思い出したというには、まだ正直遠い気がする。





「まだ、ぼんやりとしか…」

「うん、同じく…でも、あの人、そう言ってた気がしたんだ」





クラウドもまだ思い出したとは言い難いみたいだった。

でも、そうだよ。
あの人、そう言ってたの。

どんな声だったのか、それすら曖昧だけど、でも、言ってた。

するとそれを聞いたシャントットが顎に手を当て「ふむ…」と唸る。





「ぼんやり…その言葉もなんだか引っ掛かりますわね。記憶をこじ開けるきっかけにはなりそうですわ」

「ああ…!今はそれだけでも充分だ!やったぞ!あいつへの道が繋がる!俺たちが呼びかければ、絶対に応えるはずだ!」

「不思議だわ…プリッシュ、あなたが呼び水になってくれたのね」

「もっとだ!もっと皆が思い出せば、道はそれだけ強くなる。待ってろ、絶対に助けてやるからな。俺たちの、−−!」






もっと、もっと、もっと。
そんなプリッシュの声に思いを乗せるように、あたしたちはあの人の記憶を辿っていった。

そして、羅針盤は輝きを増す。

それはあの人へと繋がる、確かな道標だった。





「なんか、不思議」

「え?」





輝きが増したと伝えて来る。
他の皆の様子も見て来る。

それから各々、その場から離れた。

あたしは、手の中で眩く輝く羅針盤を見つめていた。
そうして呟けば、隣にいたクラウドが反応してくれる。

あたしは同じように輝きを持つクラウドを見上げた。





「まだ、ちゃんとは思い出せないんだ。でも、羅針盤が光った瞬間、ああ…あたし、あの人のこと大好きだったって、そう感じたんだ」

「え…」





ぱあっ、と光が増した時。
その輝きを見た瞬間、あたしはその人への思いを一瞬だけ蘇らせた。

信頼していた。眩しく思っていた。
肩を並べて戦うこと、きっと…誇りに思えてた。

そんな感じ。

でも、それと口にしたとき、クラウドは何故か「え…」と目を丸くさせていた。





「大、好き…?」

「うん」

「……。」

「…ん?あ、大好きって別に恋愛的なことじゃないよ!?」

「そ、そうか…」





いやまあ大好きって!
あれ、なんかそういう意味で言ったつもりではなかったんだけど!

一応、クラウドには誤解されたくないのでその辺否定する。

いやクラウドがそんな勘違いしたかはしらんけど!
でもやっぱりクラウドにそんな誤解されるのは絶対御免だもの!

クラウドは頷いてくれる。
ちょっとホッとした。

…でも。

なんだかちょっと、クラウドもホッとしているように見えたのは…あたしの願望かなあ。





「…だけど、きっとあと一歩だよね」

「ああ…もう、手を伸ばせるところまでは来てる。それはわかる」

「うん」





光は我らとともにある。

あたしとクラウドは、それを一緒に思い出したから。

それは確かな手ごたえ。
あの人がいたという、確信だったから。



END
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