あの旅は楽しかった


あたしたちはジェクトさんを見つけた。

ひとり、次元の扉を開き、身を隠していたジェクトさん。
あれから時間は経過して、淀みの断片が先ほどよりも確実にその意識をむしばんでいる。

ジェクトさんはたったひとり、あの時と同じ…ザナルカンドのスタジアムでうずくまっていた。





「ジェクト!」





ブラスカさんが声を掛ける。

その声でジェクトさんもあたしたちの存在に気が付いた。
ゆっくりと立ち上がったその姿は、ぐっ…と少し怯むほどの嫌な気配に包まれていた。





「ぐっ…く、来るんじゃねえ…!俺は…もう…!」





苦しそうに、何かを必死で抑えている様子。
でも、抑えきれない…。

ワッ、と叫んだジェクトさんは剣を構えて…そのままアーロンに襲い掛かった。





「ぐうっ…!」

「アーロン!」





咄嗟に太刀を構え、ジェクトさんの剣を受け止めたアーロン。
あたしは思わずアーロンの名前を叫んだ。

ギリッ…と互いの刃が揺れる。





「馬鹿野郎…さっさとコントロールしろ!!」





剣を受け止めたまま、アーロンはジェクトさんに怒鳴る。

でも、どうにもならない。
ジェクトさんは苦し気に、声を震わせて返す。





「お、俺はもうダメだ…。逃げ…くれ…二度も…」





二度…?
アーロンを見つめ、辛そうに声を漏らすジェクトさんのその言葉は。




「死なせたくねえ…」





その言葉を聞いたとき、あたしは胸にずきりと痛みがさすのを感じた。

二度も…死なせたくない…。
その言葉が、痛いくらいに…突き刺さる…。

そして直後、耐えられなくなったアーロンが弾き飛ばされるように身を引いた。

それに代わるように、今度はティーダとキマリがふたり掛かりでジェクトさんの剣を防ぐ。
あたしは咄嗟にアーロンの背に駆け寄った。





「アーロン、大丈夫…!?」

「平気だ。それよりナマエ、俺の背から絶対に離れるな!」

「えっ…」





少し、強めに言われる。
そしてハッとしてジェクトさんの方を見れば、ふたり掛かりで止めていてもその力は圧れているように見えた。





「しっかりしろ…くそオヤジ!」

「ジェクトさん!弱気にならないで!私たちがついてます…!」

「ユウナ、下がれ。キマリも厳しい…!」





近づいたユウナをキマリが止める。
それくらいに、とんでもない力。

アーロンが離れるなと言った理由もきっと同じだろう。

身をもって、抑えることが難しいと感じた…。





「ジェクトさん…」





アーロンの背中越しにジェクトさんを見る。

シンの力。
スピラの脅威だった…留まることを知らない…。





「ぐうううっ…!」





ジェクトさんは歯を食いしばり、必死になってこれ以上の暴走を抑えてる。
そんな姿を、ブラスカさんはじっと見つめていた。

そして。





「…ジェクト」





そして静かな声で、ジェクトさんに語りかけ始めた。





「君はあの結末を悔いているんだな。だからといって、悲しみのままにもう一度繰り返してはならないんだ。どうだ、ジェクト。次は覆してやろうじゃないか」

「つ、次…だと…そんなもん…」

「あるわけがないというのか。落胆しているのは君だろう。我々の旅が終わったと決めつけて。絶望のあまり、希望から目を背けないでくれ。あの旅は楽しかった…君もそうだろう!」





スピラを巡った、あの旅。
辛いことも沢山あった。

でも、いくらでも思い出せるよ。

弾む声。笑った顔。

いっぱい…いっぱい!





「ううっ…俺は…俺はあぁっ!!」





ジェクトさんが叫ぶ。
そして遂に、ティーダとキマリも耐えきれなくなる。

ふたりを弾いたジェクトさんは、そのまま剣をブラスカさんに向けた。

そして…。





「思い出せ、ジェクト!!」





ブラスカさんは、ジェクトさんに向かってあのスフィアを投げた。

この世界で撮った、旅の記録。
また始まった、新たな楽しい、旅の思い出。





「こ、この光は…」





スフィアが光を放つ。
そして映し出される。

試し撮りした、ワッカにルールー、ユウナ、それにあたし。
静止画みたいって笑った、アーロンとアミダテリオン。
張り切りすぎて、魔物の雷に打たれたジェクトさん。
ジェクトさんとアーシュラの稽古。

そして、立派に成長して…目の前にいる息子の姿。





「君は必要とされている。罪などないんだ!」

「だけど…俺は…許されるわけには、いかな…うおおおおおおっ!!!」





ブラスカさんが呼びかける。
でも、遂に限界が来る。

ジェクトさんが叫ぶ。

その瞬間、ぐっと淀みの力が広がって…。





「あ…っ」





見上げる。
かつても見た、同じ光景。

ブラスカさんの、究極召喚…。

あの時もこうやって見上げて、声が震えた。

でも。

でも今はまた、全部が全部、あの時と同じじゃない!

必ず救う。
全員の意志は、ひとつにまとまって揺るいではいなかった。



END
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