因縁の相手


「まーったく、心配かけおって!」

「すまねえ、じいさんたちには頭が上がんねえな…」

「フッ、旧い友の言葉は響いたろう」





ガラフやシャドウに無理をしたことを言われ、少し気恥ずかしそうに後ろ頭を掻いているジェクトさん。

ジェクトさんは無事、シンの力を抑えつけて戻ってくることが出来た。

今は、色々と力になってくれた異世界の皆にも無事を報告しているところだった。





「俺は悪いことばっか思い出してよ…。勝手に憂鬱になって、勘違いしてたんだ」

「…自分に苦しみを強いたところでブラスカを悼むことにはならなかった」





自分の過ちを口にするジェクトさんに、アーロンも同意していた。

ふたりは後悔が強すぎて、その泥沼の中にハマっていった。
本当なら、ブラスカさんが思うはずもないことを自分の後悔にして、それに気づけなくなってしまった。





「もう確かめることが出来ないって思うと、余計に悪い方に考えていっちゃうんでしょうね。本当なら、ちょっと考えればわかるはずなのに」

「そうね。残された方は自分の感情とないまぜにして、本人とはかけ離れた虚像を作ってしまう。そうやって自分を慰めていたのよ」





あたしはアーシェと顔を合わせて頷く。

ブラスカさんが自分の死をジェクトさんのせいにする。
そんなことあるはずないって、少し考えたらわかることだ。

でも、後悔がそれを許さない。
良い考え方をするのが、悪いことのような気がしてしまう。

シャドウも「嫌な記憶の方が強烈にこびりつく…それもまた道理だ」と言ったけど、本当にその通りなんだよなと思った。





「でも、あったんだろ?いい思い出だってさ」





そしてセッツァーがニッと笑いながらそう聞いてきた。

それは、もう悪いことばかり数えるのはやめたのだろうと。
いい思い出があったことを思い出したのだろうと、そう促してくる言葉だ。

ジェクトさんも頷いた。





「ああ。本当に得ていたのはつらい思い出じゃない。楽しかったことや、ためになる経験出た…。ブラスカにはまーた救われちまったな!」

「まあ、それを自覚出来てるんなら向こうも安心するってもんだ」

「うむ。見違えるくらい、良い顔になったのう…。この一件で、覚悟が決まったようじゃな」





ガラフが言う様に、ジェクトさんの顔はもうすっかり憑き物が取れていた。

そして、だからこそ腹が決まった覚悟。
それはスピラでの時を過ごした全員が抱いた気持ちだ。

あたしはアーロンをは頷いた。





「ああ…元の世界での因縁が蘇ってきたからな」

「うん、本当、ろくでもないあいつ」

「シーモアにはきっちり礼をしないとな…。次は絶対に容赦しねえぜ!」





ジェクトさんはパシッと拳と手のひらを叩いた。

シーモアとの因縁。
スピラにいた時から色々あったけど…この世界でもそれは積み重なっていくばかりだ。





「はあ…本当、ろくなことしないよなあ…」





そして、あたしたちは飛空艇に戻ってきた。

これからはアーロン、ジェクトさん、それにブラスカさんも加わって、ちゃんとみんなと一緒に旅ができる。
別行動じゃなくなって、それは素直に嬉しい。

でも、シーモアがまだ何か企んでるかもと思うと憂鬱な気持ちだった。





「お前も気をつけろ」

「あたし?」





久しぶりの飛空艇。
やっぱなんか拠点っていうか、おうち感あるっていうか。

とりあえずのびのびとしてたらアーロンから注意を促された。





「え、あたし異形の姿とか特に持ってた記憶ありませんけど…」

「馬鹿が…そういう意味ではない」

「誰が馬鹿だって!?」

「お前、あれだけシーモアに目をつけられていてそれを忘れたのか」

「え、あ、ああ…そっち?」





ああ…そういう意味か。

アーロンの言っている意味を理解した。

シーモアは、何かとあたしの魔力を取り込むと言って狙ってきた。
あたしの中には膨大な魔力がある。

隙さえあれば、この世界でだってそれは同じなのかもしれない。





「取り込ませてもらう、ってねえ…」

「…シーモアだけに限った話でもないのかもな。この世界には、力に貪欲なものが多い」

「ああ…でも、そういう奴らに一人で近づこうとか思わないから大丈夫だよ」

「…そんなことは当たり前だ」





アーロンは呆れた様にため息をついた。
しっつれいな反応だな。

まあでも、心配してくれているのはわかる。





「じゃあ、アーロン。守ってくれる?」

「……。」





ふっと微笑みながら聞いてみる。
いや、たまにはこういう事言ってみてもいっかなーって。

アーロンの答えは…。





「…ならば、俺の傍を離れん事だな」

「えっ?」





手が伸ばされる。
その手は優しく、そっと頬に触れた。





「…お前を守るなど、とうの昔から決めていることだ」





低い、いつもと同じトーンの声。
だけどそこには、確かな優しさを感じる。





「そっか」





そう答える。

でもね、本当は知ってる。
いつだって守ってくれること。

あたしは手を伸ばし、ぎゅっとアーロンに抱き着いた。





「アーロン、さっき、庇ってくれてありがとう」

「…いや」





抱き着いたまま、伝える。

さっき…。
ジェクトさんが力を抑えきれなくなってた時も。

俺の背から絶対に離れるなって言ってくれた。

あのお礼、言いそびれてたなって思ってたから。





「…お前は、案外律儀だな」

「んふふ、そーよー、律儀だよ、あたし」





小さく笑っていれば、背中に大きな手が触れた。
抱き着くことを許してくれる証。

新たな世界に飛ばされてから、色々あった。

アーロンとジェクトさんが逸れて、探して。
見つけたと思ったら、しばらく皆とは別行動。

それから、ブラスカさんが来て。

ジェクトさんが、シンの力を抑え込んだ。

でも、こうして飛空艇に戻ってこられて、ちょっと一段落。

これは、一時の休息かな。
でも、楽しむ時間も大切にしたい。

そう改めて思えた。



END
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