3倍の楽しみ


「はー、なるほどなあ。ブラスカさんってば考えたな。あのスフィアを使う、かあ」

「先程の記録が早速役に立とうとはな」





ジェクトさんを救う方法。
その可能性を見出したあたしたちは、その話をすべく一度ユウナやティーダの元に戻ることにした。

その道すがら、隣を歩いているのはアーロン。

歩きながら、ふたりで色々と話していた。





「…しかし本当に、お前はまれに驚くほど強いな」

「へっ?」

「前にも言ったか。ここぞという時に強い」





いきなり。
そう言いながらふっと笑ったアーロン。

その笑みを見たらちょっとどきりとした。

…うーん。
悔しいけど、これは惚れた弱みか…。

いやそれに、褒めてくれるのは嬉しいし…。

でも、なんで今そんなことを言われたのかピンとこない。
わたくし、なぜ急に褒められている…?

そんな疑問は顔に出ていただろうか。

アーロンはまた小さく笑った。





「自分たちだけでなく、ユウナやティーダも一緒に…か」

「え?ああ…、うん」





その言葉に頷いた。
それはさっき、あたしがブラスカさんに伝えたことだった。

…さっき、ブラスカさんはつい先程まで撮影していたスフィアをきっかけにジェクトさんに呼びかけることを提案をした。

それを聞いたあたしは言ったのだ。
ユウナやティーダにも一緒に来てもらうべきだって。

ブラスカさんは、娘たちに辛い想いを繰り返させないために自分たちで背負うことを決めた。

でも、あたしは思ったから。





《皆は…あなたの娘や、そのガードたちはそんなにヤワじゃないですよ》





ちょっと、強気で言えた。

だって、身をもって知ってるもの。
あの長い旅路を、あたしは一緒に歩いてきたから。





《…そうだな》

《アーロン…》





その時、アーロンも頷いて、同意してくれた。
そんなあたしたちを見たブラスカさんも、ふっと…息つくように微笑んでくれた。





「ねえ、アーロン。あたしさ、あたしが一番得してるな〜って思うんだよね」

「得?」

「うん。だってさ、まずブラスカさんのガードとして旅をしたでしょ?それでユウナのガードとしても旅をした。それからユウナとパインとリュックと、カモメ団としても世界を回った。どの時間もすっごく楽しかったよ。だから、全部経験したあたしが一番得してるって思うわけですよ」






ジェクトさんが言ってたよね。
人助けして、くだらないこと話して、あの旅の続きをしていたかった、って。

そう思える楽しい時間、あたしは3倍持ってるんだよ。

だからなんだか改めて考えたら、すっごく得してるじゃんって思えたわけ。

どの旅も、大変なこともたくさんあった。
だけどどれも楽しかったって、旅が出来て良かったなって、心から思える大切な時間だ。





「ふっふっふー、羨ましかろう!羨んでもよくってよ!」

「…阿呆か」

「なんでだ!ていうか誰が阿呆だ!」

「お前しかおらんだろう」





どやあ、と胸を張ったらなんか溜息つかれた。
しかも阿呆の貶し付きだとこの野郎!

本当失礼なおっさんだわ。

ま、でも…そんなアーロンも、旅は2回してるんだよね。





「アーロンは共感してくれると思ったけどな。2回旅して、どっちも楽しかったでしょ?」

「なかなか骨は折れたがな」

「歳じゃないの」





ガンッ

頭にゲンコツが落ちてきた。

〜〜っ!!
この手加減なしのおっさんめ!

頭を押さえてさする。
そして手を下ろすと、はあ…と息をついた。

ふと…、思った。





「…ジェクトさんは、ブラスカさんをひとりで死なせたくなかった、か」

「…ああ」





それは聞いてから、ずっと頭に残っていた言葉。
呟けばアーロンも頷いた。

これは、さっきアーロンは言った言葉だから。





「きっと、あの瞬間に…アーロンも思ったことなんだよね」

「……。」





多くは言わない。
だけど、凄く残った言葉だった。





「助けようね、絶対に」

「ああ、必ず」





決意だけ、口にする。
皆んなで一緒に笑って、また旅するために。



END
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