どんな未来でも


ホープが消えてしまった。
それから、スノウまで。

スノウは、消えたホープの手掛かりを求めてエルドナーシュの手を取った。

ううん…。
それだけじゃなくて、レインズさんの混沌の残滓に触れて…その未来の断片を知った。

それはきっと、ホープも同じだった。

未来を知ったふたりは、あたしたちの前から姿を消した。





「発見。難しい顔してる」

「…ノエル」





飛空艇の甲板。
欄干に肘をついて、ぼんやりと外を見ていた。

すると隣にやってきたひとりの男の子。

あたしはちらっと振り向いた。





「難しい顔してる?」

「ああ。無意識?」

「うーん、景色見て考え事はしてたけど…」

「うん、むーっと考え込んでる感じだな」





指摘される。

そんな丸わかりですか。
思わずむにっと自分の頬に触れた。

…あれ。そういえば、ノエルはあたしに用だったんだろうか。
そう思ったあたしは尋ねた。





「ていうか、発見って言った?もしかして探してた?」

「ああ、まあ別に用はないけど、なんとなく姿見てない気がしてさ」

「あー、ちょっと風に当たりたくて、さっきからずっとここにいたからね」





少しひんやりとして気持ちがいい風。
気分がいいから、つい長居していた。

室内でじっと考え込んでいるより、こっちの方が頭もすっきりする気がしたから。





「ホープ?」

「ド直球だね」





ノエルの質問に思わず小さく笑った。

まあ、回りくどく聞いても仕方ないだろうけど。

それに彼が気に掛けてくれるのはわかってるから。
あたしはふう…と軽く息をつくと、ノエルに向き直った。





「ホープのこともだけど、他にも、まあ色々」

「色々?」

「うん。って言っても結局はホープに繋がっていくことかもしれないけど」

「…記憶の事か?」

「…だねえ」





記憶の事。
あたしたちは、この世界に来てから記憶を失っている。

最初は時を超える旅の事も、ノエルの事も忘れてしまっていた。

旅を続けるうちに、未来の記憶も取り戻したけど…。
でも、それもまだ完全な記憶ではなかった。





「ねえ、ノエルはさ、あたしたちよりもう少し記憶あるでしょ?」

「…気づいてたのか」

「そりゃー、伊達に君とも旅してませんからねー」





ふふふー、と笑った。

ライト、ヴァニラ、サッズ、ファング。
今ここにいる中、その4人はあたしと同じくらいの記憶を保有している。

でもノエルは、もう少し先の記憶も持っているような気がした。
ノエル自身それをあまり口にするようなことはないけど、でも、色々と話をしている節々からそれを感じることがあった。

…それに、セラからも。

セラも何も言わないけど、多分、あたしの記憶より未来を知っている。

ヒストリアクロスを通した旅の中では、あたしが一番記憶を失っているみたいだった。





「あたし、何忘れてるのかなー」

「…俺も、ホープが言ってたところまでの記憶はないよ」

「うん、その辺を覚えてるのは多分レインズさんだけだろうね」





いなくなる直前、ホープは言っていた。

自分が、ライトやあたしに何をしたのか思い出した。
あたしたちは知らない。記憶を取り戻していないから、って。

レインズさんは、その辺りの意味も知っているみたいだ。

でも、あたしたちが自分で思い出さなければならないと。





「あたしたちを、ホープが傷つける…か」





ぽつ、と呟く。

ホープはそれを恐れていた。
自分があたしたちを傷つけてしまうから、だからそうなる前に離れると。

全っ然、意味わかんないけど。

でも、消えようとするあの背中を見た時…ちょっと、変な違和感を感じた。

ホープがいなくなってしまう。
混乱して、焦って…言葉が出なくて喉が震えて。

その感覚を、あたしは知っている気がしたのだ。





「手、離した…?どうして?」

「ナマエ…?」





自分の手のひらを見つめる。
ホープと、離さないからって約束した手。

するとノエルが不思議そうな顔をしてた。

あたしはゆっくり首を振った。





「ううん、ずっとね、ホープと約束してたから」

「ああ…頼りない手、握りあって励ましてたって?」

「うん。そう。離さないよって。あたしは、今もそう思ってる。何度だって掴むって」





手、離してごめんなさい。
消える直前、最後の言葉…ホープはそう言って謝った。

どうして?
未来では、離さざるをえなくなるの?

ホープとスノウは何を見たの?

あたしは、離れたって何度でも…何度でも掴んでやるって、そう思ってる。

そう思うのは、記憶がないからなのかな?





「…いいんじゃないか?後ろ向きより、ずっといい。俺は、その考えでいいと思うけど」

「うん。あたしも思う。そう思う気持ち、間違いだなんて思わない」





怖くなった。
でも、心は折れてない。

絶対探し出して、掴んでみせる。
何度だって、手を伸ばす。

どんな未来だったとしても、その気持ちを大切にしていると信じているから。



END
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