思い出が紡ぐ未来へ


あたしたちは、戦った。

ジェクトさんと。

ジェクトさんの力が少しでも発散させられるように。

ジェクトさんなら打ち勝てる。
必ず戻ってこられる。そう、信じて。




パリンッ




その末、ブラスカさんが投げたあのスフィアが砕け散る音がした。

でも、それはまるで悪い憑き物を払ってくれたよう。
その瞬間、究極召喚の姿をしていたジェクトさんの体が人の姿へと戻った。





「オヤジ!!」

「っ、ジェクトさん!」





ティーダが叫んだと同時、あたしもその名を叫んでいた。
そして全員で駆け寄る。

戻った…!終わった…!?

蹲っているその姿に、不安と期待が入り混じる。

目の前まで行くと、ジェクトさんはその体をゆっくりと起き上がらせた。





「ってて…もう、なんともねえよ」





首に手を当てて、眉間にしわを寄せながら言う。

もう禍々しい気配もない。
力の暴走もない。

戻って、こられたんだ…!

無事に帰ってこられたその姿を前に、一気に安堵の空気が広がった。





「よかった…」

「うん…よかった…っ」





ユウナとあたしはふたりでホッと息をついた。
するとアーロンがまた少し捻くれた言い回しでふっと笑う。





「フッ…究極召喚から戻ってくる奴がいるとはな」

「ははっ!史上初ってことか?大スターにふさわしい称号だぜ!」





さっきまでが嘘みたいに豪快に笑うジェクトさん。
でもそれを見たティーダはやれやれと突っ込む。





「よく言うよ。あんなに後ろ向きになってたくせにさあ」





そう言われれば流石のジェクトさんも言い返せない様子。
少し照れたようにその笑みを小さくした。





「へへ…面目ねえ。旅の思い出が目を覚まさせてくれたんだ。俺たちの旅も悪くなかった…どころか最高だったってな!」





声の弾みからもわかる。

あの旅は最高に楽しいものだった。
心の底から、そうやって思えていること。

そんなジェクトさんの様子にブラスカさんは微笑んだ。





「ははっ、ようやく気付いたのか。…それならもう、心配いらないな」

「ああ。シンの力も飼いならしていけそうだ。後悔より…希望のほうが強いからな!」

「それでこそジェクトだ。あの旅で我々を引っ張ってくれたのは…君の無鉄砲とも言える勢いなのだからね」

「ああん?それって褒めてんのか!?」

「さて、どうだろうな」

「ふふっ…あははっ」





アーロンも最後に悪乗りする。
ブラスカさんとアーロンがあの時のいつものようにジェクトさんをいじるから、あたしは懐かしさで思わず笑みを零した。

するとその時、ブラスカさんの視線がこちらに向いた。





「ああ、そうだね、あとはナマエの笑顔だ」

「えっ?」





急に名前を出されてきょとんとする。
でも、そうして周りの顔を見た時、ジェクトさんもアーロンも、あたしを見て頷いていた。





「ま、そりゃ同意だわな。ちょっとしたことで楽しそうに、幸せそうに笑うからよ、笑うっていいもんだよなって気持ちになるんだよな」

「え、と…あたし普通にへらへらしてただけな気がするんですけど…」

「お前の事は褒めている。俺も同意だ。素直に受け取っておけ」

「わっ…」





するとアーロンにわしゃっと頭を撫でられた。

そっと見上げればサングラスの奥が細められ、優しい顔が向けられている。

褒めて、くれてる…。

声と、手があたたかい…。
その感覚が心地よくて、それと少しの照れもあって、あたしはゆっくりと笑みを零した。

でもそうしてたら「ナマエちゃんの事はって俺は結局どうなんだオラ!」ってジェクトさんがアーロンに噛みついてた。





「へへっ、楽しそうにしてんな〜。ああいうやり取り見てっと、俺もこうなりたいって思うぜ」

「きっと、もうなってるよ。私たち」





そんな時、少し離れたところでこちらの様子を見ていたユウナたちの会話が聞こえた。

こちらを羨ましいと言うワッカに、自分たちもきっともう同じだと言うユウナ。

その言葉にあたしはくるっと振り返る。
するとユウナと目が合った。

うん、きっと…ユウナたちの旅も、同じ。
あたしもそう思うよ。

そんな気持ちは重なって、あたしとユウナは互いに微笑み頷いた。





「スピラでもこの世界でも色々な事があったよね。だけど…その思い出が皆を結びつけて強くしてくれたの」

「…わかる気がする。今まであったこと全部、俺たちの力だ」

「悔やんだことも悲しかったことも、絶対に無駄なんかじゃない。前を向いて進もう…!過去の私たちが未来へ導いてくれるから!」





ユウナとティーダの会話。

そう。

ブラスカさんたちの選択が無駄じゃなかったように、ユウナたちが辿った辛い記憶も無駄じゃない。
無駄なものなんて、ひとつもない。

そう知っていれば、より糧に出来る。
歩んだ道を、尊く思える。

前を見つめて歩いていこうって、強く、思えた。



END
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