罪の力


ティーダとアーデンを連れて戻ったあたしはシーモアと対峙する皆に加勢した。
シーモアはひとり、数的にもこちらの方が優勢のはず。

ブラスカさんが狙いなら、とにかく追い払えればそれで阻止は出来る。

すると大技を決めるように、ジェクトさんが剣を振りかぶった。




「おらああっ!!」

「…愚かな」




でもその時、シーモアはジェクトさんに向かって何かを放った。

禍々しい、何か。

まるでシーモアはそのタイミングを見計らってたみたい。
ジェクトさんはモロにそれを受けてしまい、どさっとその場に崩れ落ちた。





「ぐっ…!て、てめえ…何しやがった…!」

「ふふ…その様子…やはりお前が適していたか」

「なに…!?ぐううっ…!」





目論見は成功したというように、妖しく笑うシーモア。

崩れ落ちたジェクトさんは何かに耐えるように苦しんでいる。
そしてその体からは何か嫌な気が溢れ始めていた。

まるで空気を淀ませるような…。





「どうしちまったんだよ、オヤジ!うわあっ!!」

「ティーダ!あの気配は…」





近づいたティーダは触れる事すら許されず、その嫌な気に弾き飛ばされた。
アーロンが咄嗟に手を伸ばし、その体を支える。

そうして窺ったその気配は、徐々に大きくなっていっているのがわかった。

するとその一部始終を見ていたアーデンがハッとしたように言う。





「まさか淀みの断片か!?」





その言葉にあたしたちはバッとアーデンを見た。

淀みの断片…!?
まさかそれをジェクトさんに入れたの!?

驚くあたしたちを前に、シーモアは否定することなくふっと笑った。





「流石はアーデン殿、ご明察です。愚かにも人を雑魚と侮るだけのだけの事はある」

「なに訳のわからないことを…こんなのはだたの八つ当たりだろ」

「いいえ。気づかせていただいたお礼です。大召喚士ブラスカ様への…」





アーデンに八つ当たりと言われたシーモアは首を横に振り、そしてその視線をブラスカさんへと向けた。
当然、ブラスカさんは聞き返す。





「なに…?」





ブラスカさんとシーモアの視線がぶつかる。

するとシーモアはまた小さく笑った。
でも、その表情は少しずつ、まるで嘆くかのように歪んでいく。





「死だけが…。そう、死こそが苦しみから解放される唯一の手段だったのに…あなたの出現はユウナ殿に幸福をもたらした…これは由々しき事態だと思いませんか?やはりこの世界は歪んでいる。早急に全てを終わらせなければ。そう決心させてくださったのは、ブラスカ様…あなただ」

「やめてください…!おかしいのはあなたです!」





父に歪んだ言いがかりをつけるシーモアにユウナは言い返す。
でもシーモアはそんなユウナを憐れむように見る。





「ユウナ殿…なぜ分からないのですか。あなたとて遺された側でしょうに…!」

「わ、私は…!」

「ユウナ、いい。無理に言い返さなくて」

「ナマエ…」





あたしは言葉に詰まったユウナの肩に触れた。
そうして隣に立ちシーモアを睨めば、シーモアはくすりとあたしに笑った。





「ふふ…その上等な瞳、貴女も変わりませんね、ナマエさん。貴女も失う辛さに苦しんでいるでしょうに」

「あんたこそ、何度言ってもわからない人ね」





じっ、と睨むことをやめない。

すると、隣でキン…と刃が光った。
それは守るように差し向けてくれたアーロンの太刀。

ありがと、アーロン。

でも、今は変に言い返さない。
だってそんなこと言ってる場合じゃない。

ジェクトさんは、今なお苦しんだまま。

でも、シーモアの方もあたしたちに自分の考えをわからせることが目的ではないのだ。
むしろ奴の目的は、もう果たされたに等しい。





「ふふ…安息の大地など結構。すべてのものにあまねく死を」





言いたいことだけ言い、シーモアはその場からふっと消えてしまった。

残されたのは、淀みの断片を埋め込まれて苦しむジェクトさん。

あいつ…ジェクトさんを見て、やはりお前が適していたかって言った。
多分シーモアがここに現れたのは、ジェクトさんに淀みの断片を入れることだったんだろう。

狙いははじめから、ブラスカさんじゃなくてジェクトさんだった…。





「そんな…」

「彼は何をしたんだ。この禍々しい気配は、まさか…」





ユウナとブラスカさんがジェクトさんの傍に寄るけど、禍々しい気配は増すばかりでどうすることも出来ない。

この力は…。

淀みの断片がどういうものか知らないブラスカさんも、その気配を察したのかもしれない。
だってきっと…これは…。





「あんた、知らないのか。淀みの断片を沈める方法は!?」

「本人の意志で抑え込むしかないだろうな…。でなけりゃ、飲み込まれるだけだ」





アーロンがアーデンに詰め寄る。

今この場で一番淀みの断片の知識があるのはアーデンだ。
でも、アーデンもその解決法は本人が抑え込むしかないと言う。

その言葉はジェクトさんにも届いただろうか。





「ぐううっ…!」





呻くジェクトさんは、立ち上がってひずみを開いた。
あっ、と思った時にはもう遅い。





「オヤジ!!」





ティーダが慌てて手を伸ばす。
でも、それは届くことなく、ジェクトさんはひとりひずみに飛び込んでその場から消えてしまった。

きっと、長くは抑えきれない…。

本人がそう思ったからだろう。






「ジェクトさん…シンにされちゃうの…?」

「くそっ!!シーモアの野郎!!」





不安げにユウナが声を震わせ、消えた父親の姿にティーダがダンッと地面を蹴る。





「あいつ…本当に世界を壊すつもりなのか…」





アーデンが呟く。

シーモアは、死こそ救いと言う。
安息の大地など、嫌悪の対象でしかない…。

アーデンの言う様に、シーモアはシンの力で、この世界を壊すつもりなのだろうと思った。




END
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