友を救いに
「待たせてすまない。結論は出た。ジェクトと戦おう」
ユウナたちのところに戻ると、ブラスカさんは皆にそう伝えた。
ジェクトと戦おう。
その言葉に皆の顔色は変わる。
やっぱり、どうしても動揺は見て取れた。
「父さん…!」
「だが、倒すわけじゃないぞ。彼を信じてみようと思う。以前、エボンの歌で注意を引いたように、今回も残る理性に呼びかけてみよう」
「それって、またエボンの歌を歌うってことっすか?」
ワッカが聞く。
皆の記憶にも印象深く残っているだろう。
スピラ中の人が、祈りの歌を歌ってくれたあの光景。
まあ今回はそうじゃないけどね。
でもそれを説明しようとしたその時、一番弱気な言葉を零したのはティーダだった。
「たぶん無理だよ…!さっきだって、力を抑えられてなかった」
「なーにさ。随分と弱気じゃない、エースくん?」
「…ナマエ…」
あたしはティーダに近づいて、その顔をひょこっと覗き込んだ。
不安げな顔と目が合った。
まあ、わかるよ。
ティーダにしてみれば、たったひとりの父親のことだから。
抑えられないかもしれないって、別行動を望んだくらい…父親が不安に思っていたことが、現実になろうとしている。
…どんどん声が届かなくなっていった、あの時と同じことを、繰り返そうとしているのだから。
でもね、あたしは知ってるよ。
ううん、あたし自身が、何度も何度も感じたことがある。
「ティーダ。あたし、ティーダが一緒に前を見てくれたから、諦めないでいられたよ。ザナルカンドを目指す途中、君が何とかしようっていつだって言ってくれたから。それ、結構励みになってたんだ」
「…ナマエ」
目を合わせて。
まっすぐに、その気持ちを伝える。
ザナルカンドでだってそう。
青くてもいい、言いたい事言えないなんて絶対嫌だ。
そんなんじゃなにも変えられないって。
ティーダがあの時、そう叫んでくれたから。
「…どうやらこの世界には、意志の力というものがあるらしいな。だから以前よりももっと強く呼びかけれるはずだ。これを使ってな」
そしてブラスカさんはスフィアを取り出し、具体的な作戦を伝えた。
意志の力。
皆で強く願って、望んで。
その想いとスフィアの映像で、より強く強く、呼びかける。
「短いが旅の様子を撮ってある。ひとときの喜びを思い出すきっかけになるだろう。我々の旅は辛いだけではなかったと」
「分かった…このスフィア、借りてもいいッスか?」
そしてティーダも覚悟を決める。
だけど、ブラスカさんはティーダにスフィアを預けなかった。
それは勿論、共に戦うという覚悟だ。
「君たちだけには背負わせない。私も一緒に戦うさ」
「だけど、それじゃ父さんが…!」
ユウナは父を心配する。
悲痛な表情を浮かべる娘に、ブラスカさんは笑って見せた。
「大丈夫。父さんたちを信じなさい。これでも大召喚士と伝説のガードなんだ。その名にふさわしい働きをしてみせるさ」
大召喚士と伝説のガード。
シンを倒した英雄。
それは揺るぐことのない事実だ。
寺院にブラスカさんの銅像があったり、スピラ中に名前が知れ渡っていたり。
羨望を向けていた人が、目の前にいて、一緒に戦ってくれる。
そんな実感を得たらしいワッカは、なんだか目を輝かせていた。
「た、確かにそうっすよね。俺、すげえ勇気湧いてきました!」
「あんたってばほんっと単純なんだから。でも…心強いのは事実です。ジェクトさんは私たちにとっても大事な仲間ですから…どうかお力添えください」
「父さんの呼びかけが加われば…きっと、聞こえるよね」
ルールーも、ぺしっと軽くワッカの肩を叩きながらも、心強いと口にする。
不安げに瞳を揺らしていたユウナも、ぎゅっと拳を握って顔を上げた。
「ジェクトに賭けよう。ここには無限の可能性があるのだから」
少しずつ、空気が前向きになっていく。
やってやるんだって、そんな空気に。
そしてティーダも頷いた。
「でまかせの嘘じゃなくて…本当なんだって教えてやるッス!」
「ああ、叩きつけてやれ。お前の思いを」
アーロンもそう言ってティーダの背を押した。
全員の腹が決まる。
その覚悟をまとめるように、ブラスカさんが言った。
「さあ、行こうか、友を救いに」
END