夢の話


淀みの断片。
それは、とんでもない力だった。

カダージュや他の世界の皆の手も借り、なんとか倒すことが出来た天使の姿をしたセフィロス。

すると、ひとつの光がゆっくりとクラウドの元に落ちてきた。





「間違いない。これは俺の…光の羅針盤だ」





光を手にしたクラウドはそれを確認し、頷く。

再び本来の持ち主の手の中に戻った光の羅針盤。
それを見たあたしはザックスと一緒に喜んでクラウドに笑顔を向けた。





「やったー!クラウド!」

「やったな、クラウド!」

「ざまあみろ、あんたには使えないんだよ」





するとそこにひとつセフィロスをあざ笑う声があった。
それはカダージュのもの。

…思念体って言ってたのに、結構な物言いだな。
いや、正直あたしも思ってることだから全然いいんだけど。

ざまあみろ。うん、ざまあみろだ。

でも、セフィロスがその表情を崩すことはない。
彼はついていた膝を地面から離し、ゆっくりと立ち上がった。





「クックック…。私のものにはならない、か…」





笑ってる…。
何でこの状況で笑うのさ…。

相変わらず、どことなく不気味と言うか…。

そしてその姿勢はまだ諦めていないようにも見えて…。

その様子にティナがきゅっと手を握り締めて尋ねた。





「まだ戦うつもりなの…!?」

「…抜け落ちた光なくしては無意味だ。必要あるまい…今は、な」





セフィロスは静かに答える。

必要あるまいって事は…とりあえずは諦めたってこと?
でも、抜け落ちた光って…。

なんだか抽象的でいまいちよくわからない。





「なんだって…?」





ザックスが聞き返す。
でもそれには答えることなく、セフィロスはヒュ…と、その場から姿を消してしまった。





「くっ…逃げられたか」

「だが、光の羅針盤は取り戻した。それでいい…」





フリオニールが悔しそうに顔を歪める。
でもクラウドは当初の目的は果たせたとそれをなだめながら、自分の手に戻ってきた羅針盤をぐっと握りしめていた。





「そうだね。おかげでセフィロスを出し抜くことが出来たよ。あいつの邪魔をするためならいつでも手を貸すからね。それじゃ」

「あっ…カダージュ…」

「お、おう、ありがとな…」





そしてカダージュもまたそんなことを言い残してその場から去っていった。
ザックスと慌てて声を掛けたけど、まあ振り向くこともなく…。

あっちも本当、目的果たしたらもういいやって感じだ。

ザックスが言ってくれたからいいけど、お礼言いそびれちゃったなあ…。
カダージュの立ち位置はいまいちよくわからないけど、今一緒に戦ってくれたのは確かだからね。





「光の羅針盤は大丈夫?手を加えられたりしていない?」

「やめろよ、そういうこと言うの!ドキッとするだろ」





セフィロスもいなくなり、少し落ち着いてから改めて取り戻した羅針盤を見てみる。
一応、何も変わりないかと尋ねるオニオンナイトにザックスはぎょっとしていた。

あたしはひょこっと、クラウドと一緒にその羅針盤を覗いてみた。





「んー、と…別に変わりなさそうだけど。ね、クラウド」

「ああ。問題ない、けど…少し不思議な気持ちになるな」





クラウドはじっと手の中の光を見つめていた。

不思議。
それは、決してマイナスの意味ではない。

優しい輝きを放つ、光の羅針盤。





「ふふっ、あたたかい?」

「ああ。前のリーダーの事は覚えていないが…どうしてだろうな、どこか懐かしくて…」





微笑んだティナにクラウドは頷く。

でも、そうして声を掛けてくれたティナのことをクラウドはふと、じっと見てた。
そしてそれを不思議に思って声を掛けてくれたフリオニールの事も。





「…どうした?」

「以前…あんたとティナと夢の話をしたような気がする」





夢の話?
クラウドが、ティナとフリオニールと?

なんだか漠然とした話。

ふたりも心当たりはないようで首を傾げていた。





「夢?夢って…どんな?」

「花がどうとか…だが決して悪くはない夢だ」





ティナに尋ねられ、そう話すクラウド。

花…。

なんだかクラウド自身が曖昧そう。

でも、話す表情は柔らかい。
詳しい部分はあやふやだけど、本人の言う様に悪い思い出ではなさそうだ。





「そんな話してたのか?3人で?」

「…いや、ナマエとも話した気がする」

「えっ、あたし?」





ザックスに聞かれ記憶を探ったクラウドはその視線をあたしにも向けてきた。
急に振られてあたしは思わず自分の顔を指さした。

花…。クラウドと花の話…。





「ええと…エアリス、っすかね?」

「…まあ、俺とあんたで花って言ったらそうなるな」

「…ダヨネ?」

「けど、違う。それとはまた別に、ナマエとも話した」

「そう、だったっけ…?」





うーん、と少し考えてみる。

クラウドとした花と、夢の話。
ティナやフリオニールにも関係したこと。

すると、それを聞いていたオニオンナイトが可能性の話をしてくれた。





「もしかしたら前の世界であった出来事なのかもしれないね」





前の世界…。
あたしたちは前の世界でいたはずのリーダーの記憶を失った。

それと同じように、もしくは関連づいて消えてしまったかもしれない記憶…。

でも、クラウドが言うならきっとあったんだろうなって、あたしはそう思う。
そしてそれはきっと、羅針盤の光のようにあたたかなものなのだろうと。





「そうか。花か…。きっと希望のある話だったんだろうな」

「うん、あたしもそう思う!花が咲くって明るいもん。前向きな話だよ、きっと!」

「ええ、素敵ね!」





フリオニールと、あたしと、ティナ。
以前、クラウドと話したというあたしたちは揃ってそんな印象を抱いた。

なんでだろう。
でも、不思議と優しくてあたたかなものだって思えて。





「あの人にも聞いてみたいわ。覚えているかもしれないんでしょう?」

「うん…そう願うよ」





そしてティナの言葉にオニオンナイトもコクリと頷く。

あの人…。
記憶から消えてしまったリーダーも、覚えてくれているのかな。





「クラウドの光の羅針盤も取り戻したし、絶対会いに行けるって!」

「そうだね。これでまた一歩、あの人に近づいたんだ!」





ザックスに励まされたオニオンナイトは笑みを浮かべえて頷く。
うん、すべての羅針盤が揃ったら、きっと会いに行ける。





「クラウド、もう無くさないように、だね!」

「…肝に銘じておく」

「あははっ、ごめん!でも、その花の話も思い出せたらいいね。あたしも思い出したい」

「ああ。そうだな」





クラウドと、どんな風に話したのかな。
思い出せたらいいって、それはあたしの素直な気持ちだ。

クラウドと顔を合わせ、ふたりで微笑む。

なんにせよ、クラウドの羅針盤を無事に取り戻せた。一歩前進。

きっと少しずつ、記憶の彼方にいるその人にも近づけているはずだから。



END
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