手掛かりを探して


「シーモア老師、酷いよ…。どうしてジェクトさんにあんなことを…!」





ユウナは俯いて、嘆いた。





「まさか淀みの断片をジェクトに戻すとはな…」





アーロンも息をつく。
あたしも、やり場のない気持ちでいっぱいで、ふたりと同じように肩を落としていた。

先程、シーモアがジェクトさんに淀みの断片を戻した。
力を抑えきれないと悟ったジェクトさんはひずみを開いてひとりどこかに消えてしまって…。

あたしたちは今後どうするか考えるためにも、一度落ち着ける場所へと移動してきた。





「せっかく戻ったのに…もう一度倒せってのかよ!ふざけんな!」





ティーダは怒り、でも同時に苦し気に拳を震わせる。

…当たり前だ。

力が心配だって、しばらく別行動していた父親。
でもやっとまた再会して、一緒に進むことが出来ていたのに。

…それに、かつて苦しみから解放するために、戦ったのに。



《すぐに終わらせてやるからな!さっさとやられろよ!》



あの時のティーダの声が、頭に浮かぶ。

辛い戦いだった…。
なのにそれを、また繰り返すことになるかもしれない…。





「そうか…以前も君たちはこんな思いをしていたんだな」





すると、唯一あの場にいなかったブラスカさんが、あたしたちの様子から出来事を察したようにそう零した。
そしてブラスカさんは静かにユウナやティーダに言う。





「もう同じことはしなくていい。あとは…」





そう言いながら、視線を向けたのはアーロン。
アーロンもその想いを察したように、ブラスカさんと顔を合わせる。

あたしは…。

あたしもふたりを見れば、ブラスカさんとアーロンもこちらを見た。





「ああ。我々でおさめようか。行こう、アーロン。ナマエも、手伝ってくれるね」

「…行くぞ、ナマエ」

「…うん」





ブラスカさんに呼ばれ、アーロンにも声を掛けられ、頷く。
そして歩き出したふたりの背中を追いかけた。

…あたしは、ブラスカさんとジェクトさんと、アーロンの為に出来る事…この世界では、今度は全力でやりたいって強く思ってる。
途中までしか一緒にいられなかった、あの時の分までって。





「そんな…どうして父さんが背負わなくちゃならないの…!?」





でもその時、背中でユウナの悲痛な声が聞こえた。

あたしも思うよ。
こんな酷い話はない。

また、あんなこと繰り返すの?

ううん。違う。
諦めたくない…諦めたくない…。

アーロンとブラスカさんの背中を見て歩きながら、何度も頭で繰り返してた。





「なあ、ジェクトは…大丈夫なのか?淀みの断片を得たって本当かよ…」





何とか方法をと探る気持ちはみんな同じ。
どうするべきかと話していると、サッズの声がした。

振り向けばそこにはサッズ以外にバレットとアミダテリオンの姿もある。

どうやら話を聞き、心配して声を掛けに来てくれたらしい。





「ああ…大方シンの力だろう。究極召喚を経た後の災厄としての姿だ」





淀みの断片を得てしまったこと…。
アーロンが頷き、答える。

するとそれを聞いた皆も顔色が変わった。





「究極召喚を経た…!?確か、究極召喚は死を伴うと伺いましたが…」

「それじゃあれは、ジェクトが死んだ後の…」





前に話したことと照らし合わせ、察してくれるアミダテリオンとバレット。
そこに補足するように、ブラスカさんが自分の視点からの当時を語る。





「あの時ジェクトには厳しい決断をさせてしまった。帰る道を断たれ、何か役に立ちたいと思った彼は、究極召喚の祈り子になることを選んだんだ。私やスピラやユウナを救いたかったから、信念に殉じることが出来たが…やはりジェクトは無理をしていたのだろうな」





