留める思い出
「そんなこともあって、師匠からは背後からの攻撃を捉え切れていないと…」
「あ〜、落ち込むなって!逆に言うとだな、一点集中は出来てるっつーことだ」
今、アーシュラは父親であり師匠であるヤンから叱りを受けたらしく落ち込んでいた。
それを励ましアドバイスするのはジェクトさん。
「それを全方位に向けられりゃバッチリなわけだ。難しいだろうが、うまく工夫すりゃいい」
「私に出来るでしょうか。力不足で叱られたばかりなのに…」
「ヤンだって期待してなきゃ叱らねえよ」
ブリッツの一流選手であることに加え、息子もまたブリッツの選手であるという点はヤンとアーシュラ親子とどことなく似通っているのかもしれない。
それにジェクトさんのアドバイスは、はた目から見ていても流石だなあって思う。
褒めるべきところは褒め、そして着眼点も的確。
ティーダにもこうならいいのにね。
息子相手だと褒めの部分がすっとんでからかいに変わっちゃうんだよなあ。
その辺が本当不器用な人である。
「俺でよけりゃ練習相手になってやるぜ」
「よろしいのですか!?」
「もちろんだ!おい、アーロン、スフィアで撮っといてくれ」
ジェクトさんは相手役をかって出つつ、傍にいたアーロンにスフィアでの撮影を指示した。
それを聞いたアーロンは過去にあったとあるやり取りを思い出した様子。
「昔ブリッツの試合を撮ったことがあったが…またこれを見て研究するのか」
「撮ってたね、ルカに行った時に。でもそれいいと思うな。自分の姿見てみるってそれで気づくこと絶対あるよ」
あたしも懐かしさに頷きながらジェクトさんに賛成した。
わりとなんでもビデオに撮って確認するってあるよね。
「ああ、自分の動きを見せた方がアーシュラだってわかりやすいだろ。んじゃ、どっからでもかかってこい!」
「はい!よろしくお願いいたします!」
ジェクトさんが剣を取り出すと、アーシュラは礼儀正しく一礼して拳を構えた。
アーロンは言われた通りにスフィアを向け、ふたりの動きを撮影しはじめた。
あたしはそうして励むアーシュラの様子を微笑ましく見ていた。
「あはは、なんか懐かしいね。昔、アーロン結構撮影係だったもんね〜」
「係になった覚えはないがな…」
一通りの技を試すと、休憩をはさみつつジェクトさんとアーシュラはスフィアの確認を始めた。
やっぱり撮影して外から自分の様子を見れるのはアーシュラにとってもわかりやすいらしい。
ジェクトさんとふたりでああした方がこうした方がって真剣に見入ってる。
あたしとアーロンはそんなふたりの様子を少し離れて眺めていた。
「うーん、でもさ、スフィア構えてるイメージが一番強いのはアーロンだな〜。実際見直した時もアーロンの撮影率高いなって思ったもん」
「ジェクトやお前が撮れと渡してくるからじゃないのか」
「えー?そう?でも最初はどうして俺がってふって腐れてたのにいつの間にか普通に撮ってくれてたよね」
「まあ…残しておくことも悪くないと思う様にはなったからな」
過去の話。
最初、わりときっかけと言うか、スフィアを撮ることに積極的だったのはジェクトさんだった。
新しいところに着いたり、何かと目新しいものがあると撮るぞって提案するの。
で、実際スフィアを持たされてることが多かったのはアーロンだなって。
「うん、アーロンがスフィア持ってるのはやっぱしっくりきたわ」
「…知らん」
うんうん、なんとなく感じるこれこれ感。
するとアーロンはため息ついてた。
どうでもいいって感じ。
そこでひとつ、あたしは閃いた。
「あ、じゃあ今度は撮ってもらう?」
「もらう?」
「うん。魔法剣とか」
「なんだ。今更気になるところでもあるのか」
「ううん。でも一回自分でも見てみたいのはあるかも。それにそれも、残しておくのは悪くないなーって」
アーロンと、もう何度も使用している魔法剣。
スピラでもこの世界でも、もう何十…いや、百なんてとっくに超えてるはず。
だから今更これといって気になる部分は無いけど。
ただ使ってるところを自分でも見てみたいって、それは単純な興味だ。
「自分で言うのはなんだけど、技としての精度も悪くないよね?」
「まあ、アレだけ使っていればな」
「うん。てことは見栄えもそこそこなんじゃないかなあと思うわけですよ。だからね!ちょっとやってみませんかーって」
「まあ、構わんが…」
「やった!」
よっしゃ、と喜ぶ。
するとアーロンは「フッ…」と笑った。
それを見て首を傾げる。
「なんで笑う?」
「いや、嬉しそうだと思っただけだ」
「うん。結構楽しみ」
素直に頷く。
すると頭にぽん…という手が落ちてきた。
END