老師の企み


ブラスカさんが見たいと言ったザナルカンド遺跡。
色々と思い入れのある場所ではあるけれど、今は皆笑っていることが多かったと思う。

アーロンやジェクトさんの心の引っ掛かりも少しずつ解かれていって…。

だけど、そんな穏やかな時間に…水を差す存在があった。





「ねえ、ナマエ。父さん見なかった?」

「先程から姿が見えない」

「え?ブラスカさん?そういえば見てないね」





歩いていた時、ふとユウナとキマリに聞かれたこと。
それはブラスカさんの姿が見えないという話だった。

さっきガラフたちと話してるのは見たけど…それからそこそこ時間は経ってる気がする。




「アーロン」

「ああ、聞こえている。俺たちもしばらく見ていないな」




あたしはアーロンにも声を掛けた。

するとその会話は近くにいたアーロンとジェクトさんの耳にも入ったようで。
そこで少し道を戻ってみようかという話になり、今いたそのメンバーでその場から引き返した。

その先に、ブラスカさんはいた。
でも同時に、その傍には…シーモアの姿があった。





「ブラスカ!!」





一番にシーモアに気が付いたジェクトさんはいち早くブラスカさんに駆け寄った。

あたしたちもすぐに後を追う。
そしてブラスカさんを守るように皆でシーモアとの間に立った。





「父さん、離れて!この人に近づいちゃだめ…!」

「これは皆様、お揃いで…」





あたしたちの姿を見たシーモアはいつものように薄い笑みを浮かべた。

ブラスカさんにはまだシーモアがどういう奴なのか、説明出来てなかった。
大召喚士たるブラスカさんのことをシーモアは知っているけれど、ブラスカさんの方はまだ認識出来ていないだろう。

その隙をついてくるなんて。

本当、油断ならない奴…!





「何を企んでいる?ブラスカを仲間に引き入れる算段か?」

「クク…無粋な方々だ。私の真意が知りたいと?ならば試してごらんなさい。あなた方の…お気の済むまで」





アーロンが聞けばまたシーモアは笑う。

シーモアの真意…。
どうせろくでもないことに決まってる。

そうとなれば見逃すことは出来ない。





「父さんに近づかないでください…!」

「ブラスカを悪だくみに利用しようってんなら、俺らが許さねえぞ!」

「すっかり嫌われたものですね…大召喚士様へのお目通りすら許されぬとは」





ユウナとジェクトさんが武器を向ければ、やれやれというかのように首を振るシーモア。
するとその時、アーロンがあたしに小さく声を掛けてきた。





「ナマエ。ティーダを呼んで来い」

「えっ?」

「近くにいたはずだ。他にも手が空いている者がいれば」

「…わかった!」





シーモアが何かしでかす気なら、人手はあるに越したことはない。
それに当事者であるならなおの事。

確かにティーダもそう遠くには行っていなかったはず。

あたしは頷き、ティーダがいるであろう心当たりを探しに行った。





「ティーダ!!」

「えっ、ナマエ?」

「早く来て!大変!」

「え!?ちょ、何がスか!?」





ティーダを見つけたあたしはガッと彼の腕を掴んだ。

いきなり腕を掴まれ、そして結構な剣幕であっただろうあたしに困惑してるティーダ。
でも困惑とか今はどうでもいい。とりあえず今はとにかく早く来いって話だ。

するとその時、目の端でふっ…と黒めの服の男が通るのが映った。





「っ、アーデン!貴方も!一緒に戦ってくれるなら来て!」

「はあ?」





映ったのはアーデンだった。

咄嗟に声を掛ければアーデンは振り向く。
その顔はしかめられていたけど。

アーデンは今、あたしたちと行動を共にしている。

色々と、まあ利害の一致とか…。
本人は素直に手を貸すとは言わないけど、結構一緒に戦ってくれてる。

声を掛けたのは、本当に咄嗟の判断。
でも今回はシーモアのことだから、アーデンが来てくれると良い気がして。





「シーモアが何か企んでるみたいなの!だから!」

「っ、シーモア!?」

「…へえ」





シーモアが何か企んでる。
そう言えばふたりの顔色が変わった。





「それを先に言えって!どこッスか!!」

「ふうん…企みねえ。いいよ、手伝ってあげるよ」





了承してくれたふたり。
まあティーダに関しては了承もくそもないけど。

とにかく、来てくれるならそれでいい。
早く戻らなきゃ!!





「こっち!!来て!」





あたしはふたりを案内するように先を走り出す。

シーモア…。
ブラスカさんを狙うなんていったい…。

ユウナにブラスカさんに…召喚士だから?
考えてもわからないけど…。

でも絶対とんでもないこと。
それだけはわかるから、とにかく早く。

こうしてあたしはティーダとアーデンを連れ、シーモアと皆がいる場所まで走った。



END
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