ブラスカさんの弱音を、少し聞いた気がした。

ジェクトさんは、無理をしていた…。
ブラスカさんはそんな風にも考えていたのか…。




「で、でも…ジェクトさん、言ってましたよね。ヤケになるなって言ったアーロンに、ヤケじゃねえ、俺なりに考えたって」





あたしはエボン=ドームで見たことを思い出して、言葉を探した。

あの時のジェクトさんの想い…。
直接本人に聞いたわけじゃないから、今は想像するしかない…。

でも確かに、ジェクトさんはそう言っていた。

無理をしていた…。

そりゃ、命を賭けたのだ。
ティーダのことや…心に残したものは、あったと思う。

でも、本人も言っていたように、俺なりに考えた…。
理由、多分…色んな思い、折り重なって…。

無理をした、それだけじゃないと思う。





「そうだぜ!わ、わかんねえだろ!子供に胸を張れる父親でいたかったのかもしれねえ!」

「そうだな…息子に恥ずかしくないように自分を奮い立たせた可能性だってあるさ」





バレットやサッズもフォローしてくれた。
娘や息子を持つふたりの言葉だから、重みはある。

すると、それを聞いていたアーロンが静かに口を開いた。





「それもあるだろうが…奴はブラスカをひとりで死なせたくなかったのだろうな…」





それを聞いて、あたしははっとアーロンを見た。
いや、あたしだけじゃない。

サッズやバレット…ブラスカさんも反応した。

ブラスカさんを、ひとりで死なせたくなかった…。

そう…。
それは、きっと…その想いはあっただろうって、確信にも近いくらいに思える気がした。

なにより…同じ立場にいた、アーロンの言葉だから…。





「そうだよな…お前らは親友なんだもんなぁ…」

「あいつは無限の可能性なんてないと言った口で、無限の可能性に賭けてみるかとほざいたんだ。どうしようもなく嘘が下手で、救いようのない馬鹿で…!」





納得したバレットの声に、あの当時を思い出して言葉を続けるアーロン。
その声は少しずつ、感極まって、震えて、詰まっていく。

掛ける言葉、見つからない…。
そっと「アーロン…」と、名前だけ口にして腕に触れる。

エボン=ドームで過去を見た時…あたしも震えた。

本当に、その瞬間…ふたりの傍に、あの場にいたアーロンは…きっと、もっと…もっと。

何度想像しても、苦しくて。
でもきっと想像なんて、しきれなくて。





「だが、唯一無二の友だ。…思い出させてくれたな、アーロン」





すると、ブラスカさんはそう言ってアーロンに微笑んだ。

その顔は何だか少しだけすっきりしているような。
今のアーロンの言葉で、何か大切なことを思い出したみたいに。

この流れ、きっと悪くない。

諦めたくないって、さっき思ったよ。
それならば、暗い空気、吹っ飛ばすように…。

あたしはすうっ…と思い切り息を吸い込んだ。

そして。





「あーーーーーっ!!!」





っと叫んだ。
すると皆がビクッとした。

でも、そんなのお構いなし。
そしてただ、ニコリと笑って見せる。

うん、この感じ、なんかちょっと懐かしい。

あたし、エボン=ドームでもこうしたよね。

それを知っているアーロンだけは、フッ…と小さく笑っていた。





「気合は入ったか」

「うん、ばっちり」





にいっと笑って答える。
するとサッズやバレットから突っ込みが入った。





「おお…急にどうしたどうした。驚いてひなチョコボも出てきちまったぜ」

「突然叫ぶんじゃねえよ、びっくりするだろうが!」

「気合入れたの!あと、空気の入れ替え。今、悪くない流れだったから、一気に暗いの吹っ飛ばしてみました!あと単純に大声出すとすっきりする!あたしが!」

「お前がかよ!…へえ?ま、まあ…なんか今ので色々ぶっ飛んじまった感はあるが」




なあ…とひなチョコボに声を掛けながら頷くサッズ。
するとブラスカさんは口を開けて笑った。





「はははっ!ナマエ、やはり君のそういうところは武器だね。よし、頭を冷やしたところで対策を講じよう。以前はどうやって捕らえたんだ?シンの動きを止めたのか?」




そしてブラスカさんは考え出した。
ちゃんと、皆で笑えるためにどうするべきか。どんな方法があるか。

以前はどうやってシンを捉えたか。

あたしとアーロンは顔を合わせた。




「えっと、祈りの歌です。いーえーゆーいーっていう、あれ」

「あいつはエボンの歌だけに反応したからな。世界中の人間に歌ってもらい、注意を引いた」

「なるほど。判別する理性は残っているのか…。だが、ここでは難しいだろう…」





空飛ぶ船が祈りの歌をうたう。
そうしてスピラ中の人に歌ってもらったんだ。

パインも歌ってくれてたって、後で教えて貰ったっけ。

だけど、確かに今この場においては現実的ではないだろう。





「辛いですね…先ほどまではあんなに楽しそうに過ごしていたのに」

「ああ…」




アミダテリオンが気遣ってくれる。
ブラスカさんも頷いた。

だけどその時、ブラスカさんは今の言葉から何かヒントを得たみたいにハッと顔を上げた。




「それだ!まだ手はあるぞ!」




急に喜び出したブラスカさん。
それを見てあたしもアーロンも首を傾げていた。


END
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